Dragoon→Dragon Knights

巫夏希

第四十五話 凶刃


「もうだめだ、ラインハルト。彼女には私たちの言葉は通らない!」
「いいや、まだだ! まだ何か術があるはずだ……!」
「だめだ! 急いでお前はアルシュに乗り込め! 私が何とか彼女を食い止める!」

 そう言ってノワールはUターンする。
 それを見たベッキーは、

『そうね、逃げる、逃げるのね! 後ろめたい感情があるから逃げるのね! あなたはいつもそうだった。あなたはいつもそうだった! そういうときがあるといつも私から逃げていた! でも、今回は許さない! 絶対、絶対に追いついてみせる! あなたは、私から逃げることが出来ないのだから……!』
「まずい、追いかけてくるぞ!」
「そんなこと分かっている! それにしても彼女があれほど病んでいるとはな……」
「病んでいる、ってどういうことだ? あいつは病気なんてしていない、健康体だぞ?」
「ああ、ああ、まあ、そうなるよな。いいや、何でも無いよ。とにかくお前はアルシュに乗り込んだら船を動かせ。いいな!」
「ちょっと待てよ、さっきの約束は……」
「できる限り守ろう!」

 そしてアルシュの甲板にラインハルトを置き去りにして、そのままベッキーの乗り込むシンギュラリティと対面する。

『ここから先は行かせない、ってわけね……。いいわ、試してあげる。もともとこの対ドラゴン用兵器だったシンギュラリティが、本物のドラゴンにどれほど効果を発揮するのかを!』

 そして、シンギュラリティとノワールの戦いが幕を切って落とされた。


 ◇◇◇


『彼奴め。釘を打っておいたにもかかわらず、ここでも作戦の枷となりに来るか』
『致し方あるまい。彼奴には作戦のすべてを教えていたわけでは無い。とどのつまり、どのタイミングでやってこようともそれは彼奴の責任ではない』
『然様。強いて言えば……「運が悪かった」というだけじゃな』


 ◇◇◇


 シンギュラリティとノワールの戦いは激しさを増していた。
 シンギュラリティがビームを撃ち、それを避けたノワールは炎を放つ。
 アルシュからその戦いを目の当たりにしていたラインハルトは、目を丸くしていた。
 まさかこんな至近距離で目の当たりに出来るとは思ってもみなかったことだし、今後戦うときの参考に出来ないかといろいろ見ているのだが――しかしその速度が人間の処理速度を追い越していては意味が無い。

「よっこらっしょっと。失礼するよ」

 突然、甲板の上で声がした。
 空間に突然浮かんだフープから誰かが出てきていた。
 老人にも見えるその姿は、群青色のローブを着ていた。いったい誰だと思っていたのだが――。

「ラインハルトくんだね?」

 ラインハルトに近づくと、一言それだけを述べた。
 何者か分からないまま、ゆっくりと頷くと、

「そうか」

 短く応答があった後――彼に衝撃が走った。

「な……んで?」
「済まないのう、ラインハルトくん。君には死んで貰わねばならないのだよ。これから先の世界を見せるには、少々酷だからのう」

 そして、ラインハルトはゆっくりと倒れていく。
 ナイフはそのまま空へ投げ捨てた。
 老人は未だノワールとシンギュラリティがラインハルトの死に気づいていないことを確認してから、操縦席へと移動する。

「さて、始めるとするかのう。世界の破壊と再生を」

 そして、一つのボタンを押下すると、アルシュの船底にあった砲塔からビームが発射される。
 そこで漸く彼女たちは異変に気づき始める。
 ビームにより無残に破壊され、燃え始める区々。
 それはいったいどういうことなのか――一人と一匹には分からなかった。

『あなた、いったい何を……!』
「ちょっと待て。それは私にも分からん……。ん? ラインハルトの生存反応が希薄になっている。何故だ! あそこは安全なはず。あそこには誰一人として立ち入ることが出来ないはずなのに!」
『アルシュを掘り起こしてくれて、どうもありがとうよ。ドラゴン』

 空に声が響いた。
 その声は彼にとって、嫌なほど聞いた――元老院の声だった。

「元老院! ラインハルトをどうした! まさか、殺したというのか!」
『彼は計画には邪魔だったのでねえ。非常に快適な運転をしてもらっているよ。このアルシュ、素晴らしいではないか。伝説にも語られていないが、流石、「世界を破壊した船」と言われているだけのことはある!』

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