Dragoon→Dragon Knights

巫夏希

第十話 兄妹

 ドワーフ自治領は、その領土を壁で囲われている。それはテスラーと変わらない。
 しかし、その自治領は大半が山々に覆われており、空からだと彼らの生存を確認することができない。
 もしテスラーの人間が、地面の断面を見通すことができるのならば、その生存範囲が地上ではなく地下であるということに、もっと早く気づくことができただろう。

「……それにしても、そう広くない土地であるだろうに、何故ドワーフは文明を発達できたのかのう」
「簡単だよ。地下は無限に広がっている。それに対して、地上は高架にするにはたくさんの物資が必要になる。その差だ。そうして、地下へ掘り進めた跡が、あのぼた山だ」
「ぼた山?」
「テスラーの言葉で、物資を確保した後の捨て石を積み上げた山のことを言うんだ。正確には、堆積物かな。いずれにせよ、この言葉はローカルだから通じなかった」
「じゃあ、何故儂にそれを言った」
「いや……通じるかな、と」
「馬鹿者」

 怒られてしまったので、少ししょんぼりとするラインハルト。
 ブランはなんとか話題を変えようとして、話を切り出す。

「ところで、どうやって侵入するつもりだ? 見る限り、軍の基地しか無いように見えるし、このまま飛んでいるままだと怪しまれてあちらから攻撃をされかねないぞ?」
「確かにそれもそうだな……。よし、あそこに小屋がある。あそこに降りよう」
「小屋? ……ああ、確かに。了解した」

 そして、ブランは小屋に向かって移動を開始する。


 ◇◇◇


「うーん、とりあえずこれをこうしてああして……」

 とある家の一室にて、工具を持った少年が機械を操作していた。眼鏡をかけている彼は人間の背丈と比べると小さく、左と右に角が生えた帽子を被っている。それは彼の尊敬する技師の象徴ともいえるし、その帽子は彼にとって大事なものともいえた。
 そして、何かの操作を終えると、手で汗を拭って、

「できた! よし、それじゃ試運転を開始してみよう」

 それは彼よりもさらに小さな人型のロボットだった。背中にはリュックサックにも似た箱が背負われており、それが電池の役割を担っていた。背中にある小さなスイッチを押すと、やがてゆっくりと振動を開始する。
 ロボットは動き始めると、回転を開始して、少年に向き合うように立ち直った。

「はじめまして、私はオルタナティブ・エイトオー。何をなさいましょうか?」
「よっしゃっ! 完成だあっ! ついにできたぞ、完全に自律するロボットを! マジカテレキの摩擦によって生み出されたエネルギー変換機構の小型化には随分と時間を要したけれど、これはかなりいいんじゃないか!」
「お兄ちゃんっ!」

 そのときだった。
 部屋の扉が大きく開け放たれ、思い切りその少女の声が部屋中に響き渡った。
 彼は思わず前のめりに倒れ込むと、ぼきり、という音を立てて何かが動きを止めた。


 ――それが、オルタナティブ・エイトオーの最期であることに気づき、やがてゆっくりと彼は現実を受け止める。


「うわあああああああああ! 僕の最高傑作、オルタナティブ・エイトオーがああああああ!」
「なあに、また機械製作にのめり込んでいるわけ! それも趣味の! まったくお金にならないやつの! そんなことをしている暇があったら、溜まりに溜まっている修理依頼を少しでもこなしたらどうなの!」
「何だよ、ソフィーは! 君には、女の子にはわからないだろうねっ! ロボットの、この、熱く燃えるものを!」
「……あー、はいはい。私とラルタスお兄ちゃんの間にはわからない感情もありますよねー。……って、そうじゃなくてっ!」
「それじゃなくて?」
「今こっちに、向かってる! 向かってるの!」
「向かってる、って。何が?」
「だから!」
「何が?」
「ドラゴンが!」
「ドラゴン?」

 ずしん、と地面が揺れる音がした。
 そしてそれをようやく実感する。

「来ちゃった……来ちゃったのよ……、ドラゴンが……」
「ええっ。ドラゴンって、あのドラゴン? マギニア王国が所有する、あのドラゴンだよな? 何でこんな辺境に? ドワーフとは戦争をしないと協定を結んでいたはずだけれど」
「そんなこと、あの戦争狂の連中には関係の無い話でしょ! 感情が高ぶれば、きっとまた戦争を開始するわよっ。ああ、どうしよう。神様、私たちをお守りください。お救いください。お清めください~っ!」
「最後は余計じゃないか、最後は」

 こんこん、とドアをノックされてさらに二人は驚く。

「ひいっ!」
「ねえ、お兄ちゃんっ。出てきてよっ」
「なんでこういうときに限って年功序列の制度をうまく利用するかな!」

 ラルタスはソフィーの言葉を聞いてオーバーなリアクションをとりつつ、しかしやはりそこは男の子なのか、ゆっくりと玄関の扉へと向かう。
 そして、玄関の扉に到着し、ドアノブを握る。

「いいか。開けるぞ?」
「……うん」

 ソフィーの返事を見て、ラルタスはゆっくりと扉を開けた。


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