300年 吸血 鬼ごっこ

源 蛍

第14話 〜前世との出会い〜

 ──暗い、海の底にでも居るのかな。ほんの少しだけ光が見える。あそこが水面?
 でも泳げない、身体が動かない所為で何も出来ない。ここはどこなんだろう。
 脚もつかないっていうかそもそも横向きに浮いてる? のかな? 水に沈んでるの?
 それはないかな。だって、息は出来てるもん。水がある訳でも無さそうだし。

 気付いたら、空が視界に入っていた。さっきまでの光とは天と地の差がある程に眩しい。
 砂浜? 私ついさっきまで学校のグラウンドに居なかったっけ? あ、違う校門に居たんだ。

 上体を起こして辺りを見渡してみると、海と今居る砂浜と、そこから伸びた草むらの隙間の道最奥に一軒家が見える。
 草の丈は私の首元くらいまでの長さで、花も何も無く、ただ生い茂っている。

「あの家、何だろう。てかここどこだよ、あそこに誰か居ないかな」

 記憶を浮かべてみて、もう一体の吸血鬼に襲われた事を思い出した。
 あの後私はどうなったのか、より、他の皆は無事なんだろうかって不安の方が強かった。

 ここが天国なら、そこに居るかも知れない誰かさん、教えてよ。

 海から100メートルも無い草むらの坂の頂上に建っているその家は、何か懐かしい感じがする。だけど絶対に見たことない。
 とにかく、中を見てみなきゃ。

「失礼します」

 普通に開いたよおい。鍵くらい閉めとけよおい。危ねぇだろよおい。
 ──危なくはないのか? 私以外に誰も見当たらないし草むらが無限に広がってるだけっぽいもんな。

 中を覗くと、古びた丸い小さな机が一つ、同じく椅子も一つ。そして描きかけのキャンパスが一つあった。
 誰かがここで絵を描いてたのだろうか? 絵の具はまだ地味に乾ききっていないし。
 木で出来た柱も壁も天井も床も、見る感じとっても古そうなんだけど、綺麗なままだ。間違いなく誰かが住んでいるんだろう。

 部屋はここともう一つ、寝室のみ。トイレとかお風呂は一体どこなんだろうな。まさか海じゃないだろうな。

「久しぶりですね、凌菜」

「へ……?」

 軋んだドアへ振り向くと、そこには女性が立っていた。
 こんなボロ小屋におよそ似つかない様な綺麗な装飾品が付いたラメ入りのドレスを着た、銀色に煌めく長髪をした女性が。
 『久しぶり』と言われて、一瞬戸惑ったけど私はこの人を知っている。実に関係深い人物だ。

「忘れてしまったかしら? 私はミルフィ、貴女の前世の人間よ」

「ミル……フィ!?」

 いや、まあ夢で見てたし誰か分かってたから驚くところじゃないんだけど、それとは別の部分に驚いた。
 何でこの人居るの!? 私マジで死んじゃった感じ!? 嘘でしょ!? 嘘と言ってくれ!


「冗談じゃねぇよ! 私死んだの!?」

「いいえ、死んではないわ。あと言葉遣い汚いわね」

「さーせん」

 もうとにかく細けぇ事はコイツに説明してもらうとして、じゃあここに住んでたのはミルフィなの!? こんなボロ小屋で、絵を描いて……生きてんの?
 私が夢で見てたミルフィと姿は同じだし、ドレスだって王家の物っぽい感じだし、別人じゃないんだろうけど……住んでる場所違い過ぎね!? あんた元々王宮に住んでなかった!?

 パニックに陥る私を見て溜息を零したミルフィは私を強引に座らせ、自分は机に腰をかけた。
 待てお前。仮にも王女が何つーもんに座ってんだよ。おい。

「私はもう300年も前にこの世を去っているわ。貴女も夢で見たでしょう? ここは現世と天国の間の世界、かしらね」

「死にかけてんのか私!」

「そうよ」

「マジか」

 つまり私が今ここに居るのは、死ぬ前という訳なのか死ぬ直前だという訳なのか半分死んでんのか。
 いずれにせよ私が無事ではないのが分かりきってる。

「て、お前成仏してねぇのか!?」

「出来るわけないでしょう? 私の来世が私の所為で苦しんでるんだもの。放って置けないわ」

 何で300年もの間成仏してねぇんだよすげぇなコイツ。よく悪霊とかにならないな。
 でも、コイツが居なかったら私普通に死んでる可能性があった訳だろ? だとしたら助かったのか。
 いやでも300年はすげぇな。

「そもそも私が夢を見させていなかったら貴女とっくにヴォルフに食べられてますからね? 何とか更正したみたいだけど」

「ま、そうか。確かにヴォルフは変わったよな、もう襲って来ないよ」

「貴女に恋をしたからかも。ふふ」

「は!?」

 コイツ何言ってんだ!? ヴォルフが私に恋してる!? 何で!? 意味わからねぇな。
 それより、ヴォルフの奴本当に最初の頃とは別物になったよなぁ。
 会ったばかりの時は特殊能力キャプシャルフルに使ってでも血を奪おうとして来た癖に。今や頼む感じだ。
 てかミルフィヴォルフのこと多少は知ってんのな。

 あ、そうだ聞き忘れてた!

「なあ! 今現世はどうなってんだ!? 皆は無事か!? あの吸血鬼は!?」

 取り乱した私を宥めるように唇に人差し指を触れたミルフィは、ゆっくりと筆を取る。
 描いてくれんのかな。

「吸血鬼からの被害は貴女以外には無いわ。ただ、周りの子達は皆貴女を心配し呼びかけている……返事など出来ないのだけど」

「と、とにかく無事なら良かった」

 由奈達はとにかく無事……だけど、今の言葉を聞いた感じ吸血鬼同士の戦いは無い。ヴォルフはまだ気づいてないんだな。
 それより皆、心配してくれんのは嬉しいんだけどせめて病院とかに連れてったりしてくれねぇかな。血無さ過ぎてマジで死ぬから。

 あと、香恋の姿もここには無いし、多分私個人の空間なんだと思う。
 ミルフィが言うには、自分は偽物じゃないらしいけど。

「私が現世に戻る事は可能か?」

「ええ、勿論可能よ。だけど今起きてしまったら、もう一度吸われて今度こそ命を落とすかもしれないわ」

 てことはまだ近くかその場に吸血鬼が居るんだな。じゃあ行っても被害増やすだけか。
 どうしたら良いんだ? そして香恋も今こんな状況なのか? それはないか?

 自分に出来る事がこんなにも無いと辛いもんだな……人間独りの弱さを噛み締めてる気分だ。
 だけど、ここから帰れる事は分かった。後は起きた時にどうするか。
 血が足りないからすぐは絶対動けないしな。前日にヴォルフにも吸われたし。

 貧乏揺すりを始め、頭を掻きむしっても何も思い浮かばない。ただミルフィの蔑む様な視線がクソ腹立つだけだ。うぜぇから見んな。
 またまた溜息を零したミルフィが私の左手に右手を重ねて来た。何?

「貴女は独りじゃないのよ? 助けが欲しければ願えばいい、祈ればいい、呼べば良いんじゃない。きっと助けてくれるわ」

「は? ん? 誰に? 何を? どゆこと?」

「たくもう! 良いから早く帰りなさい、そろそろ王子様……いえ、悪魔のお迎えが来るわ」

 ミルフィはそう言うと私の腕を引き海へ突き飛ばす。乱暴だなおい王女様よ。
 どこからどう帰れば良いってんだ? あんこら。

「つぅか、悪魔のお迎えが来るんだったら帰りたくねぇよ!」

 分かるか? お前もデビルヴァンパイアとか見たことあるならその怖さくらい分かるよな!? それとも怖いもの知らず過ぎて何とも思ってなかったか! あんこら!
 暫くすると私の身体は透き通り光る水に包まれていった。溺れ……ないみたい。
 てかどうなってんだこれ!?

『貴女の時代にまで面倒事を引き延ばしちゃってごめんなさい。私も、出来る事をするわ。それじゃあまた──』

「いやまた、じゃねぇよ!」

 そして私は海へと引きずり込まれ、視界は暗闇で覆われていった。もっとマシな帰り方無い?


 ──『りょーちゃん!』『司導!』『女だった司導!』。色んな声が聞こえるな。マジで心配してるだけかお前ら。

 身体が動く事を眼を閉じながら確認し、脳が揺れない様にゆっくりと身体を起こす。
 そして数メートル先で見張っているっぽい巨漢、恐らく吸血鬼であろう者に睨みを利かせる。

「帰って来たぜ吸血鬼! あの世とこの世の狭間からなぁ!」

 あ、デカい声出すべきじゃなかった。脳が揺れる貧血だやべぇ。あと酸欠だ。
 周りからは歓声が上がってるけど、別に何か出来るって訳じゃないんだよなぁ。ただ帰って来ただけなんだよクラスメイト達よ。
 あ、別のクラスの人も居た。あ、別の学年の人も居た。

「殆どの血は飲み干した筈なんだがな……」

 地を振動させながら立ち上がる吸血鬼は少しだけ驚いてる様にも見える。
 それより今のマジで? 私何で生きてんの? 自分で自分が怖いからやめてくれないかな、そんなこと言うの。

 立ち上がった吸血鬼はトドメを刺すつもりか、一歩一歩どっしりと歩いて来る。
 とても太い牙をお持ちですが、私の首は無事なんでしょうか? 誰かアンサープリーズ。

 誰も答えてくれないので自分で触ってみる。痛みは無い、大丈夫だ。

 さて、もう間合い詰められたんだけど、どうしようかな?
 そう言えばミルフィは願って祈って呼んでみろって言ってたな。何を? やっぱり、アイツを?

「次こそお前は終わりだ。吸い尽くしてやる」

 もう悩んでる暇なんてねぇな! なる様になる、それしかねぇ!
 私は眼を閉じ両掌を合わせた。



 ヴォルフ、助けて──!!


「ん? どうした、命乞いか? くだらん」

「来ないじゃ……」

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 絶望っつぅか、切れかけた瞬間目の前の巨漢が脇腹にライ◯◯キックを喰らいぶっ飛んで行った。
 仮◯◯◯ダーとかじゃなくて、助けに来てくれたのはやっぱりコイツだった。

 ヴォルフ──。

 ボロボロな身体じゃなく、本当にピンピンしててまるで準備万端な姿でしっかりと敵を見据えている。
 思わず、安心したのかな? 目から水が出て来たよ。

「ごめん凌菜ちゃん、遅くなった。後は任せて」

「どこ行ってたんだこのクソ!」

「クソ!?」

 分かるよ、ごめんクソ野郎なんて言って(言ってない)。多分だけど、ミルフィの墓か何処かにでも言ってたんだろ?
 そこでミルフィに『私を守ってくれ』って、頼まれてきたんだろ? だからここに来てくれたんだよな。ヴォルフ。

「ごめんちょっと綺麗なネックレス見つけたもんだから……」

「クソ野郎」

「えぇ!?」

 人の期待を裏切る速度本当にすげぇなお前はよ? もっとマシな言い訳とかなかったんかい。

「おしゃべりしてんじゃねぇぞ貴様ああああ!!」

「うお!?」

 コイツ、ガルドみたいに突っ込んで来るだけ……かと思ったら違う! 多分人間に化けて武術でも習ってたのか、動きが素人じゃない!
 お前ら吸血鬼は能力あるのに格闘するの好きだね本当! 結構地味だぞ!

「でらああああ!!」

「え、寺? ぐほぉ!!」

「お前バカだろ!」

 ヴォルフ、何故こんな時にふざけてんの? それとも素なの? どっちにしろバカだ。
 ああ、つぅかやられ気味だな。ここでもやっぱりパワー差かな? 吹っ飛んでるもんなぁ。ヴォルフって鍛えるんじゃなくて多分女の子ウケを狙ってオシャレしたりしてるだけだからな。バカだし。

 つってもこのままじゃヴォルフ負けて私が血を吸われてバッドエンドで終わっちまうからなぁ。どうしよ。
 ようし、一か八か!

「ヴォルフー! お前私のこと好きなのか!?」

「え!? 凌菜ちゃん急に何!? ……はい! 大好きです!」

 恥ずかしいなおい! 好きかどうか聞いたんだよ! 大好きかどうかは聞いてないからな! 嬉しいけどさ。
 さてここからだな。上手くいくかなぁ。
 私は何となく正座して二人の戦いを見つめ、胸一杯の想いを叫んだ。

「私もお前のこと好きだよ! だから、何て言うか、死ぬな! 絶対勝ってくれ!!」

 これで出し切ったぞ。精根尽き果てたぞ、貧血なのに大声出したから。
 もう他の奴らのこと気にする必要なんてないんだ。全力で思いの丈をヴォルフに伝える。それだけの賭けだった。
 お願い、絶対死なないでって。絶対一緒に生きようって。

「おおお……」

「ん?」

 何かヴォルフの様子がおかしいな、頭でも打ったか? 殴られたか?

「ふんっ!!」

 強烈な相手の正拳突きを、躱した・・・ヴォルフは先程までの負け腰から真逆の猛攻スタイルと変化した。
 何だ? 何があったのあれ。めっちゃ殴ってる。めっちゃ怖い。

 瞳に闘志の火が灯り、あっという間に自身が受けたダメージよりも見た目多くのダメージを与え殴り飛ばした。わぁ。

「凌菜ちゃんが僕のこと好きって言ってくれた! 大好きっていってくれた! 好きにしていいって言ってくれた!!」

「んなこと言ってねぇだろ!!」

 ダメだアイツ。覚醒したのかと思ったら単に変態パワーが増大しただけだった。気持ち悪いな。
 何か一瞬で冷めた気がしたよミルフィ隊長。

 ヴォルフは自分の古い爪を取り出し巨漢の吸血鬼に向かってダッシュしていく。あれがフィニッシュ技なのだろうか。
 だけど相手の吸血鬼もこれまたタフで、さっきの猛攻がまるで効いてなかったかの様に元気良く走り出す。
 右腕のラリアットが勝つか、ヴォルフの吸血爪が勝つか、どっちだろうか。

「ん!?」

 巨漢吸血鬼の攻撃は空を切り、先程までそこに居たヴォルフは私の視界からも消えた。相変わらず動き早いな。
 この場に居る全員が周りを見渡したが、私だけがすぐに気付いた。蒼い瞳が輝く……王子様に。

「お前達が好きな上空からの奇襲だ。喰らいな!」

「ぐおあああ!!?」

 音速で降下する真の姿をしたヴォルフの動きに即対応出来る生物は、この世界何処を捜しても見当たらないんじゃないかな? それ程早いんだ。
 吸血爪で血を抜かれた巨漢吸血鬼は昨日の奴同様服だけ残り、その場から消えた。

 強敵であった筈の吸血鬼達を二日連続で倒したヒーロー、いや……悪魔は、優しい笑みを浮かべ私に手を差し伸べた。
 光り輝く朝日を背にして────。

「お疲れ様ヴォルフ、ありがとう」

「いえいえこちらこそ」

「りゃーちゃん、ヴォルフ君、私は応援するからね!」

「へ?」

「ありがとう由奈ちゃん。凌菜ちゃん、お礼はキスで」

「するかああああああああああああ!!」

 あ、怪我人思いっきり殴っちゃった。
 ……あー、まあ、良いか。うん。良いよ良いよ。






どうも☆夢愛です♪
今回長くなり過ぎましたかね 約6千文字。
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます! この長さ読んでくれただけで私感激です!
残り、もう10話も無いんですが、本当に最後まで読んでくれるとありがたいです。はい。

最後まで頑張るもん!

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