風の調べと、竜の誓い【旧:男の娘だけど~】
穏やかな風の行く先
アレンがオーグと旅立つことを決めたあの日から、結局旅立つまでに一週間もの時間を要した。
と言うのも、元々のアレンの計画をオーグに話したところ、見積もりの甘い点が幾つも見つかったからだ。
そこは流石、旅慣れているオーグである。資金や旅の装備、旅先への順路などアレンの建てた計画から次々に粗を見つけ出した。
そうして様々な準備を進めていると、いつの間にか一週間もの時間が経過していたのだ。
そして今日、ようやく二人は旅立ちの日を迎えた。
「アレーン。準備終わったー?」
「もうちょっと。あと、家を出る前にしたい事があるから、荷物は下ろして待っててー」
「したい事? 何だよ、それ?」
「内緒ー」
やたらと準備に時間をかけ、加えて何かをもったいぶって言おうとしないアレン。
既に十分ほど前に準備を終えているオーグは予定が狂う、と僅かにイライラしながら、その準備を待つ。
そうして待つこと更に十分。
パンパンに膨らんだ大きな鞄を背負ったアレンが扉からようやくその姿を現した。
「おまたせー。ごめんごめん、待たせたよね」
「ホントだよ、もう。なんでそんなに時間がかかるんだよ――って、アレン、それ何?」
扉から出てきたアレンがその手に持っていた物を見て、オーグは目を細める。それは、拳ほどの大きさも無い小さな革袋だった。
旅に持っていく物の準備をする際、オーグとアレンは二人で互いの荷物を確認しあったが、オーグがアレンの荷物を確認した時にはそんな物は無かった。
と言うことは、それはアレン個人の荷物であるわけだが。
「あんまり余計な物を持ってくと、旅先でも手放せなくなって荷物が増える一方だって言っただろ? 家に置いてきなよ」
二人で話した結果、余計な物は持っていかないとの決まりを設けたのだ。今のアレンの行動は明らかにその決まり事を破っている。
しかし、アレンはオーグの指摘に首を横に振って答える。
「これは旅に持っていくつもりで持ってきたんじゃないんだよ」
「……? じゃあどうするのさ? と言うか、それ何?」
オーグの質問を受けて、アレンは隠す事無くその革袋の中身をオーグに見せた。
そして、それを目の当たりにして、ようやくオーグもそれが何なのか理解した。
「灰だよ。ベルナルドさんの、遺灰。ほとんどは葬儀の時に山に撒いたけど、この家を出る時のケジメにしようと思って過ごし方残してたんだ」
「……そっか」
「僕が賢者の力を受け取った時にね、神様みたいな人が言ってたんだ。僕の風で遺灰を運ぶと、その人の魂は安らかに眠れるんだって。……ねえ、オーグ。もう、休ませてあげていいよね?」
アレンの言葉に、オーグは大きく頷いた。
オーグの答えを聞いて、アレンは革袋の遺灰を自分の手のひらに乗せた。そして、賢者の力で風を起こし、その灰をさらっていく。
それは、春になってとても温かく、柔らかな風だった。
その風の行き先はアレンでさえも知らない。けれど、きっと穏やかな場所に運ばれるのだろうと、オーグは思うのだった。
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