Dragoon→Dragon Knights

巫夏希

第二十二話 惨状

「その通り。商業と報道が、このまま戦争を終わらせたところで何がある、という判断を下した。だからその場を私兵団が襲撃した。どこの誰かがそれを企てたかは定かでは無い。けれど、裏の情報では、ミスティルカ商業兵団かアブソリュート報道局の合同だと言われている」

 ミスティルカ商業兵団。
 アブソリュート報道局。
 いずれも国にこだわらずに商業と報道を続ける一派だ。国から文句を言われないように、お互いの領土は海上に建設されたフロート内に国土を持ち、そこから世界各地へ派遣する形を取っている。それぞれの国の法律にも触れていないから、別に問題ない――という考えなのだろう。

「ミスティルカ商業兵団とアブソリュート報道局か……。聞いたことは無いが、あまり好ましい組み合わせには見えそうに無いな」
「商業はまだしも、報道は『真実』を自由に書き換えることができるからな。それに、その二つは勢力としては一つの国と言っても過言では無いくらい大規模だ。だからこそ、できることなら相手にしない、というのがマナーであり、常識だった。成程、だからあまり報道も成されなかったわけだ」
「確かに。それならば話も分かる。では、この戦争を終えるには、その二つの組織にも敵対する必要があるということか。骨が折れるな」

 ブランの言葉を聞いて、ラインハルトは失笑する。
 落ち行くドワーフ兵を乗せた飛行兵器を眺めながら、ブランは首を傾げた。

「どうした、ラインハルト? 何か気になる点でもあったか」
「いや、少し面白かっただけだよ。それに……『骨が折れる』なんて人間らしい表現を知っているとは、ドラゴンらしくないな、と」
「儂らドラゴンは長寿の民だ。それにエルフと長年契約関係にあったこともあり、人間のような言葉遣いを知らないわけではない。それは……マギニアと戦ってきたおぬしなら知っていることだろう?」

 確かに、その通りだった。
 マギニアの兵士がエルフであることこそは知っていたが、マギニアの人間とドラゴンが深い関わりを持っていたことは知らなかった。否、それどころかブランと出会うまでマギニアの事情に精通してすらいなかったのだ。
 マギニアは、エルフが居ないとドラゴンを使役できない。
 つまり兵力が格段に落ちてしまうということ。
 とどのつまり、今のままではテスラーの圧勝で戦争が完結してしまう。
 それは、ミスティルカ商業兵団もアブソリュート報道局も認めたくない事実だった。

「ということは、復讐のために儂らを倒すべくドワーフに加勢する可能性もあるな」
「果たしてそうかな? 一応彼らも公明正大を世界に公表している連中だ。そう簡単に特定の種族と交流を持つとは思えないな。あくまでも公には、という話だが」
「裏では組んでいる可能性がある、と?」
「肯定も否定もできないがね」

 ブランとラインハルトの会話は終了し、彼らは戦場を駆け巡っていく。


 ◇◇◇


「さて……。雑兵どもはラインハルト殿に任せるとして、問題は残り。流石にすべてを裁ききることなどできないだろうからな」
「では、我々は残党を攻撃いたします!」
「任せた。私はここでラルタス殿を守る」

 そうしてアリア以外の、フィアーの私兵団は雑木林へと消えていった。
 残されたのはアリアと、フィアーと、ラルタス、そしてソフィーだった。
 アリアは、剣を構えたまま、ラルタスの元へ向かう。

「アリア、お前何をするつもりだ」

 しかし、それを制するように、フィアーが前に立った。
 だが、アリアは前に進む。
 そして、そのまま彼女の持つ剣はフィアーの身体を貫いた。

「アリア……なぜ……」
「邪魔なんですよ、あなたが」

 どさり、と倒れた音を聞いてようやくラルタスは振り返る。
 そして、倒れたフィアーと血まみれの剣を持つフィアーを見て、状況を把握する。

「……成程。あなた、もしかしてこの戦争にどちらかが勝っては困る人間ですね? あるいはその勢力に所属しているか」
「それをあなたが知る必要は無い」

 一閃。
 彼女の剣はラルタスの首を掻っ捌いた。

「……え」

 ラルタスの首はずるりと地面に落下する。
 ぼとん、と音を聞いて漸くソフィーの声帯は声を発することができた。

「きゃあああああああああああああ! あなた、あな、あなた、いったい、何を」
「簡単なこと。先程、聡明なお兄様が言われていたことですよ。私は、この戦争を早々に終わらせてもらっては困るんですよ」
「ひいっ、こ、来ないでっ!」

 ソフィーはゆっくり、ゆっくりと後退る。
 しかしそれよりも早く彼女の剣が――ソフィーの身体を捉えた。
 倒れゆく彼女の姿を見て、アリアは漸く一息溜息を吐いた。

「ふう。……後はこいつをなんとかすれば良いだけ」

 触れたもの、それはシンギュラリティだ。
 操縦者がいない今、こいつはただのでくの坊。そう思っていた彼女は早々に操作ができないようにコックピットに忍び込む手段を模索していた――そのときだった。
 めきっ。
 何かが破壊される音が聞こえた。

「……あ?」

 遅かった。
 アリアが知覚するよりも早く、シンギュラリティは彼女の身体を噛み千切った。
 ぐちゃり、ぐちゃり。
 咀嚼音が雑木林に響き渡る。
 ごくりと飲み込んだその後、シンギュラリティは天に向かい――叫んだ。
 それは、何かを呼んでいるような、そんな声だった。


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