限界知らずの勇者召喚史

深谷シロ

第5話 転生

三校合同企画の勉強会より二ヶ月。


四人のグループは途切れつつも会話は続いていた。さらに四人は二週間に一回程共に外出していた。


『次はいつ行く?』


花緒がグループで言う。前回は二週間前にショッピングモールに四人で行った。


『今まで行った事がない所って何処がある?』


弥斗がすぐに返事を返した。


『水族館は行ったことがないかな。』


エドがそれに返事する。四人は二ヶ月で四回。動物園、ショッピングモール、森林浴、遊園地に行った。まだ行ったことがない場所は沢山あるが、エドが言ったのは水族館のみだった。エドは水族館に行ったことが無い為である。


『いいねそれ。僕は賛成だよ。』


悠斗が賛成する。悠斗は基本的に自分の意見を出していないが嫌な訳では無い。嫌であれば嫌と言う。賛成だからこそ賛成しているのだ。


『じゃあ、それで良いかな?』


花緒が再度聞き直す。それに男子三人が即座に『OK』と返事する。


『じゃあ、明後日いつもの所で。』


花緒が締める。いつもの所というのは、エドの学校に近い駅の事だ。電車で行く場所の時は駅で待ち合わせている。


その当日は晴れていた。このような日の事を世間ではお出かけ日和というのだろう。本当に天気が良い。日差しが眩しい。


待ち合わせの時間である十時の五分前にエドを除く四人が集まっていた。一番先に着いたのが悠斗である。30分前に待ち合わせ場所へ着いた。悠斗はこのような待ち合わせには余裕を持って行動したい性格なのだ。


皆早くに着いていたが、エドは十時きっかりに到着した。それもそれで狙ったのではないかと思いそうだが、エドはそのような性格ではない。まぐれである。


五人は電車に乗った。水族館は二つ隣の駅の近くにある。三年前に建てられた新しい水族館であり、年間来場者数が去年日本一に輝いた。他の水族館にはいない生物を多く見ることが出来るからだ。様々な生物に適応した環境を作り出せるような設備を整えているそうだ。


五人は二週間の内に起こった面白い出来事を話していた。真っ先に話し始めたのは弥斗だった。


「僕の学校でこの前全校集会があったんだけどね。その時に校長が話をしたんだ。まあ、そこまでは退屈だったんだけどさ……最後に礼するでしょ?校長が礼の角度が深すぎてカツラが落ちたんだよ」


定番のカツラネタである。弥斗と悠斗の学校の校長はカツラである。そう、カツラ。校長はしばしば笑いの種となるであった。


「あ、それ私の学校も。」


花緒の学校もそのようである。今どきの校長の流行りなのだろうか。エドも頷いた。


四人は談笑しつつ歩いていると、いつの間にか水族館に着いたようだ。水族館は混んでいた。まだまだ来場者数が伸び悩むことはないようだ。来場者側としてはもう少し静かであってほしいものだが。


弥斗が四人分の入場者チケットを購入し、中に入った。水族館に入るとすぐに魚が泳ぐ姿が見える。辺り一面は青い世界だ。上下左右。全てがガラスに囲まれ、その奥を魚が泳ぐ。この水族館は歩くコースの最初から力が入っているようだ。ここが魅力の一つなのだろう。


「すごいな……。」


エドが驚いていた。この水族館に初めて来た人は同じようなセリフを言うようだ。スタッフが少し微笑ましく見ていた。美形である四人は少なからず周囲からの視線を浴びている。四人全員が美形であるため、その視線には慣れているのだが、たまには違う意味を込めた視線もある。


「……花緒少し前に行って。」


悠斗が花緒に言う。花緒も気付いていたのだろう。少し前に出る。


入場してから数分経ったが、花緒の後ろを付けるようにする中年男性がいる。明らかな変質者だ。周囲もそれには気付いているが、明確な証拠が無い為に注意しづらい。そんな状況が続いていた。


弥斗、悠斗、エドは花緒を前にするようにして、次の場所へと進んだ。立ち去る寸前に中年男性の舌打ちが聞こえたが、流しておいた。別に大袈裟にする必要も無い。


水族館を全て制覇するには一時間ほど掛かるらしい。焦る必要は無く、ゆっくり歩いていた。次の場所に移る時、通路も全てガラスに囲まれている。勿論、魚は泳ぐ。魚と共に歩いているような気持ちになれるようだ。


この水族館には世界各地の保護区や管理団体の手を借りて、様々な魚貝類を展示している。と同時に保護しているのだ。水族館を管理しているのも保護団体である。だからこそ様々な環境を用意し、様々な魚貝類が見れる日本唯一の巨大水族館と称される。


手入れが行き届いた水槽に栄養の行き届いた魚貝類。生き生きとした泳ぎが子供達にも人気を博している。四人の周りにいた子供達も水槽から目を話せないようであった。


四人が水族館を全て見終わる頃には通常の三倍、三時間経っていた。時間は13時30分。正午を過ぎていた。お腹も空いていた為、水族館の近くの公園で食べる事にした。


「はい、これ。」


花緒は今日の為に弁当を作ってきていた。その為に10時という中途半端な時間になったのだが、それは三人は特に気にしてはいない。どちらかと言えば花緒の弁当に期待する気持ちの方が大きいか。


「じゃあ、お先に。」


弥斗が箸を受け取ると、弁当から定番メニューの卵焼きを取る。そのまま食べた。


「……美味しい。」


弥斗は小さく呟いた。弥斗の予想していた味の数倍は美味しかった。花緒の家がレストラン経営で両親から料理を学んでいた事が絶品になる理由であるのだが、それは他の三人は知らなかったのだ。


「じゃあ、僕も。」


悠斗とエドも食べ始める。


「本当だ、美味しい……。」「うん、美味しいね。」


どちらも気に入ったようだ。


「良かった……少し自信が無かったから。」


花緒が自信が無ければ、恐らく料理を始めたばかりの人は自信の欠片すら無くなるような気がするのだが、三人は指摘しない。




談笑していた四人は気付かなかった。聞こえる大声を気にしていなかったばかりに逃げるのが遅れたのだ。四人で最も早く気付いたのは食べていなかった花緒であった。


「……あっ、逃げてっ!!!!」


三人も花緒の言葉に周囲を瞬時に見渡す。だが遅かった。四人は次の瞬間、暴走していたトラックに轢かれてしまった。そのまま四人は意識を手放した。

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