限界知らずの勇者召喚史

深谷シロ

第3話 一件落着

「お前らがやったんだろ?」


担任は悠斗と弥斗に言う。


「それは僕です。悠斗は関係無いです。」


弥斗は隠そうともせずあっさりとバラした。実際、担任ぐらいになら隠す事は容易なのだが、面倒だという理由で隠さない事にした。


担任は二人を信用していない。昨日、男子生徒が妬みで二人を攻撃しようとしたように。第三者として立つべきの担任が生徒を嫌っている。教師失格と言わずして何と言おうか。こんな教師がいる事の方がおかしいだろと思うのだが。


「そんな嘘が信じられるか。」


担任は弥斗がやったという供述は信じた。但し、悠斗は関係無いという供述は認めなかった。どこまでも自分勝手な担任である。


「お前らがやったんだろ?俺には分かってる。お前らならやるとな。」


とんだクソ教師だ。弥斗はそう思う。僕がやった事に悠斗を巻き込まないで欲しい。


「そうですか。ではこれを見て下さい。」


弥斗は担任にUSBメモリーを渡した。この中身を見ろ、というメッセージだ。


「ふん、こんなもの証拠にすらならない。お前らがやったんだからな。」


いい加減うざい。さっさと見ろ。今からでいいから。弥斗は怒りを抑えるのに苦労したせいで引き攣った笑みになった。


「とにかく見て下さい。」


担任はノートPCを持ってきてUSBを挿した。そして動画を開いた。昨日の光景が全て録画されたデータだ。あの現場に目撃者は多数いた。特に女子生徒。悠斗が頼んでおいた。


「これは加工されてるな。間違いない。」


……は?いや、加工してないですけど。……というより英語の教師がどうしてそう断言出来るんだ?動画は4Kだ。綺麗な映像なので加工していれば不自然な流れになる。


「これは偽物だ。……おっとすまんな、手が滑った。」


この担任は生徒の物を平気で壊した。USBメモリーを床に叩きつけて踏みつけたのだ。誰が見ようとこの担任が意図してした事だと分かる。


「まあ、良いですよ。それは一応預かりますね。予備は沢山あるので大丈夫です。」


最後だけ特に強調する。満面の笑みで。偽教師の顔が盛大に歪んだが、それは面白かったので良しとする。


「では、失礼します。」


担任の返事も待たずに勝手に生徒指導室を出た。今は放課後。勿論、自由に帰って良い。だが、悠斗と弥斗が行った場所は違った。


「失礼します。」


教室棟とは別の、特別棟にある情報室に行った。そこにいる情報科目の教師に話を聞いた。


「この動画って加工されてますか?」


「……全く手が加えられてないわね。」


動画の内容について何か言いたい事があるようだが気にせず話す。


「これは昨日の事なんですが、担任が僕達の事を信頼しない事を分かっていたので、こうして動画で撮っていたんですが、これすら加工って言ったんですよ。それも断定調で。」


「そうなの?」


女教師は耳を疑った。まさか同じ学校の教師にそんな人がいるとは思いもよらなかったのだろう。弥斗も悠斗もまさか本当に現代にいるとは思わなかった。


「これについて聞かれた時は僕達の味方をお願いできますか?」


「分かったわ。私はきちんと正しい方につくわ。」


「それで結構です。ありがとうございます。」


情報教科の女教師は頭を抱えていたが、これで一人は味方につけた。後は……。


その後、弥斗と悠斗はある所によって帰った。


次の日。教師の朝礼でとある議題が出ていた。


「これは何でしょう?」


教頭は一つのUSBメモリーを懐から取り出した。教師に意見を求めているらしい。


「それは何ですか?」


一人の教師が聞く。


「これは昨日、とある生徒が渡してきました。動画が中に入っています。情報の渡部先生にもお尋ねしましたが、加工などはされていないようです。ですが、内容が内容なので皆さんに一旦お見せします。」


そう言って教頭は職員室のスクリーンに映像を投写して流した。それは昨日、弥斗が教頭に渡したUSBメモリーだ。担任が証拠隠滅しようとしたと言葉を添えて渡した。


「これは……。」


殆どの教師が言葉が出なかった。自分の学校でこのようなイジメが行われていたとは知らなかったのだ。この動画には男子生徒達が教室で話していた内容なども含まれた特別版だった。担任も見せられていない。


「どういうことかね?金浦先生。」


担任の名前だ。金浦は顔が真っ青になっていた。そして喚く。


「あいつらが悪いんだ!沖白と塩崎が!」


「生徒のせいか!!」


今まで静寂を保っていた校長が口を開いた。校長も為すべき対応をしなければならないと感じたのだろう。金浦に言った。


「君も自白したようなものだ。これは教育委員会に回す。そして君の退職も決定するだろう。」


金浦は崩れ落ちた。仕事を退職させられたという経歴が付けば再就職は難しい。


「君には期待していたのだが、本当に残念だよ。」


職員室は静寂に包まれた。それを外で聞いていた弥斗は教室に戻り、男子生徒が10人ほどいなくなった教室で悠斗と話した。勿論、小声で。


「金浦は退職みたいだ。」


「ああ、そうか。良かったよ。」


悠斗も満更ではなさそうだ。あの教師を気に食わなかったのはお互い様のようだ。


それから数週間後、担任は変わった。


新しい担任でクラスが特例で変更された。大きな理由として停学処分とされた21人を同じクラスに固めようという学校側の考えだ。問題児はまとめたいということ。


僕と悠斗の完全勝利だ。実質、悠斗は関係無いけど。

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