ましろちゃんの周りは妖怪異で満ち溢れている。

柳葉 円

第四ノ怪『鈴童 周は性格イケメン』

 
 





 ましろが妖怪という存在を知ってから一週間が経った。そしてその記念すべき(?)七日目に、事件は起こった。












 綾崎あやさき ましろはいつも通り、教室の扉を開け、教室に入った。そう、いつも通りだ。
 今日もいつも通りの一日が始まる。そう思っていたのになんということだ、この状況。

 ましろの左右の席には昨日まで座っていた男子の姿は無く、打って変わって、ましろから見て右の席には、白銀のゆるふわショートボブの美少年。(どう見ても小学生くらい)そして左の席には、美少年に比べれば背は大きいが、高校生にしては小柄な寝癖黒髪イケメン(仮)。
 普通の女子高生ならここで「トゥンク♡」なって、どちらかの男子と恋物語を始めていくというありきたりな展開になっていくはず(?)なのだが、ましろは二人の襟首を掴むと、ズリズリと引きずりながら廊下へ出ていく。

「なんでアンタ達が学校にいるのよっ!!(小声)」

 そう、この二人、見た目は普通(?)の人間だが、実は「妖怪」である。そしてなぜこの妖怪である二人が人間の姿をとって学校にいるのかというと、

「閻魔大王様の命令じゃもーん」

 寝癖黒髪イケメン(仮)こと、酒呑童子は悪びれずに言う。

「命令も何も、人間に化ける必要はないでしょ!?(小声)」

「しょうがないだろ。それも閻魔大王…様の命令だし」

 ショートボブの美少年こと、すねこすりは無表情で言う。

「じゃあしょうがないか…」

(いいのかよ…)

「元々私の隣だった男子はどうしたの?」

閻魔大王えんまだいおう様の力で皆の記憶を上書きし、違うクラスに移した」

「閻魔大王様スゲエエエェェェ!!」

 ましろはキラキラした目で閻魔大王を褒め称えたが、すぐに不安そうな顔になる。

「あ、でも生徒でもない人がここにいたら怪しいんじゃない?」

「閻魔大王様の力で皆の記憶を上書きし、初めからこの学校に通っているということにした」

「閻魔大王様スゲエエエェェェ!!…あ、でも、」

 むしろはふと気づいたように二人に向き直る。

「アンタ達…、勉強できるの?」

 酒呑童子はドヤ顔でましろを見下し、

「ワシはこれでもお主の百倍は最低でも生きておる。わっぱの勉学なぞ朝飯前じゃ!」

 と、ふんぞり返る。すねこすりも、「そうだ、馬鹿にするな」と、ましろを睨んでいる。

「…へぇ。まぁ、日本語での授業、教科はまだ大丈夫だったとしても、「英語」という最強のラスボスがいるからね」

 すねこすりと酒呑童子は「「英語?」」と、揃って首を傾げる。
 その様子にましろは(ちょっと可愛いかも…)とか思ったりしたが、すぐにブンブンと首を振り気を引き締めると、二人に詰め寄る。

「アンタ達英語知らないの?」

「「うん」」

「全く?」

「「まったく」」

「じゃあアルファベットは?」

「「あるふぁべっと?ナニソレ?美味しいの?」」

「ぶん殴るわよ」

「「すみません…」」

ーーこれは困ったぞ。

 ましろは「うーん」と悩む。
 数学は足し算引き算掛け算割り算などができて、かつ公式覚えさせればなんとかなりそうだし、国語は二人はできるだろうし(むしろ古典・古文得意そう…)、科学は…、実験で問題さえ起こさなければ大丈夫(?)でしょ。社会も地理・歴史二人ともどっちもいけそうだし…。
 問題は英語だ。







ー第五回、脳内会議をはじめます。気をつけ、礼。

「「「「お願いします」」」」

ー今回の議題は、あの二人は「英語」を知らないという事でしたがこれからどうすべきかです。なにか意見がある人ー?

ーはーい!「英語」を知らない時点で論外だと思うので即刻帰すべきだと思いまーす

ー上に同意

ーでも閻魔大王とかいうえらーいお方が手配してくれたんでしょ?勝手にあれこれしたら私怒られちゃうんじゃない?

ー妖怪達の頂点に君臨する妖怪の王とか言われてる位だし、もしかしたら「愚かな人間がうんたらかんたら」って殺される可能性も…

ーそれだけは絶対に避けたい

「「「「それな」」」」

ーじゃあ一から英語を教えるしかないんじゃない?

ーいや無理でしょ。高校一年の一学期も終わりを迎えようとしてるんだよ?今からじゃ間に合わないでしょ

ーあっ!じゃあ夏休みを全て費やして英語を教え…

「「「「却下」」」」

ー英語赤点常習犯のこの私が英語を教えられると思うのか?

ーですよね、すんません

ーじゃあどうするー?

ー参考書でも渡しておけばなんとかなるんじゃない?

ーでもアイツらアルファベット知らないって言ってたよ?参考書買ってあげても理解できないんじゃない?

ーというか中学校からやらせた方が正解だと思う

ーでもそれだったら私いないし、アイツらもう学校通わなくて良くない?

ーまぁ、確かにそうなんだけど、うーん…

ーハッ!!

ーどうしたの?

ー閻魔大王様とやらに英語そのものを消してもらえば…!!

ーそれだァ!!

ー天才かよ私!

ーでも英語自体を消したら世界がヤバいことになりそうだから教科だけを消してもらおう

「「「「異議なし」」」」

ー結論が出たのでこれにて会議を終わりにします。気をつけ、礼。

「「「「ありがとうございました」」」」

ー解散!!





「すねちゃんすねちゃん!!」

「…それはもしかしなくても僕のことか?」

 すねちゃん呼びをされ、すねこすりは不愉快極まりないといった顔をしているがましろは気にしない。

「もういっそのこと閻魔大王様に頼んで…」

「英語とやらを消してもらうというのは無しだからな」

 すねこすりは完全にましろの思考を読み取っていたようで、ましろが言い終わる前に却下する。

「(´・ω・`)」

「そんな顔したってダメなものはダメだからな」

「(´;ω;`)」

「…おい、本当はお前が英語とやらを消したいだけなんじゃないか?」

「…チッ」

「今のその舌打ちは肯定と判断するからな」

(一瞬にして考えを否定されてしまった…)

 ましろは「むぅ…」と頬を膨らませる。その様子に苦笑しながら、酒呑童子はましろの片頬を「プスー」と潰し、言う。

「ワシもそうしたいところじゃが閻魔大王様はきっと許してくれんじゃろう。まぁ、頑張ればなんとかなるじゃろ」

 すねこすりも「うんうん」と、どこか自信ありげに頷いている。

ー「頑張れば」とかそういう次元ではないのですよ。妖様共…

 そうましろは言いたかったが、二人の「これから頑張るぞ」という、明るい未来しか見えていないポジティブシンキングなキラキラオーラが、それを許してはくれなかった。
 ましろが「はぁ…」と小さくため息をつくと、不意に「おい」と、声をかけられた。その声は女子のものだが、ましろのように可愛らしいものではなく、ハキハキとした聞いていて気持ちの良い声だった。
 横を見るとスポーティなショートカットが良く似合う黒髪男s…、オホン、女子が立っていた。ましろと同じ黒いセーラー服だが、プリーツスカートの下に白い一本のラインが入ったハーフパンツを穿いている。どちらかというとツリ目なそれは、やる気の無さそうな無気力な目をしている。しかし、顔立ちは整っており、男子よりも女子にモテそうな感じだった。

「ああ、おはよう。周ちゃん!」

 周と呼ばれたこのスポーティガールは、鈴童りんどう あまね。ましろの一番の親友だ。
 周は「おー」と適当に挨拶を済ませると、二人の男子の方に顔を向ける。

「なあましろ、コイツら誰?転校生?」

「「!?」」

 ましろと酒呑童子はギョッと目を丸くし、冷や汗をかく。一方すねこすりは無表情のまま周を指差し、むしろに向かって言う。

「なんだこの人間、口悪いな」

「そういうことじゃないでしょ!?」

 ましろはすねこすりの頭を引っ叩く。すねこすりは無表情のまま「痛い」と頭をさする。

「閻魔大王様の力で皆の記憶を上書きして始めからこの学校に通っているっていうことにしたんじゃなかったの!?」

 すねこすりはやっと気づいたようで、無表情を崩し慌てふためいている。

「え、でででも、えええ閻魔大王がががきおくをやってくれたた、たはずだだだよなななな???アレ?アレレレ?」

「落ち着け!」

 酒呑童子はすねこすりの頭を酒瓶でぶん殴る。すねこすりは涙目で「痛い」と頭をさする。酒呑童子は腕を組み難しい顔をする。

「それにしてもおかしいぞ。閻魔大王様の力はそういう類・  ・  ・  ・  ・の人間以外には絶対のはず…!!」

 その発言にましろはピーンと来る。

「周ちゃん、確かひいばあちゃんだかなんだかが幽霊とかそういう系見える人って言ってたよね?」

「ああ、言ったな。それよりましろ、コイツらd…」

「それだ!!」

「?」

 酒呑童子は「どういうことだ?」と眉間にシワを寄せる。

「酒呑さん!周ちゃんそういう類の人間だよ!多分!!」

「なるほど!これで辻褄があったな!!」

 ましろと酒呑童子は手を取り合い、「アハハ♫ウフフ♫」とアルプス一万尺を始める。
 しかし、それを周がましろの頭を鷲掴みにし、持ち上げたことでそれは強制的に終了してしまった。
 周は本当に人間かと疑ってしまうほど殺気に満ちたオーラを放ちながら言う。

「ましろ、何度も言わせるんじゃねぇ。コイツらは誰だ?」

「イダダダダ!!えっと、この人達は…、…ッッ!!」

 ましろを持ち上げた周に「いつの時代も女は強いな…」などと呆然としているすねこすりに、ましろは視線で語りかける。

ーアンタらの正体言ってもいい?

 すねこすりは金色の瞳を鋭く光らせ、ましろを睨みつける。

ー言うなよ。絶対に言うなよ。頼むから言うなよ。言ったら殺す。マジで殺す。

 ましろはコクンと力強く頷くと、

「このボサボサな方が日本三大悪妖怪?だっけ?の、酒呑童子さん!こっちの美少年は妖怪のすねこすり!」

 すねこすりは周からましろを取り上げると、今度はましろは顎を鷲掴みにされ持ち上げられる。しかし、すねこすりの背的にも限界があり、一、二センチ程しか地面から離れていない。
 すねこすりは怪獣みたいに口から蒸気を吐き、視線だけでましろを殺さんとばかりに鋭い光を放ち睨みつける。

「なんで正体バラした?どう考えてもあれは「言うな」っていう顔だったよな?どういう風に見たら「言っていいよ」の顔に見えるんだ?ワザとなのか?それともお前の目は節穴か?お前にちゃんと目はあるのか?眼科にでも行くか?」

 すねこすりが怒るのも無理ない。妖怪とは元々忌み嫌われている種族。正体がバレれば表世界での生活が面倒くさくなる。
 そのすねこすりの様子に、ましろは焦って弁解する。

「ごごごごめんなさいいい!!フリ・  ・だと思ったんですぅぅぅぅ!!!」

 すねこすりは顎を持つ手に力を加える。しかし、そんなに痛くはない。ましろはこの手から逃れようと暴れるが、痛くはないが力は強く、ビクともしない。しかも、物理的な痛さは無いが、すねこすりの視線が痛い。

「言い訳無用だ。というか「ふり」ってなんだ。ブリの仲間か?」

 すねこすりは今にもましろを殺さんとばかりに睨みつける。

「ヒイイイィィィ!!!」

 この時ましろは、視線だけで人は死ねるんじゃないかと思った。

 ましろは涙目で「嫌だー!死にたくないー!許してー!」と首を振りながら許しを乞う。すねこすりはそれを無視し、「どうしてやろうかな」などとケタケタ笑っている。怖いことこの上ない。下衆だ。

「なんだ、コイツら妖怪だったのか」

「「「!?」」」

 顎を掴まれ恐ろしさのあまりにカタカタ震えていたましろ、ましろを持ち上げていた(?)すねこすり、それを見てゲラゲラ笑っていた酒呑童子の三人は、予想外すぎる周の言葉に耳を疑った。

「え?ビックリしないの?ビビらないの?妖怪だよ?」

 驚きからかぷるぷる指を震わせ周に聞く。
 周は「何言ってんだこいつ」みたいな顔をし普通に答える。

「え?めちゃめちゃビビってるけど?」

「は!?いやいやどこが!?嘘だあ!!」

「自分が着ようとしてた服の中にオオスズメバチが潜んでた時並にビビってるけど?」

「地味に分かりにくい例えだね!っていうか結構ビビってんじゃん!!」

「だからそう言ってんじゃん。それにしてもババa…曾婆ちゃんから聞いたことはあるけど、マジでいるとは思わなかった」

 そんな周に警戒しながらもすねこすりは聞く。

「お前は僕達妖怪をどうこうするつもりとかは無いのか?」

「は?あるわけないだろ。ビックリはしたけど妖怪ってだけで今の様子を見てると私達に危害を加えるつもりとかは無いんだろ?」

 すねこすりは深く頷く。

「ああ」

「いやいや、めちゃめちゃ危害加えてたよね?横断歩道で人転ばせたr…」

 すねこすりはましろの口をべしっと手で塞ぐ。

「こちらにそんなつもりはない」

「…なんでましろお行動を共にしてるのかは謎だけどそれなら問題ないだろ。もうそろそろセンセー来んぞ、こんなとこ突っ立ってねぇで早く教室入ろうぜ」

 周はスタスタと教室に入っていく。
 酒呑童子は周の後ろ姿を見ながら言う。

「あの娘の性格…なんとも男前じゃな」

「やっぱそう思う?周ちゃんかっけぇ…」

 すねこすりは、「妖怪」を受け入れてくれたあの器の大きさは、二人とも似ているな…と少し嬉しそうだった。

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