俺はこの世界の主に牙を向く

ハイム

第一部 第一話 二年前

初投稿です。拙い文ですがよろしくお願いします。

改善すべき点、感想などをコメントしてもらえると嬉しいです。




ここは《ヤメ森》の中、木陰から俺、東雲 睦月しののめ むつきは仕掛けたエサに釣れられて出てきたウサギを狙っている。
ウサギはこちらに気づいた様子も無く、エサに夢中のようだ。

(こういう時は影に隠れる黒髪黒目で良かったな……)


「ふぅ…」


立てた人差し指をウサギに向け、身体の中の魔力まりょくの流れを意識する。
そしてその感覚を指の先に集中させる。


「いけ!【魔力弾】!」


パシュン!

小声で放った無属性魔法【魔力弾】は狙い違わず、十数メートル程先のウサギに当たった。
ウサギは「キュィィ」と悲鳴を上げ、動かなくなる。


「よし、今日の獲物はこんな所かな」


額の汗を拭い、俺はゆっくりと立ち上がった。

(いつもやっている特訓の一環とはいえ、獲物を捕る緊張感にはやっぱり慣れないな…)


「おおーい!睦月むつきー!」


タイミング良く、俺を呼ぶ声も聞こえたので、俺はその方向に向かって返事をしてやる。


「あぁ、ながれか、そっちの調子はどうだ?」
「ばっちりクルクル鳥を仕留めてきたさ」


そう言うと流は腰についた今日の収穫と、自分の人差し指を立てて見せる。

彼は滝上 流たきじょう ながれ、俺と同い年、黒髪で茶色い目の色な、十四歳の幼馴染だ。


「やったじゃないか!よく捕まえられたな!」
「ま、これが俺の実力さ!」


そう言いつつも流はニヤニヤと誇らしげな顔をしている。

俺達はこの森の近くにある、人口八十人程の《ヤメ村》で暮らしている。
俺達はこの森で、食料調達をかねた魔法の練習をしているというわけだ。

この世界では、どんな生物でも、【魔力】と呼ばれる力を持っている。そして、【魔力】は使えば使うほど、精密性や威力が上がると言われているのだ。
その事を知った俺たちは数ヶ月前から練習を始めた。
幸いな事に、俺達には適性があったようで、
最初は慣れなかった魔力の流れる感覚も、今ではスムーズに感じる事ができるようになってきている。


「しっかし、いつになったら【属性魔法】が使えるのかねぇ?」
「そんなに簡単に使える訳ないだろ?まだ特訓を始めて数ヶ月なんだ、こんなすぐ使えたら苦労しないよ」


【属性魔法】とは俺達が使っていた無属性魔法とは違い、炎魔法、水魔法、風魔法、土魔法、そして雷魔法の五つに分類される魔法の事だ。
更に、この【属性魔法】は、違う魔法にも派生したりするらしい。
その威力は強力になり、この世界のどこかには、五属性のすべての魔力を使いこなせる人や、自分の魔法を完全に使いこなす、エルフ族もいるのだとか。
会えるものなら会ってみたいものだ。

(まぁ、この村にずっといるつもりの俺達には関係ない話だが……)


「そりゃそうだ。ったく、もう少し早く特訓始めれば良かったぜ……」
「お前最近ずっとそればっかだな……そんなに悩むと禿げるぞ?」
「てめぇはいきなり何を言ってんだ!」


途端に流の表情が鬼へと変わる!

さぁここからは、特訓第2ラウンド、
無属性魔法【身体強化】を使って流から逃げる特訓だ。






「はぁ、はぁ、てめぇ今日も逃げやがって……」
「はぁ、はぁ、やっぱり魔力の使い方じゃ……はぁ、俺の方が少し上だな……」


二人で汗だくになりながら森から村へ入る入り口を過ぎると、俺達より少し身長の低い女の子が走って向かってくる。


「はぁ、また二人で馬鹿なことしてたんだよー」


呆れながら出てきた彼女の名前は柏 祈織かしわ いのり
、栗色の髪で、茶色い目をした彼女もまた俺達と同い年の幼馴染だ。
今でも既に整った顔立ちをしており、将来は美人になると確信できるほどだ。

……ちなみに余談だが、俺も流も、顔立ちは中の上くらいである。


「なんて事を言うんだ祈織!これはれっきとした特訓なんだぞ!」
「その特訓の途中で毎度毎度俺をおちょくってんじゃねえよ!」


流の文句をスルーし、俺達は仕留めた獲物を祈織に渡す。


「はぁ……仲がいいのは結構だけど、あんまり危ない事はして欲しくないんだよー」


祈織は数少ない同世代の俺達が、狩りに出るために森に入るのをあまり良しとしないみたいだ。


「分かってるさ、それに今回は獣ばかりで、魔獣は見かけなかったから大丈夫だよ」


魔獣とは、すべての生き物が持っている【魔力】が高く、魔法に目覚めている獣の事だ。
身体の大きさは数倍になり、大抵の場合は無属性魔法【筋力上昇】に目覚めるが、特別魔力が高い魔獣は寿命が伸び、属性魔法にも目覚める例があるのだそうだ。
当然、通常の獣に比べると危険度は跳ね上がる。
森の中では時々その姿を見る事があるのだ。


「はぁ……悪いと思うなら、今度から私にも魔法を教えるんだよー」
「へーへー」


適当に言葉を返しつつ、俺達は村の中へと向かう。


「おかえり!睦月兄ちゃん!」
「流兄ちゃんとどっちの獲物が大きかった!?」


村の中では、近くに住むチビたちが俺達の帰りを待っていてくれたようだ。


「うーん、今日は引き分けかな」


そう言うと俺はチビたちに一度別れを告げ、俺の事を待っている二人の元へと向かう。


「ただいま、父さん、母さん」
「あぁ、おかえり、睦月」
「怪我はない?大丈夫?」


いつも俺の身を案じてくれる二人に、自分の無事を伝えると、二人は安心したようだった。

俺の家は父さん、母さん、俺の三人家族だ。
本当は二歳離れた妹もいるのだが、俺の父さんは病で体を壊してしまい、養う事が出来ないため、今は隣の村の親戚に預かってもらっている。
村同士はほかの村を挟んだところにあり、少し遠いが妹との仲は良好……だと信じたい、兄として。


俺は両親に、行く所がある、と伝えると流達と合流するため、家を出た。






「じいさーん!帰ったぞー!」
「お邪魔します」
「お邪魔するんだよー」

家を出た俺は、流の家に来ていた。

流のおじいさんは、俺達に魔法のことを教えてくれた人だ。
実は村長もこの人で、なんだかんだ偉い人だったりする。
そして今は俺達の無属性魔法の先生でもあるのだ。


「おぉ、帰ったか。おや、睦月に、祈織も一緒かい。よく来たなぁ。」
「じいさん、それはいいからとっとと【属性魔法】を教えてくれよ」
「だから何度も言うとるじゃろうに、【属性魔法】だけはわしも教えられんと。わしの魔法適性はお主らよりも低いCクラスなのじゃからな」


そう、この世界には『魔法適性』というものが存在する。
魔法適性は、Sクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスに分かれており、【属性魔法】が使えるのはBクラス以上だけなのだ。
だから、魔法適性Cクラスの村長では、【属性魔法】を教えられない、という訳だ。


「そもそも【属性魔法】が目覚めるタイミングは人それぞれとも言うたじゃろうが」
「はぁ……結局【属性魔法】は自分で覚えるしかないのか……」
「私はまだ無属性魔法すら教えてもらってないんだよー」
「そんなに落胆するなよ、流……そんなだからハゲになるんだぞ?」
「どこまで俺をハゲにしたいんだよ!お前本当に一度シメといたほうがいいな!」
「さて、今日はもう帰るよ、村長」
「無視をするなぁー!」
「はぁ……この二人はもう……村長、お邪魔したんだよー」
「おぉ、二人とも気をつけてな」


《ヤメ村》での日常はこんな風に過ぎていく




そして物語は二年ほど進む




どうも、作者です。
さて、第一話は説明ばかりの回でした。
ここから少しずつ戦闘シーンやらなんやらを増やしていきたいと思っています。
これからどうぞよろしくお願いします。

次回 じいちゃん  です。

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