嫌われる意味を知らない者達~異世界で始まった人生の迷い家~

ゼロのカラカラ

三話 能力紙

 あれやこれやとしているうちに大広間に移動させられた一同。そこに現れたのは、大河ドラマ西郷〇んの主人公を連想させるガタイのいい男である。お前新撰組かよ、と言わんばかりの着物と羽織だ。青い羽織は白との境界線で白波を迎えんとしている。

「私はコンゴウ レイジという。この国、荘都の将軍曹である。君たちには今から能力検査をしてもらう。なに、そこまで時間は取らせん」

 一枚の紙を取り出す。それは和紙のように少し薄く太陽によって焼けている。それを取り出したレイジはそれに力を込める。しかし、なんの反応も起きない。

「これは能力紙と言うものでな、能力者がこれに力を込めれば何かしらの変化が出る。例えば、サクラは【水を作り出す】ことが出来る。サクラ、やってみろ」

 はい、と瀟洒に答えたサクラはそれを手に取り祈るように目を瞑る。すると先程まで変化がなかった紙が淡い緑に変化した。

「このように能力の種類に応じてこの紙は色々な色をする。また、活性化していない能力は文字となりヒントまで与えてくれるという便利なものだ。早速試してもらおう」

 文がなっていない気がしたが、些かどうでもよく、魔法陣があるなら魔法で何とか元の世界に帰れないかなと一人妄想する紫苑。

「では、君から」

「俺すか!!!」

 紫苑たちは今横一列でレイジの話を聞いていた。一番左の紫苑は、一番右にいる変態素質を眺める。他の部員、とりわけ田上先生は何が起こるのだろうと眺めている。

 歩く変態素質はレイジから受け取った紙を片手で受け取り、親指と人差し指の力を込める。次第に濃い緑に染まり始め、そこに【穿】という文字が浮かび上がる。

「なるほど…物理系統ですな。しかも【穿】とは…期待するぞ!」

 漢字あるんだ、と感心している紫苑の向こう側で、明日からグヘヘヘと笑っていたロリコンをゴミクズを見る目でながめる部員。

 その次の遠藤先輩(空手やってたらしい)は赤色で「身体系か…」とレイジがボヤく。そこには【固】という文字がある。

 牧原先輩(プリンの約束が…)は完全に緑で、【雷】とあったことから、何も言わずとも分かるだろう。

 田上先生はと言うと、こちらもまた緑。緑系がどうやら多いらしいとレイジが零す。そこには【揺】とあり、何を揺らすのか、全くもってわからない。

 村井梨花はというと、黄色。回復系らしく、若干白がかるので、恐らくは霊力もあるのだとレイジは言った。

 岩永といえば、青白くクエーサーのような色になり、【界】とあり、「結界の類だな」とレイジがネタバレした。それでもはっきりと分かった能力に岩永は嬉しかったらしい。

 最も転生者らしい能力を見せたのはかの大森先輩で、真っ赤に染まった。レイジも驚いており、そこには【剣】とあったことから、早速今夜から特訓らしい。

「はい、最後は君の番だよ」

 レイジが渡す和紙を受け取るも、ずっとそれを眺め続ける紫苑。はっきりいって、ここで英雄生活している暇はないし、早く帰って本を漁りたいし、プリンも食べたい。

 とは言っても何も始まるわけはないので、仕方なく適当に力を入れる。どうやって変色させるのか知らないが、何とかなるだろう。いつものように楽観視する。

 すると和紙が紫苑の指を中心にじわじわと染まりつつある。紫苑はここには本は無いのだろうか、と別のことを考えておりそれを気にすることは無い。

「…む?」

 レイジの声で反応した紫苑は紙を見る。それはまるで丸焦げになったかのようにどす黒かった。和紙が端の方からパラパラと音を立てる。レイジに渡そうとしたらバラッと言って地面に散乱していった。

「……これは……珍しい」

「何が?」

「…本来灰になるというのは、能力の発現前という理由がある。今までの転生者は能力がほぼ発現したのであろうが……お前のそれは『黒』だ。身体系、精神系、霊力系、回復系、物理系を組み合わせた能力ということだ。まだ断定はできんがな」

 めんどくさい。初めにそう思った。が、混合である以上、逆に利用してこの世界から脱却できるのでは。その期待に胸を膨らませる。傍から見れば、特別感を出されて興奮する厨二病。

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