家族になって1ヶ月の妹に誘われたVRMMOで俺はゆるくやるつもりがいつの間にかトッププレイヤーの仲間入りをしていた
第8話 あっちもこっちもどっちもスライム
【ワールドクエスト No.1 バンバルドを覆う青い影】
星神『エリア』によって呼び出された勇者達によって、エネルガルに張られた悪しき結界は打ち破られた。
世界の移動を妨げるものが無くなった今、冒険者達は次々とエネルガルに降り立つ。けれどもそれを異界の神々が黙って見過ごすわけは無かった。
冒険者達が降り立つ聖地、セントラルエリアの傍にあるバンバルドの森。その最奥に第一の刺客を放った。
それは神の力を授けられ王として覚醒したスライム、《カイゼルスライム》。全てのスライムを従えたカイゼルスライムは神々に命じられるがままにセントラルエリアへと侵攻を開始した。
スライム達はひたすらにバンバルドの森を突き進む。彼等自身にその理由が分からないとしても。
クリア条件:バンバルドの森のどこかに潜むカイゼルスライムの討伐。
※:本クエスト発生中はスライムの出現率が大幅に上昇します。このチャンスに経験値を稼いで、来たるべき戦いに備えよう!
◇
  大前提としてスライムは1体ならどんな初心者でも一人で倒せる雑魚モンスターだ。その割には倒した時に得られる経験値が大きいので初心者救済措置と言えるだろう。
だがその出現率は高くは無い。本来ならゴブリンやボールボアというイノシシ型のモンスターがバンバルドの森には多く出現するように設定されている。けれども現在はクエスト中のためスライムの出現率が引き上げられている。
本来ならレベル上げ放題と喜ぶべき所だろうが、そうは言ってはいられない。だって実際に俺達の前に現れたスライムの数は少なく見積もっても1000は超えているのだから。
「ちょっと何よあれ……流石に加減ってものを知らなさすぎるでしょ!!」
カノンは悪態をついて鞘から剣を引き抜いた。ワールドクエストが始まってしまった以上、自分も手を出すということだろう。でも正直助かる。こうなってしまった以上、レベリングどころでは無い。
「βテストからの経験で行くとあいつらをセントラルエリアに入れてしまえばプレイヤーにとって良くないイベントが連鎖するはずよ。スライムによる被害の影響で物価の上昇とか回復薬の枯渇とかね。そうなると初っぱなから厳しい戦いを強いられることになる」
「つまりここは逃げたくても逃げられないってこと?」
「そういうことだからとりあえずはあのスライムを狩るわよ!」
土砂崩れのように襲い来る大量のスライムを目前にして俺達は構える。もちろん全ては倒しきれないがここで数を減らして他のプレイヤーに残りを倒して貰おうという算段だ。
迫り来るスライム、その一番手前の個体にパンチをお見舞いする。レベルが上がったおかげか、それとも数が多い分HPを少なめにしてくれているのかは分からないが一撃でスライムは死ぬ。ただしそんなことは気にならない。即座に次が来る。
「《ボルトラ》!」
一気に数を減らそうと今度は雷の魔法で攻撃。10体近く殲滅できたが、その穴を埋めるようにしてスライムが襲い来る。途切れる様子は一切無い。
「だったらこれはどう! 《ハイスラッシュ》!」
こんどはカノンの斬撃がスライムに突き刺さる。レベル差からか衝撃波さえ伴った攻撃は俺の攻撃なんかとは比べものにならないくらいに力強くスライムを弾き飛ばすが、ここまでやっても全然足りない。
多分その数は1割も減っていない筈だ。
「次から次へとムカつくわね……。こうなったら正真正銘の必殺技で吹き飛ばす!」
その言葉を合図にするかのようにカノンの剣が輝きを放つ。おそらくはコマンドの力だろうがこれまでとは比べものにならないくらいのパワーを剣から感じる。
これならば1000のスライム程度一撃で葬れるんじゃ無いかと思ってしまうほどに。そして高らかにその技の名を宣告した。
「マスターコマンド! 《ソウル・セイバー》!!」
剣から放たれた光の奔流が大量のスライムを巻き込みながら極大化していく。その勢いはまるでこのバンバルドの森全域を消滅させてしまいそうなくらいだ。
ただしそれは大げさだったようで光の奔流が収まったあとも森はきちんと存在していた。それでもさっきまで無数に居るように思われたスライムの数は随分と減り、運良く攻撃を免れたスライムがまばらに居るだけになっている。そのスライム達も今の一撃に恐怖したのかプルプルと震えるばかりで先程のようには襲いかかってこない。
「す、凄い」
「今のはマスターコマンド。デッキの中に3枚しか入れられない強力なコマンドよ」
せっかく多くのスライムを蹴散らしたというのにカノンの顔は険しいものだ。俺は疑問に思っていたがすぐにその答えを教えてくれた。
「マスターコマンドはレベルアップだけじゃ手に入らなくて、モンスターを倒した数とか使ったコマンドの数みたいな実績が無いと入手できないのよね、困ったことに。そんなわけでβテスト中に私が手に入れたマスターコマンドも今の《ソウル・セイバー》一枚だけ。もしもこれでスライムが生き残ってたら今度こそ手詰まりだったかも」
カノンはそう断じると踵を返してテントのある方向へと向かい始めた。
「あの残ったスライム達はどうするの?」
「とりあえず今はパス。あれを倒してレベル上げしている途中に第2波が来るなんてのは御免被りたいし」
確かに今みたいに《ソウル・セイバー》の一点突破が使えないのなら俺達2人だけで攻略するのは難しい。今もずっと続けていたら何とかなったかもしれないが数の多さから考えて、コマンドか俺達の精神力が尽きる方が早い。ここに居続けるのは得策では無いだろう。
「それに今は情報が欲しいから一度テントを回収してセントラルエリアに戻るわよ。このワールドクエスト、スルーしても良いことはなさそうだし。それにどうせカイゼルスライムとやらの周りにはスライムがウジャウジャ居るだろうから残りかすを拾わなくてもボス戦は食べ放題のバイキングになってるでしょうね」
「ってことは今日の予定は変更?」
「ええ」
俺はこのとき、カノンの顔が少しだけ悪いことを考えている顔になっていたのを見逃さなかった。
「レベリングしつつワールドクエストをクリアしてプレイヤーランクを上げる。これはもう二度と来ないくらいの大チャンスよ」
星神『エリア』によって呼び出された勇者達によって、エネルガルに張られた悪しき結界は打ち破られた。
世界の移動を妨げるものが無くなった今、冒険者達は次々とエネルガルに降り立つ。けれどもそれを異界の神々が黙って見過ごすわけは無かった。
冒険者達が降り立つ聖地、セントラルエリアの傍にあるバンバルドの森。その最奥に第一の刺客を放った。
それは神の力を授けられ王として覚醒したスライム、《カイゼルスライム》。全てのスライムを従えたカイゼルスライムは神々に命じられるがままにセントラルエリアへと侵攻を開始した。
スライム達はひたすらにバンバルドの森を突き進む。彼等自身にその理由が分からないとしても。
クリア条件:バンバルドの森のどこかに潜むカイゼルスライムの討伐。
※:本クエスト発生中はスライムの出現率が大幅に上昇します。このチャンスに経験値を稼いで、来たるべき戦いに備えよう!
◇
  大前提としてスライムは1体ならどんな初心者でも一人で倒せる雑魚モンスターだ。その割には倒した時に得られる経験値が大きいので初心者救済措置と言えるだろう。
だがその出現率は高くは無い。本来ならゴブリンやボールボアというイノシシ型のモンスターがバンバルドの森には多く出現するように設定されている。けれども現在はクエスト中のためスライムの出現率が引き上げられている。
本来ならレベル上げ放題と喜ぶべき所だろうが、そうは言ってはいられない。だって実際に俺達の前に現れたスライムの数は少なく見積もっても1000は超えているのだから。
「ちょっと何よあれ……流石に加減ってものを知らなさすぎるでしょ!!」
カノンは悪態をついて鞘から剣を引き抜いた。ワールドクエストが始まってしまった以上、自分も手を出すということだろう。でも正直助かる。こうなってしまった以上、レベリングどころでは無い。
「βテストからの経験で行くとあいつらをセントラルエリアに入れてしまえばプレイヤーにとって良くないイベントが連鎖するはずよ。スライムによる被害の影響で物価の上昇とか回復薬の枯渇とかね。そうなると初っぱなから厳しい戦いを強いられることになる」
「つまりここは逃げたくても逃げられないってこと?」
「そういうことだからとりあえずはあのスライムを狩るわよ!」
土砂崩れのように襲い来る大量のスライムを目前にして俺達は構える。もちろん全ては倒しきれないがここで数を減らして他のプレイヤーに残りを倒して貰おうという算段だ。
迫り来るスライム、その一番手前の個体にパンチをお見舞いする。レベルが上がったおかげか、それとも数が多い分HPを少なめにしてくれているのかは分からないが一撃でスライムは死ぬ。ただしそんなことは気にならない。即座に次が来る。
「《ボルトラ》!」
一気に数を減らそうと今度は雷の魔法で攻撃。10体近く殲滅できたが、その穴を埋めるようにしてスライムが襲い来る。途切れる様子は一切無い。
「だったらこれはどう! 《ハイスラッシュ》!」
こんどはカノンの斬撃がスライムに突き刺さる。レベル差からか衝撃波さえ伴った攻撃は俺の攻撃なんかとは比べものにならないくらいに力強くスライムを弾き飛ばすが、ここまでやっても全然足りない。
多分その数は1割も減っていない筈だ。
「次から次へとムカつくわね……。こうなったら正真正銘の必殺技で吹き飛ばす!」
その言葉を合図にするかのようにカノンの剣が輝きを放つ。おそらくはコマンドの力だろうがこれまでとは比べものにならないくらいのパワーを剣から感じる。
これならば1000のスライム程度一撃で葬れるんじゃ無いかと思ってしまうほどに。そして高らかにその技の名を宣告した。
「マスターコマンド! 《ソウル・セイバー》!!」
剣から放たれた光の奔流が大量のスライムを巻き込みながら極大化していく。その勢いはまるでこのバンバルドの森全域を消滅させてしまいそうなくらいだ。
ただしそれは大げさだったようで光の奔流が収まったあとも森はきちんと存在していた。それでもさっきまで無数に居るように思われたスライムの数は随分と減り、運良く攻撃を免れたスライムがまばらに居るだけになっている。そのスライム達も今の一撃に恐怖したのかプルプルと震えるばかりで先程のようには襲いかかってこない。
「す、凄い」
「今のはマスターコマンド。デッキの中に3枚しか入れられない強力なコマンドよ」
せっかく多くのスライムを蹴散らしたというのにカノンの顔は険しいものだ。俺は疑問に思っていたがすぐにその答えを教えてくれた。
「マスターコマンドはレベルアップだけじゃ手に入らなくて、モンスターを倒した数とか使ったコマンドの数みたいな実績が無いと入手できないのよね、困ったことに。そんなわけでβテスト中に私が手に入れたマスターコマンドも今の《ソウル・セイバー》一枚だけ。もしもこれでスライムが生き残ってたら今度こそ手詰まりだったかも」
カノンはそう断じると踵を返してテントのある方向へと向かい始めた。
「あの残ったスライム達はどうするの?」
「とりあえず今はパス。あれを倒してレベル上げしている途中に第2波が来るなんてのは御免被りたいし」
確かに今みたいに《ソウル・セイバー》の一点突破が使えないのなら俺達2人だけで攻略するのは難しい。今もずっと続けていたら何とかなったかもしれないが数の多さから考えて、コマンドか俺達の精神力が尽きる方が早い。ここに居続けるのは得策では無いだろう。
「それに今は情報が欲しいから一度テントを回収してセントラルエリアに戻るわよ。このワールドクエスト、スルーしても良いことはなさそうだし。それにどうせカイゼルスライムとやらの周りにはスライムがウジャウジャ居るだろうから残りかすを拾わなくてもボス戦は食べ放題のバイキングになってるでしょうね」
「ってことは今日の予定は変更?」
「ええ」
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