Alice in the Darkness~闇の国のアリス~

闇狐

三章「三月兎のお茶会」 第六夜[誘いの白兎]

俄に雨が降り頻る真夜中のメルスケルク。
その街の中央にぽつんと佇む二人の少女。

「御姉ちゃんもう帰ろうよ!風邪引いちゃうよ!!」

「まあそう言わずに。雨は自然の恵み。それに、雨に塗らた煉瓦がノスタルジックな雰囲気を醸し出して中々良さ気じゃない?♪」

「御姉ちゃん、ノスタルジックってどういう意味‥‥」

「え?そりゃあ、あれよ。懐かしい感じがする、即ち、郷愁を思い立たせるような感じ」

「‥‥‥」

「ちょっ、何よ!急に黙ったりしないでよ!」

「御姉ちゃんさっきから難しい事ばかり言ってイマイチ理解が追い付いてないよ‥‥」

「そう‥‥」

「もう、御姉ちゃんとは付き合ってられない!私、家に傘取りに行ってくるね!」

「ああ、良いわよ。行ってきなさい」

そう言い残すとエリカは家のある中央通りの入口付近へ方へ駆け足で走って行った。

「いたぞ!誘いの白兎だ!」

そんな話をするのも束の間。アリスが足を止めている中央通りから分かれている三叉路の内の右斜め前方の『二番通り』からいかにも厳つそうな男達の荒々しく甲高い声が聞こえてくるではないか。

「!こっちに来るわね」

アリスは思わずその場で身構え、男達の声がする方へ目を見張った。

??「へっへ~ん☆捕まえれるものなら捕まえてみなさい☆鈍間な豚さん達☆」

「うるせえ!御前の肉さえ食えば、俺達はこのクソのような人生から脱会して永遠の『安寧』を得られるのだ!!」

少女の声がする‥‥と同時に、謎の人影とハルバードを両手に握り締めたガタイの良い男が二人、二番通りの入口から飛び出してきた。

その謎の人影からは二つの細長い長い耳が生えており、アリスは一瞬、『あやかし』が出てきたのかと当惑した。

「ウフフ☆豚さんのバーカバーカ☆‥‥って、ああ!?」

「!」

その人影はどうやら前方をしっかりと見ておらず、アリスが立っている方向へ突っ込んで来た。

「‥‥いてて‥‥あ、あんさん大丈夫っすか!?」

その人影はアリスと衝突すると、暫しの間よろめいて石畳に強く尻餅をついたが、それで気が冴えたのか直ぐ様立ち上がり頭をぶつけふらつき倒れるアリスに対して心配の念を向けた。

「いててて‥‥大丈夫もクソも無いわよ!危ないじゃない!!ちゃんと前向いて歩きなさいよ!!」

急にぶつかってきた正体不明の物体に対してアリスは目を三角にして熱り立った。

「わ、悪かったっす!ほんと申し訳なかったっす!」

慌てて幾度もペコペコと頭を下げて謝るその物体。
それは、夜道を照らす月光元い月灯りが正体を暴き出してくれた。
全身がマシュマロの様に白く、兎を模したであろううさ耳のカチューシャを頭に被った頭髪おも清白の少女。
然しながら瞳は紅く、それ正しく白兎の様な風貌の少女であった。

「へへ、野郎通行人にぶつかって倒れやがった。さあ今だ、始末しろ!!」

「へい旦那!」

少女達に目掛けてハルバードを振り翳し襲い掛かってくる男二人。

「ああもう駄目っすぅ‥‥!殺されるっすぅ‥‥!」

頭を抱え、ブルブルと震える白髪の少女。
しかし‥‥

「何よ情けないわね。さっきまでの『驕り』は何だったのよ」

するとアリスは徐に立ち上がり、地面に右膝を着いた状態の立て膝で、背中に背負った剣をゆっくりと鞘から引き抜いた。

「私の前に立つなんて百億年は早いわよ、この、イノブタ共!」

鏡の様な艶やかな月から発せられる光輝が彼女の背負う剣、『バスタードソード』を淡く照らし出す。
彼女がその聖剣を把持する時、その剣は月灯りにより聖剣から邪剣へと変貌し、彼女の総身に邪気を纏わせ、彼等の運命に終焉を告げさせる。

「何だこの小娘‥‥ありっ?か、体が動かねぇ!」

「旦那ぁ、こっちもでっせ‥‥!」

動揺を隠せぬままハルバードを構えた状態で硬直している男達に対し、アリスはそれを滑稽と思い嘲笑った。

「キャハハハハハハハハハハハハハ!!!どうよ、通りすがりの淑女に無惨にも切り捨てられる気持ちは!?」

一歩、また一歩と悪漢達に近づいて行くアリス。
悪漢達は手も足も出ずに顔面を蒼白にしてただ硬直している。

「マジでヤバいっすよ旦那!!?このままではあっし達、あの小娘に切り捨てられますよ!?」

「わ、分かってらぁ!!でも体が‥‥言う事を聞かねぇ!!」

悪魔の様なギョロっとした目で男達を睨み付けるアリス。

「最早慈悲も容赦も必要ないわぁ‥‥!さあ、その迸る血飛沫を私に見せてよ!!!」

アリスが男達の目の前に立ち、邪剣を振り翳したその瞬間‥‥

「ああ、もう見てられないっす!あんさんもう充分すからやめてください!」

名の知れぬ少女が慌てて仲立ちに入った。

「何よ、邪魔しないでよ!」

アリスが彼女の方に不意に顔を向けた瞬間‥‥

「‥‥!動ける‥‥!動けるぞ!」

「旦那、此処はもう引き際です!は、早く逃げましょう!!じゃないと返り討ちにあいまっせ!!」

「ち、畜生‥‥!獲物が目の前にいるというのに‥‥!ぐぐ‥‥!」

然しながらアリスは彼女の手を振り解き、男達の方を再度睨み付けた。

「自称、強かなイノブタさん達‥‥。私だったらいつでも貴方達の相手をしてあげるわ。その時は‥‥鞭と縄を持ってね!!」

「ひ、ヒィッ!!旦那、ははは早く逃げましょうっ!!」

「あ、待てゴラァ!お、俺を置いてくんじゃねぇ!!」

男達は慌てふためきながら早急に二番通りの方へ逃げ帰って行った。

「いやぁ‥‥あんさん中々お強いっすね!ウチはもう吃驚仰天っすよ!」

「‥‥」

「どうしたんすかあんさん?」

「この剣長いから出した後に背中の鞘に収めるのが面倒臭いのよね‥‥」

「あらら‥‥それはご生憎で」

アリスは顔一杯に苦笑いを浮かべ、少女の手を借りてやっとの思いで剣を鞘に収めた。

「‥‥有り難う。ところで貴女、さっきあの変な輩に付き纏われていたけど‥‥何か仕出かしたの?」

「うーん‥‥ぶっちゃけ、ウチもなんであんな奴等に付き纏われてんだかイマイチ分からないんすよね~‥‥」

「そう‥‥」

すると少女は何か思い立ったのか、俄に顔を上げると、アリスの方をキラキラとした輝かしい目で見詰め始めた。

「あ、そうっすあんさん!ウチ、今から『お茶会』に行く所何すけど、あんさんも一緒に如何っすか!?」

「お茶会‥‥?‥‥フフッ、面白そうね。良いわ。私も同行するわ」

「そんじゃあ話が早い!と言っても、そこの裏路地を行けば直ぐ何すけどね!」

少女はアリスから見て左斜め前方の裏路地を指で指し示した。

「‥‥案外近いのね。」

「期待を裏切るようで何か悪いっすね~‥‥」

少女は顔にうっすらと苦笑いを浮かべながらアリスの手を取って歩き始めた。

「そう言えば貴女の名前聞いてなかったわね。貴女の名前は?」

「『カモミール』っす!」

カモミールはにこやかで明るい笑顔を浮かべながらアリスの問い掛けに答えた。

「カモミール‥‥変わった名前ね」

「カモミールは花の名前で花言葉は『貴方を癒す』等色んな意味があるんすよ♪」

「ふふっ‥‥そう考えると中々可愛らしい名前ね」

「どうもですぅ♪」

カモミールは仄かに微笑み、喜んだ。

煉瓦造りの家々が建ち並び、軒を連ねるメルスケルク中央通りの裏路地。
小雨が降り頻る中、少女達は一軒の木造建築の廃屋の軒先で足を止めた。

「さ~着きましたよ~☆ハッタさん、お客人を連れて来ましたよー!☆」

キィーッ‥‥‥

ゆっくりと開く廃屋のドア。
そこから現れてきたものとは‥‥

??「イカれた帽子屋のお茶会へようこそ!!」

「ドキッ」

その時、アリスの心の中で静かに眠っていた『何か』が、俄に鼓動を打った。

第六夜「誘いの白兎」【完】

【第七夜へ続く】

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【キャラクターズメモ】

『誘いの白兎(カモミール・ウィアー)』

・16歳

ラシュール帝国出身

・孤児

・脳天気

・先天性白皮症(アルビノ)を患っており、巷では『誘いの白兎』と呼び親しまれ、しかし、その影では「アルビノの肉を食した者は、生涯、健康、権力、幸福の面で恵まれる」と言われており、常に町民に命を狙われている

・ハッタが時間の合間を縫って作ったうさ耳のカチューシャを愛用している

・護身用として『鉤爪』を腰に紐で括り付け、ぶら下げている

・両親と共にラシュール帝国からスピルス国へ亡命を図るも、国境付近で両親はラシュール帝国の警備兵に狙撃され死亡
※父親はラシュール帝国の兵士だった

・現在はメルスケルク街の孤児院に在住

・洋菓子屋でアルバイトをしており、夜になるとハッタと共に路地裏の廃屋の中でお茶会を開き、形が崩れてボツとなったお菓子等を並べて賞味している

・カモミールの花言葉は「清楚・逆境に耐える・貴方を癒す」

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