300年 吸血 鬼ごっこ
第8話 〜2人目の聖女〜
マルスとの出来事が嘘だったかの様に過ぎて行く日々……いや、 それは当たり前なのかも知れない。
マルスと出会い、 戦ったのは私達2人だけ。 他に見てた人間はちゃんとは居ない筈だ。
私の日課には新しいものが追加された。
今まで通りならば朝飯もろくに食わずに登校し、 由奈とくだらない話で適当に盛り上がっていた。
だけど今はそこにヴォルフも追加されている──いつの間にか気を許してしまっていた。
マルスとの一件の一部を知った人間には女子という事がバレてしまったけど、 皆黙っててくれてる。
……てかアレか? 裸見られたって事か? ──はい私今から自殺して来ます。
 「ちょ、 凌菜ちゃん何で落ちようとしてるの!? 」
思いっきり落ちてやろうと思ったけどヴォルフに抱かれて阻止された。
そしてふと我に返って足元を見ると、 何メートルも下に硬いコンクリートが見えている。
血の気が一気に引いたのでヴォルフに抱きついて屋上へと戻る……死ぬのいざとなると怖。 自殺してしまった方達に申し訳無い。
私はヴォルフに説教を下されてる間、 ふてくされていた。
 「あれ? 何か正門に……」
人だかりが出来ている、 それも数十人程の大人数で集まっていた。
違和感が有ると思ったけど、 その理由はすぐに判明した。──全員が同じ方向を向いているのだ。
私のそれを辿る様に見て行くと、 正門より少しだけ離れた場所に一台の黒い車が。
高級車とかでよく見る車体の長い物だった。
何故そんなのがここに……?
 「なぁ……ん? ヴォルフどした? 真剣に見つめて」
ヴォルフは冷や汗らしき物を顎先から垂らし、 唾を飲み込む。 いやだからどうしたんだっつーの。
細い目を見開いたヴォルフは口を少し開いてそれを手で覆い隠す。
 「あの娘……聖女だ……! 」
 「えっ……」
車からは腰まで届くツヤのある綺麗な茶髪をした少女が出て来た。 見た感じ私より背が低い感じ。
外見、 素振りからは大人しく礼儀正しい性格だというのが分かるくらい丁寧に挨拶、 会釈をしている。
……私と正反対の性格だね。
あーゆー女の方が好かれるのかな? やっぱり。
男からしたら大人しくて、 礼儀正しい奴の方が良いのかな……でもドMな人は違うよね、 虐めてくれる人の方が良いんだよね。
──それより、 驚いたのは私と同じ聖女って所。
まあ勿論生まれ変わりって意味で言ったんだろうけどねヴォルフは、 読者に伝わるようにちゃんと言って欲しいな、 なんて。
 「どんな聖女? てかそもそも何で分かるの? やっぱ匂い?? 」
 「どんなのかは流石にわからないかなぁ。 そう、 匂いがするんだ、 聖女独特の」
そうかなぁ? 鼻が特別敏感で匂いフェチの私には何とも言えないくらい変わりよう無いけど。
私自身からも変な匂いはしないしなぁ。
それとも吸血鬼はその匂いにより敏感なのかな? 私の事もすぐに見つけてくるし……。
何か怖いな。
 「ねぇ、 あの娘も別の吸血鬼と約束してたりするのかな? 前世がだけど」
 「いや、 多分僕以外の吸血鬼はそんな事しないで御構い無しに吸うと思うよ。 僕はミルフィに惚れてたってのも有るから」
……ふーん、 ミルフィに惚れてたんだ、 へーあーそうふーーーーーん。
いや特に何も興味すら無いですけど?ええ。
 「ちょっと話しかけに行ってみよう」
えー……私お嬢様系の人間とあまり話したくないんだけどなぁ。
うざいの多そうだし? まああの娘は大人しくて大丈夫そうだけど、 まあ行ってみるか。
──私達は二時限目と三時限目の間にある20分間の中間休憩時間にそのお嬢様の居るクラスへと向かった。
向かったと言ってもすぐ隣のクラスに転入したらしくて数歩ですんだけどね。
机の前に立ち塞がる様に立つヴォルフとそれを冷めた目で見る私の事を見たお嬢様は大きな目を丸くしている。
小動物……一瞬そう思ってしまった。
 「……なるほど、 貴方達が……そうですね」
彼女はボソッと呟くと立ち上がり、 笑顔で私達の間を抜け廊下に出た。
そして振り返りついてくる様に頭の動きで指示した、 もしかしたら私達に気付いたのかも知れない。
 「やはり情報は本当だったのですね、 貴方方が吸血鬼と私以外の聖女……ですよね? 」
予想は的中、 私達の事を知っているみたいだった。
情報って何の事だ? この娘は多分普通の人間じゃないだろう、 だってお金持ちだし。
お金持ちって基本、 思考が一般人と違ってズレてるでしょ? ……あれ? それってもしかして私の偏見? 漫画とかでだけ?
 「情報って、 何の事だ? 」
私は先程引っかかった言葉を聞いてみたが、 お嬢様はポカンと目を丸くしている──何か地味にこの顔腹立つな。
 「先日、 ある2人組みが吸血鬼の一体を倒した……と言うのを協会から聞いたのです。 そこで私は貴方方の特徴を調べて頂き、 この学校へとやって来ました。 同じ事情がある方と居た方が心が落ち着くかなぁと」
 「そうか……」
この娘バカなんじゃねーか? だってここに来たは良いけど、 そして同じ状況の私と会うのも別に悪くない。
でも今ここにその聖女を狙う吸血鬼の1人が居るんだぞ? それ知ってここに来たんだよな?
お嬢様は私の考えを読んだかの様に微笑み、 ここが落ち着くと言う理由を話し始めた。
 「確かに吸血鬼は危険……ですがその吸血鬼に貴女が殺されていないと言うなら、 彼の危険度は大幅に低下します。 だからここに来たのです」
へー、 ああなるほどねー理解した。
要するにあれか? いざとなりゃ私を盾にしてでもヴォルフから身を守る気か? 意外と腹黒だな。
……それとも私の勘違い? だとしたら恥ずかしいけど。
あ、 そだ。
 「お前名前は? 何つーの? 」
 「詩乃 香恋と申します。 凌菜さんは女性ですよね? 」
やっぱり知ってやがる、 どこまで知ってんだコイツ……ストーカーみたいだぞ。
何か不気味だ。
そんな徹底的に調べんなよこっちは恐怖だわ。
てか『かこい』ってすげー名前だな、 その漢字なら『かれん』でも良かったんじゃねーかな? その方が私的には良いけど。
 「ではお二人共また。 これからどうぞよろしくお願い致しますね」
彼女は笑顔で言うと教室へ戻って行った……中々摑みどころの無い性格に感じた。
それともそれは私がアホだからでしょうか。
彼女と私、 果たしてどっちがバカなんでしょうかね……負けたくない、 今日丁度行われるテストで決めよう!
──次の日返されたテストでは圧倒的な差をつけられて由奈、 ヴォルフ、 香恋に敗北した。
……え? 由奈は分かってたけどヴォルフも頭良かったの? 嘘だろ。
普段を見てるとバカとしか思えないのに……マジかぁショック。
でも87点取ったんだよ私、 コイツら皆90後半だよ。
そのくらい一回老けちまえ!
──その日の放課後、 私と香恋はそれぞれのクラスで日直となり居残り掃除をしていた。
掃除すら楽しそうに隅々まで綺麗にする香恋を見て、 私は彼女がお嬢様だと言うのを疑い始めた──だってお嬢様が掃除なんて無いじゃん? 掃除好きな奴以外。
……掃除好きなのかな。
 「なあ、 お前は吸血鬼に……良い奴が居ると思うか? 」
私が確かめる様に聞くと、 香恋は一旦掃除用具を置き、 滴る汗を拭い壁に寄りかかった。
 「何故、 その様な事をお聞きになるのですか? 貴女にとってはヴォルフ様が良い奴……なのでしょう? 」
うん、 その通りなんだけど、 お前が良い奴って思える様な吸血鬼が存在するのかが知りたいんだ。
私とお前じゃ、 考える事が全く違いそうだからな。
──私は掃除めんどくさいし。
 「お前にとって、 ヴォルフはどんな奴に見えた? 嫌な奴か? それとも良い奴なのか? 」
香恋は少し唸ると首を振った……どちらの意味か気になった私が質問すると、 香恋は笑顔で口を開いた。
 「彼は貴女に対してはとても良い方。 ……でも他の方々にはあまり興味が無さそうなので、 その点を弁えるとどちらでも無いかと思われます」
 「そっか」
確かにアイツは私や由奈以外とは中々長時間話す事は無い、 殆どが聖女である私の隣に居る。
そう考えると、 アイツが私に優しいのは隙を突いて吸血する為じゃないかとも思えてくる……そっちだったら、 私はきっと悲しい。
もっと普通に暮らしたいよ──。
 「貴女は、 彼に恋をしていらっしゃるのですか? 」
 「へっ……? 」
突然……ありえない程突然の言葉に、 私は目を丸くして惚けていた──え、 何だって?
私がヴォルフを、 何? 『好き』って事? は? 嘘、 そーなの? 私恋した事なくて分からないんだけど……。
 「……まあ、 今は分からなくてもよろしいと思いますよ。 恋とはいつの間にかしているものです、 貴女は初恋と気づくのがまだみたいですね。 私は恋もした事が無いんですけど」
もし、 私が本当に恋してるなら……恋もした事無い奴にバレてる辺り顔に出やすいタイプ? 嫌だな、 ヴォルフに気づかれたらめちゃめちゃ意地悪されそう。
……まあその時は殴るけども。
──嫌われるか。
嫌われたくないよ、 離れたくないよって思うのはどうしてなんだろう。
アイツは吸血鬼だ、 嫌われて血を吸われないとか、 離れた方が安全な筈なのに……それをしたくない。
これが、 恋って感情なのかはまだ私には分からない。
香恋はクスッと微笑むと、 私の口元に人差し指を当てて右目でウインクをする。
何か全てを見透かされてる感じで嫌だ。
 「私は応援致しますよ、 初恋が実るよう、 頑張ってくださいね」
──初恋……ね。
──あ、 忘れてた。 そういやヴォルフはミルフィに恋してたって言ってたよな……それが今もなら私の恋(?)は既に終わっている……?
早いなぁ、 失恋……。
香恋は掃除用具を私の分まで片付けると、 手を差し出して一緒に帰ろう、 と言ってきた。
この歳になって手を繋いで帰るのは嫌なので、 私は彼女の隣に立ち、 先程思い浮かんでしまった事の愚痴を聞いてもらう事にした。
いつの間にか私達はごく自然と仲が良くなっていた。 これも同じ運命を辿る者達という事の表れか……?
 「私の特殊能力は……」
電車の事故に因り塞がった道路で立ち往生していた時、 香恋はボソッと呟き私の腰に手を回してきた。
──何?
 「うわあああああああああああああああ!? 」
空高く舞い上がった私達は電車も楽に見渡せる程の位置に居た。
私は叫んだ直後口を掌で覆われ、 気づかれるのを恐れてか高速でその場を通り過ぎ私の家付近に降り立った。
 「私は飛行能力がございます。 急ですみませんでした」
 「いや、 うんまあ……」
怖すぎ……いや空に上がるのは初めてじゃないんだけど、 急は流石にビビるっての。
何で私の周りの奴らは人の事を考えないでその場優先の行動ばかりするのかな、 お願いだから私の事を気にして欲しい。
私達は自身のメアドを交換し、 これからも情報交換の為に付き合いを続ける事にした。
──でも私は、 そんな付き合い方じゃなくて普通に友達みたいに過ごしたいんだけどなぁ……ヴォルフとかとも。
ま、 叶わない……か。
 「凌菜さん、 ありがとうございました。 では、 また明日」
 「ああ、 また明日な」
私達はお互い手を振り、 香恋の姿が見えなくなるまでそれを続けた──いやあぶねーから前見て歩けよ。
 「あ、 凌菜ちゃんお帰り。 お風呂にする? ご飯にする? それとも夜の運動を早めにしちゃう? 」
──家の中には先程の会話に出て来た、 ヴォルフが居た……不法侵入だぞお前。
私は彼の顔面を両手で掴み微笑んだ。
 「えっ、 何ちゅーしてくれるの? 」
 「出てけクソヴァンパイアーーーー!!! 」
ヴォルフの身体は重りを投げる様に私の手によって放り投げられ、 家の前の塀に激突した。
彼は鼻血を出し、 身体を小刻みに震わせながら這いつくばって戻ってくる──が、 私はその右手がドアに近づくと共に力強く踏み、 ドアを閉めた。
そのあとの掠れたヴォルフの悲しい声に私は聞く耳を持たなかった。
……アイツが好きだって? あんなのに恋してるって? ──ありえない、 自分でも分かった気がする。
これは恋じゃない──と。
その日私の近所の人は低めの呻き声に恐怖を抱いたと言う────。
どうも☆夢愛です!
久々の更新となりました。
エブリスタの方で慣れてしまって中々やる気がですね。
フォロワーの方は殆ど居ないも同然のこの作品ですが、 誰に何と言われようと最後まで書き続けるつもりです。
新しい聖女が来たなら敵も来る──でございます。
次の更新もまたいつになるか見当皆目つきませんが、 よろしくお願い致しますm(_ _)m
マルスと出会い、 戦ったのは私達2人だけ。 他に見てた人間はちゃんとは居ない筈だ。
私の日課には新しいものが追加された。
今まで通りならば朝飯もろくに食わずに登校し、 由奈とくだらない話で適当に盛り上がっていた。
だけど今はそこにヴォルフも追加されている──いつの間にか気を許してしまっていた。
マルスとの一件の一部を知った人間には女子という事がバレてしまったけど、 皆黙っててくれてる。
……てかアレか? 裸見られたって事か? ──はい私今から自殺して来ます。
 「ちょ、 凌菜ちゃん何で落ちようとしてるの!? 」
思いっきり落ちてやろうと思ったけどヴォルフに抱かれて阻止された。
そしてふと我に返って足元を見ると、 何メートルも下に硬いコンクリートが見えている。
血の気が一気に引いたのでヴォルフに抱きついて屋上へと戻る……死ぬのいざとなると怖。 自殺してしまった方達に申し訳無い。
私はヴォルフに説教を下されてる間、 ふてくされていた。
 「あれ? 何か正門に……」
人だかりが出来ている、 それも数十人程の大人数で集まっていた。
違和感が有ると思ったけど、 その理由はすぐに判明した。──全員が同じ方向を向いているのだ。
私のそれを辿る様に見て行くと、 正門より少しだけ離れた場所に一台の黒い車が。
高級車とかでよく見る車体の長い物だった。
何故そんなのがここに……?
 「なぁ……ん? ヴォルフどした? 真剣に見つめて」
ヴォルフは冷や汗らしき物を顎先から垂らし、 唾を飲み込む。 いやだからどうしたんだっつーの。
細い目を見開いたヴォルフは口を少し開いてそれを手で覆い隠す。
 「あの娘……聖女だ……! 」
 「えっ……」
車からは腰まで届くツヤのある綺麗な茶髪をした少女が出て来た。 見た感じ私より背が低い感じ。
外見、 素振りからは大人しく礼儀正しい性格だというのが分かるくらい丁寧に挨拶、 会釈をしている。
……私と正反対の性格だね。
あーゆー女の方が好かれるのかな? やっぱり。
男からしたら大人しくて、 礼儀正しい奴の方が良いのかな……でもドMな人は違うよね、 虐めてくれる人の方が良いんだよね。
──それより、 驚いたのは私と同じ聖女って所。
まあ勿論生まれ変わりって意味で言ったんだろうけどねヴォルフは、 読者に伝わるようにちゃんと言って欲しいな、 なんて。
 「どんな聖女? てかそもそも何で分かるの? やっぱ匂い?? 」
 「どんなのかは流石にわからないかなぁ。 そう、 匂いがするんだ、 聖女独特の」
そうかなぁ? 鼻が特別敏感で匂いフェチの私には何とも言えないくらい変わりよう無いけど。
私自身からも変な匂いはしないしなぁ。
それとも吸血鬼はその匂いにより敏感なのかな? 私の事もすぐに見つけてくるし……。
何か怖いな。
 「ねぇ、 あの娘も別の吸血鬼と約束してたりするのかな? 前世がだけど」
 「いや、 多分僕以外の吸血鬼はそんな事しないで御構い無しに吸うと思うよ。 僕はミルフィに惚れてたってのも有るから」
……ふーん、 ミルフィに惚れてたんだ、 へーあーそうふーーーーーん。
いや特に何も興味すら無いですけど?ええ。
 「ちょっと話しかけに行ってみよう」
えー……私お嬢様系の人間とあまり話したくないんだけどなぁ。
うざいの多そうだし? まああの娘は大人しくて大丈夫そうだけど、 まあ行ってみるか。
──私達は二時限目と三時限目の間にある20分間の中間休憩時間にそのお嬢様の居るクラスへと向かった。
向かったと言ってもすぐ隣のクラスに転入したらしくて数歩ですんだけどね。
机の前に立ち塞がる様に立つヴォルフとそれを冷めた目で見る私の事を見たお嬢様は大きな目を丸くしている。
小動物……一瞬そう思ってしまった。
 「……なるほど、 貴方達が……そうですね」
彼女はボソッと呟くと立ち上がり、 笑顔で私達の間を抜け廊下に出た。
そして振り返りついてくる様に頭の動きで指示した、 もしかしたら私達に気付いたのかも知れない。
 「やはり情報は本当だったのですね、 貴方方が吸血鬼と私以外の聖女……ですよね? 」
予想は的中、 私達の事を知っているみたいだった。
情報って何の事だ? この娘は多分普通の人間じゃないだろう、 だってお金持ちだし。
お金持ちって基本、 思考が一般人と違ってズレてるでしょ? ……あれ? それってもしかして私の偏見? 漫画とかでだけ?
 「情報って、 何の事だ? 」
私は先程引っかかった言葉を聞いてみたが、 お嬢様はポカンと目を丸くしている──何か地味にこの顔腹立つな。
 「先日、 ある2人組みが吸血鬼の一体を倒した……と言うのを協会から聞いたのです。 そこで私は貴方方の特徴を調べて頂き、 この学校へとやって来ました。 同じ事情がある方と居た方が心が落ち着くかなぁと」
 「そうか……」
この娘バカなんじゃねーか? だってここに来たは良いけど、 そして同じ状況の私と会うのも別に悪くない。
でも今ここにその聖女を狙う吸血鬼の1人が居るんだぞ? それ知ってここに来たんだよな?
お嬢様は私の考えを読んだかの様に微笑み、 ここが落ち着くと言う理由を話し始めた。
 「確かに吸血鬼は危険……ですがその吸血鬼に貴女が殺されていないと言うなら、 彼の危険度は大幅に低下します。 だからここに来たのです」
へー、 ああなるほどねー理解した。
要するにあれか? いざとなりゃ私を盾にしてでもヴォルフから身を守る気か? 意外と腹黒だな。
……それとも私の勘違い? だとしたら恥ずかしいけど。
あ、 そだ。
 「お前名前は? 何つーの? 」
 「詩乃 香恋と申します。 凌菜さんは女性ですよね? 」
やっぱり知ってやがる、 どこまで知ってんだコイツ……ストーカーみたいだぞ。
何か不気味だ。
そんな徹底的に調べんなよこっちは恐怖だわ。
てか『かこい』ってすげー名前だな、 その漢字なら『かれん』でも良かったんじゃねーかな? その方が私的には良いけど。
 「ではお二人共また。 これからどうぞよろしくお願い致しますね」
彼女は笑顔で言うと教室へ戻って行った……中々摑みどころの無い性格に感じた。
それともそれは私がアホだからでしょうか。
彼女と私、 果たしてどっちがバカなんでしょうかね……負けたくない、 今日丁度行われるテストで決めよう!
──次の日返されたテストでは圧倒的な差をつけられて由奈、 ヴォルフ、 香恋に敗北した。
……え? 由奈は分かってたけどヴォルフも頭良かったの? 嘘だろ。
普段を見てるとバカとしか思えないのに……マジかぁショック。
でも87点取ったんだよ私、 コイツら皆90後半だよ。
そのくらい一回老けちまえ!
──その日の放課後、 私と香恋はそれぞれのクラスで日直となり居残り掃除をしていた。
掃除すら楽しそうに隅々まで綺麗にする香恋を見て、 私は彼女がお嬢様だと言うのを疑い始めた──だってお嬢様が掃除なんて無いじゃん? 掃除好きな奴以外。
……掃除好きなのかな。
 「なあ、 お前は吸血鬼に……良い奴が居ると思うか? 」
私が確かめる様に聞くと、 香恋は一旦掃除用具を置き、 滴る汗を拭い壁に寄りかかった。
 「何故、 その様な事をお聞きになるのですか? 貴女にとってはヴォルフ様が良い奴……なのでしょう? 」
うん、 その通りなんだけど、 お前が良い奴って思える様な吸血鬼が存在するのかが知りたいんだ。
私とお前じゃ、 考える事が全く違いそうだからな。
──私は掃除めんどくさいし。
 「お前にとって、 ヴォルフはどんな奴に見えた? 嫌な奴か? それとも良い奴なのか? 」
香恋は少し唸ると首を振った……どちらの意味か気になった私が質問すると、 香恋は笑顔で口を開いた。
 「彼は貴女に対してはとても良い方。 ……でも他の方々にはあまり興味が無さそうなので、 その点を弁えるとどちらでも無いかと思われます」
 「そっか」
確かにアイツは私や由奈以外とは中々長時間話す事は無い、 殆どが聖女である私の隣に居る。
そう考えると、 アイツが私に優しいのは隙を突いて吸血する為じゃないかとも思えてくる……そっちだったら、 私はきっと悲しい。
もっと普通に暮らしたいよ──。
 「貴女は、 彼に恋をしていらっしゃるのですか? 」
 「へっ……? 」
突然……ありえない程突然の言葉に、 私は目を丸くして惚けていた──え、 何だって?
私がヴォルフを、 何? 『好き』って事? は? 嘘、 そーなの? 私恋した事なくて分からないんだけど……。
 「……まあ、 今は分からなくてもよろしいと思いますよ。 恋とはいつの間にかしているものです、 貴女は初恋と気づくのがまだみたいですね。 私は恋もした事が無いんですけど」
もし、 私が本当に恋してるなら……恋もした事無い奴にバレてる辺り顔に出やすいタイプ? 嫌だな、 ヴォルフに気づかれたらめちゃめちゃ意地悪されそう。
……まあその時は殴るけども。
──嫌われるか。
嫌われたくないよ、 離れたくないよって思うのはどうしてなんだろう。
アイツは吸血鬼だ、 嫌われて血を吸われないとか、 離れた方が安全な筈なのに……それをしたくない。
これが、 恋って感情なのかはまだ私には分からない。
香恋はクスッと微笑むと、 私の口元に人差し指を当てて右目でウインクをする。
何か全てを見透かされてる感じで嫌だ。
 「私は応援致しますよ、 初恋が実るよう、 頑張ってくださいね」
──初恋……ね。
──あ、 忘れてた。 そういやヴォルフはミルフィに恋してたって言ってたよな……それが今もなら私の恋(?)は既に終わっている……?
早いなぁ、 失恋……。
香恋は掃除用具を私の分まで片付けると、 手を差し出して一緒に帰ろう、 と言ってきた。
この歳になって手を繋いで帰るのは嫌なので、 私は彼女の隣に立ち、 先程思い浮かんでしまった事の愚痴を聞いてもらう事にした。
いつの間にか私達はごく自然と仲が良くなっていた。 これも同じ運命を辿る者達という事の表れか……?
 「私の特殊能力は……」
電車の事故に因り塞がった道路で立ち往生していた時、 香恋はボソッと呟き私の腰に手を回してきた。
──何?
 「うわあああああああああああああああ!? 」
空高く舞い上がった私達は電車も楽に見渡せる程の位置に居た。
私は叫んだ直後口を掌で覆われ、 気づかれるのを恐れてか高速でその場を通り過ぎ私の家付近に降り立った。
 「私は飛行能力がございます。 急ですみませんでした」
 「いや、 うんまあ……」
怖すぎ……いや空に上がるのは初めてじゃないんだけど、 急は流石にビビるっての。
何で私の周りの奴らは人の事を考えないでその場優先の行動ばかりするのかな、 お願いだから私の事を気にして欲しい。
私達は自身のメアドを交換し、 これからも情報交換の為に付き合いを続ける事にした。
──でも私は、 そんな付き合い方じゃなくて普通に友達みたいに過ごしたいんだけどなぁ……ヴォルフとかとも。
ま、 叶わない……か。
 「凌菜さん、 ありがとうございました。 では、 また明日」
 「ああ、 また明日な」
私達はお互い手を振り、 香恋の姿が見えなくなるまでそれを続けた──いやあぶねーから前見て歩けよ。
 「あ、 凌菜ちゃんお帰り。 お風呂にする? ご飯にする? それとも夜の運動を早めにしちゃう? 」
──家の中には先程の会話に出て来た、 ヴォルフが居た……不法侵入だぞお前。
私は彼の顔面を両手で掴み微笑んだ。
 「えっ、 何ちゅーしてくれるの? 」
 「出てけクソヴァンパイアーーーー!!! 」
ヴォルフの身体は重りを投げる様に私の手によって放り投げられ、 家の前の塀に激突した。
彼は鼻血を出し、 身体を小刻みに震わせながら這いつくばって戻ってくる──が、 私はその右手がドアに近づくと共に力強く踏み、 ドアを閉めた。
そのあとの掠れたヴォルフの悲しい声に私は聞く耳を持たなかった。
……アイツが好きだって? あんなのに恋してるって? ──ありえない、 自分でも分かった気がする。
これは恋じゃない──と。
その日私の近所の人は低めの呻き声に恐怖を抱いたと言う────。
どうも☆夢愛です!
久々の更新となりました。
エブリスタの方で慣れてしまって中々やる気がですね。
フォロワーの方は殆ど居ないも同然のこの作品ですが、 誰に何と言われようと最後まで書き続けるつもりです。
新しい聖女が来たなら敵も来る──でございます。
次の更新もまたいつになるか見当皆目つきませんが、 よろしくお願い致しますm(_ _)m
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