限界知らずの勇者召喚史

深谷シロ

第2話 余裕

ある雪が降る日。


「────ごめん。」


「……そうですか。」


沖白悠斗の言葉を受け止め、女子生徒は去っていった。


それを見届けたように悠斗が白い息を吐くと、物陰から弥斗が出てきた。


「また、だね。どうして誰の告白も受けないの?」


「僕には……ある約束があるんだよ。」


弥斗の失礼な物言いに怒ることなく、悠斗は言った。彼には彼の思いがあるのだろう。


「……そうなんだ。寒いから教室に戻らない?」


「ああ、そうだね。」


そして、寒い校舎裏にいてももう何も起こらない為、教室に戻ることにした。悠斗と弥斗の教室は三階。二年三組だ。高校生である。


今日は雪が降り、寒い日。そして女子にとっては少しばかりいつもと違う日。今日はバレンタインだ。悠斗は今日だけで交際の申し出を十回断っている。


高身長でイケメンである悠斗は、高校に入学する前から彼の彼女になりたいという女子は多かった。しかし、悠斗は全て断っている。本人には何か理由があるらしい。


弥斗も顔立ちは良いのだが、どちらかと言うと彼の優しい性格から彼は恋愛対象にはならないようだ。あくまでもクラスメイトらしい。


悠斗と弥斗は中学生以来の親友だ。二人とも成績優秀、運動神経抜群である。そんな秀才の二人がずっと二人だけでいれば、クラスで浮くのは時間の問題だった。


二人は互いの事を信頼している。その信頼関係に新たな人を加えようとは全く考えていなかった。


二人で完璧である。そこに隙は存在しない。片方に苦手とする分野があってももう一人がそれを補う。そのような仲である。本当の親友である。


だが、外見と内面共に完璧の二人は女子には人気でも同性には好まれなかった。


所謂イジメというやつだ。日常的にバッグの中身を荒らされ、金銭類、金になるものを置いていれば盗られたり、売られたりする。当然、そのお金が戻ることは無い。


別に忘れっぽい性格でもないため、二人はいつも金目の物は全て持ち歩いている。教科書などはロッカーに入れて、毎日暗証番号を変えているため、問題ない。そして、誰よりも早く登校しているため、見られる隙も無い。


イジメに対して反抗するだけの意欲を見せなかったが、イジメられる隙すらも見せなかった。


しかし、ここまでバカにされては、流石に強硬策に出てしまう。放課後、駅までの道で人の通らない道を通る数分がある。その数分をずっと待ち続けたのだ。学校を休んでまで。


二人は大人しく着いて行った。目的を知っていた上で。二人には容易に予想がついた。その頭脳を使うまでも無かった。


「秀才さんよー何で連れてこられたか分かってるよなー?」


男子生徒二十人ほどは一斉に笑った。


「みんな、静かにした方が良いよ!バレちゃったら退学でしょ?馬鹿だなー。」


弥斗はマイペースであった。そして挑発していた。


「うるせぇ!お前らこそ黙ってろよ!」


「いや、いつも黙ってるじゃん。うわぁ、ダッセー。」


弥斗はさらに挑発した。普段の弥斗からは見られない行動だ。弥斗の本当の性格はこちらだ。学校での優しい性格は全て作っている。二重人格とは違う。


「調子乗ってるのもいい加減にしろよ!!」


「だから叫んじゃダメだって。誰か来ちゃうでしょ?あーごめん。声だけが取り柄なんだね。」


「あぁ?お前ら言って良いことと言ってはいけない事があると思うんだけど、お前らどう思う?」


挑発に乗り続けたリーダー格の男は仲間と思われる二十人に聞いた。あぁ、そうか人数が多いから有利だと思っているのか。


「えっと、悠斗。」


「どうしたの?弥斗。」


「悠斗は世間体があるから、ちょっと動かないでね。」


「いや弥斗がしたいだけでしょ。」


「そーとも言う。」


弥斗が動いたのは急だった。弥斗と悠斗を囲んでいた20人+1人は、気付いていなかった。弥斗は囲まれてからずっとこの機会を狙っていた。囲まれてここに来て今までに既に30分は経過している。その一瞬足りとも好きを見逃すまいと周辺を観察していた。


弥斗は近くにいた男子生徒を殴った。鳩尾を。その男子生徒が倒れるのは見ようともしなかった。すぐさまその隣。次は急所を。次は鳩尾を。次は顎を。次は顔を。次は鳩尾を。次は顎を。次は急所を。次は顔を。次は鳩尾を。次は急所を。次は顎を────


悠斗と弥斗を囲んでいた男子生徒二十人は残り一人になっていた。それとリーダー格の男子生徒。


「これで二人と二人だね。」


「なっ……!」


「あー喋る必要も無いや。黙ってくれる?」


弥斗はリーダー格の隣にいる囲んでいた二十人で残していた一人を鳩尾を殴って気絶させた。これで残り一人。


「あっ、ごめん。こちらが人数多くなっちゃった。ミスっちゃった。このお詫びは全員殴り倒す、要するに君も気絶させるでいいよね。うん、それで良いみたいだね。」


「……まだ、何も!グハッ!」


「元々言わせる気ないよね、弥斗は。」


「そのとーり。」


傷一つなく弥斗はこの場を制した。二人はその後、話しながら帰った。二人の会話に先程の話が上がることは無い。まるで何も無かったかのように。二人はそのままそれぞれの家へ着いた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品