夢日記

日々谷紺

急いで向かっている

 仕事があるので急いで駅に向かっている。鈍く曇った朝。毛布が絡みつき、重力に負けた重い足を引きずり地下鉄駅へ急ぐ。
 狭い歩道を横並びにのろのろ歩く年頃中学生の女2人。先を行きたいが、足が重い。歩道とマンションの境にある腰ほどの高さの鉄柵を掴み、上半身の全てで下半身を引っ張る事でようやく追い抜く。その鉄柵に洗濯物のようにハンカチを掛けている子供が2人いた。追い抜く際にそのハンカチに私が触れると、「最悪」と女の子供が吐き捨てた。
 外灯と信号機が目にチカチカ刺さる。陽は落ちている。時間帯は日付の変わる頃らしい。突然の時間の変化に対する疑問はない。走れば間に合う筈の青信号の点滅。足は固まり、とうとう地面に伏せてしまう。目の前で赤に変わった。後ろに中学生の女2人の気配がある。
 信号は青。上手く立ち上がれない。四足走行で横断歩道を渡る。必死だった。

 駅に到着すると、大規模な改修工事が行われていた。床のあちらこちら、まばらに穴が開けられている。穴の奥に作業員。建築系学校の学生達だった。模型でも作るつもりか、発泡スチロールの角材を巨大なジャングルジムのように張り巡らせている。穴は底深く、白いジャングルジムは神秘的にさえ見える。
 地下鉄に乗るには、地下に降りなければいけない。穴から覗く学生に声を掛ける。
「ここから降りて良いよ。」
 発泡スチロールの横棒に、慎重に足をかける。少したわむが、崩れない。少しずつ、少しずつ降りる。半分程まで降りたとこで、大きく揺れた。
「おい!重石乗せすぎだ!」
 怒声が反響する。平行のバランスを調整するために重石を使うらしい。見れば、重石として使っていたのは分厚い辞書や書物だった。構造体の端っこがパキパキ音を立て歪んでいる。ああ、取り返し着かない、欠陥工事だ、どうして学生にやらせた、と誰の感情とも分からない言語が頭をよぎる。

 やっとの思いで地下の地面に降り立った。辺りは暗い。上方でちらつく懐中電灯や作業の灯りが、先程見た外灯や信号機の様にチカチカと目に刺さる。地下の床も穴だらけで、作業員がヒョコヒョコ四方に生えていた。早く葬式へ行かなければならない。目的がすり替わっていることに気付いていない。少し先に明るみが見える。あれが入り口だ。
 葬式会場に入ると、部屋の中心の台の上に老いた死体が寝ころんでいる。その足の向く先に、沢山の花と線香がある。遺影はない。老いた男の死体は、遠い昔の恩師らしい。中年の女が複数名、線香をあげる列を作っている。私も線香をあげる。それから老いた男の死体を取り囲み、手を合わせる。呻き声が聞こえる。男の頭の近くに老婆が立っている。
「なんて酷いこと…なんて酷いこと!」
叫びながら男の頭を抱き込んでいる。その下で、老いた男が顔を皺だらけにしてもがいていた。
「彼は死んでいるよ。法律が言ったんだ。」
 そう言って誰かが男に薬を打った。老いた男の身体が台上でむき出しのまま、横にあった焼却炉の中へ横向きのまま運ばれていく。老婆を含めてその場の全員が黙って見送っている。 

20151031

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