俺はこの世界の主に牙を向く

ハイム

第一部 第二話 じいちゃん

第二話です
前回から約二年ほど経っています



「うぉああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


森の木の上で待機している俺の耳に、流の絶叫が聞こえてくる。
どうやら作戦どうり、大イノシシ(体長五メートル程)の囮役をやってくれているようだ。
ちなみにこの大イノシシ、もちろん魔獣で【身体強化】を普通に使ってくる。


「ちくしょう!睦月のやろう!俺の服に思いっきり[こいこい草]の汁を付けやがって!何が囮役は交代でやろうだ!」


こいこい草とは、森の中で自生する十センチ程の草の事だ。
実はこの草、潰した汁の匂いには、獣のみに効く強烈な興奮作用があるのだ。

流は犯人を俺だと決めつけているようだが……マッタク、ナンノコトダカワカラナイナー。

まぁ、流も【身体強化】で走る速度を上げているようだし、問題無いだろう。多分。

数秒ほどして、流と獲物の姿がこちらからも捕捉できるようになる。
流は文句を言いながらも、【身体強化】を調節して上手い具合に付かず離れずの距離を保っている。
それを確認した俺は人差し指に魔力を集中させた。

この二年の修行で俺も流もずいぶん威力や命中精度もあがっている。


「よし……ここ!」

ズドォン!


溜めた魔力を一気に解放させ、二年前とは比べ物にならないほど、威力を高めた【魔力弾】を発射する。
【魔力弾】は向かってくる流を掠め、イノシシの眉間に見事にヒットした。


「ふぅ……完璧な一撃だぜ……」


と、ここで悲劇は起こる。

これはまったく偶然の出来事だった。

急所である眉間を撃ち抜かれたイノシシは、勢いそのままで身体の自由を失い、前の方向へと大きくバウンドした。

当然、その前には囮役として付かず離れずの距離を保っていた流の背中がある。

イノシシの体は吸い込まれるように思わず見とれるような放物線を描きながら流の背中へとぶつかっていった。


「へぶぅ!?」


凄まじい勢いで流とイノシシはもつれるように転げ、俺の立っている木の下で停止した。
奇跡的に流は下敷きになっていないようだ。

重ねて言うがこれはまったくの偶然である。


「残念な……事故だったな……。」
「てめぇ睦月!勝手に人を殺すんじゃねえよ!?」
「チッ!……やっぱり生きてたか、よかったよかった」
「よしてめぇ、今すぐ降りてこい!一発ぶん殴る!」


流は激怒しているようだが、俺にも俺の言い分がある!


「しょうがないだろ?これはお前がイノシシを上手い具合に誘導出来なかったために起きた事故だ。つまり、悪いのはお前だ!」
「その前にお前が俺の服にした細工を忘れたとでも思ったか!?」


ギャーギャー騒いでいると、近くの草むらから、ガサガサと音がする。
俺達は一旦言い争いをやめ、急いで無属性魔法【探知】を発動させた。
この【探知】は、近くにある魔力を発見する魔法だ。この魔法も二年の修行で身につけた。
が、すぐに解除する。


「二人とも、騒がしいんだよー。そんなんじゃ獲物が逃げちゃうんだよー。」


草むらから出てきたのは、祈織だった。
俺達が修行しているのを見て、祈織も参加するようになったのだ。加えて、魔力量は恐らく三人の中で一番高いらしく、かなりの強さになっていた。
今では、俺達の狩りに付いてこられる程になっている。

……これは余談だが、彼女の胸も大変なまでの戦闘力を保有していたようで、昨年頃から強烈な存在感を放っている。
俺は何とか思考を正常に戻すと、謝罪を口にした。


「あぁ、悪かったな」
「まったく……ほら、流も謝るんだよー。」
「いや、これは睦月が……」
「あ・や・ま・る・ん・だ・よ!」
「……すいませんでした……」


頬を膨らませてぷんすかしている祈織の目を盗み、こちらを見てくる流の目は完全に「お前のせいだからな!」と訴えているが、俺は気付かないふりをし、木から降りて仕留めたイノシシへと向かう。

このイノシシは《ヤメ村》の畑へ降りてきては作物を食い散らかす迷惑ものだったが、これで被害も無くなるだろう。
オマケにみんなの食料も取れて、一石二鳥だ。
俺達は【身体強化】を発動させ、イノシシを持って村への道を戻っていった。





村へ戻ると、いつものチビ達のお迎えだ。


「すげぇ!兄ちゃん達が捕ってきたの!?」
「そうだぞー、たくさんあるからみんなで食おうな!」
「やったー!」


流はさっそく、チビ達に餌付けをしている。
俺はというと……


「ただいまー、父さん、母さん」


いつものように帰ってきた事を知らせていた。

祈織も家に帰っているようだ。

そして俺達は、もはや習慣となっている、流の家、つまり村長の家へと帰った事を報告するために向かった。


「ただいま、じーさん」
「村長、お邪魔します」
「お邪魔するんだよー」


家の中には、二年前よりも少し痩せ、布団で横になっている村長がいた。
最近体調を崩しているようで、村長としての仕事は既に息子である流の父親へと譲っている。

しかし、俺たちにとっては、生まれた時から村長だったため、今でも村長と呼んでいるのだ。


「ん……おぉ、帰ってきたのか、怪我は無いか?」
「あぁ、みんなピンピンしてるよ」
「村長は大丈夫ですか?」
「最近全然外で見ないんだよー?」
「ふふふ、わしも歳じゃからな、じゃが、まだまだくたばりはせんよ」


そう言うと村長はゆっくりと起き上がり、部屋の奥から一冊の古びた本を出してきた。


「古そうな本なんだよー」
「じーさん、これは?」
「これはな、お主らの産まれる数年前、この村に訪れた魔法使いから、一晩泊めた礼に貰ったものじゃよ」
「俺達の産まれる数年前……ですか?」
「あぁ、耳のとがった、尻尾のある竜人族のお方で、魔法学園の教師をしとるらしい」
「でもじーさん、なんで急にこの本を?」
「なぁに、簡単な事じゃよ、わしが教えられる技術はもう無いからじゃ」


その言葉に俺達は激しく動揺する。


「そんな!俺たちなんてまだまだですよ!」
「そうだぜじーさん!」
「二人とも、落ち着くんだよー」


祈織の言葉に少し落ち着きを取り戻すが、納得は出来ない。流もそう思っているようで、村長に視線だけで続きを促す。


「うむ、今まで魔法適性Cクラスのわしが無属性魔法を教えてきたが、お主らは全員Bクラスを優に超えておる。じゃから、そもそも教えられることには限界があったのじゃよ」
「「「……」」」
「お主らはもう少しすれば【属性魔法】にも目覚めるじゃろう。まぁ、無属性魔法を教えられたことは、わしの生涯の誇りじゃよ」
「「村長……」」「じーさん……」

「それとな、その方とわしは以来、長い付き合いになっとってな、わしのつてでお主らを《グランノート魔法学園》へと入学させられるようにしておいた」


「「「!?」」」


「わしの可愛い〝三人の〟孫のためじゃよ。この指輪が学生証じゃ。受け取ってくれるか?」


そう言うと村長、いや〝じいちゃん〟は三つの赤い石が組み込まれた指輪を出した。
ずるいよ、じいちゃん、そう言われたら俺達はこう応えるしか無いじゃないか……。


「「「ありがとう(なんだよ)、じいちゃん」」」


この日、村長は俺と祈織の村長じいちゃんにもなった。

こうして俺達は、《グランノート魔法学園》の学生証をじいちゃんから受け取り、それぞれの右手の中指にはめるのだった。




どうも、作者です。
主人公達の無属性魔法の修行が終わりました。
次回は戦闘回に入れるかな?

次回 魔獣現る     です。

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