家族になって1ヶ月の妹に誘われたVRMMOで俺はゆるくやるつもりがいつの間にかトッププレイヤーの仲間入りをしていた

ノベルバユーザー203449

第5話 現実と仮想現実の妹

 クエストを終えた俺達はセントラルエリアに戻り冒険者会館へと向かった。

 理由は冒険者会館へとクエスト達成の報告に行くためだ。なんでもワールドクエスト以外のクエストは報告しなければクリアしたことにはならず、最悪の場合時間切れでクエストが失敗した扱いになる。

 なので忘れないように真っ先に報告に来た。

「すみません。クエスト報告とアイテム換金に来ました」
「はい。では達成したクエストの情報を提示してください」

 会館の受付のNPCにそう促される。そしてカノンも手慣れた物で言うとおりにクエスト情報を1秒も要せずに提示した。

「ただ今サーバーを確認中です。この作業には数分かかる可能性があります」

 そんな機械的な台詞を言うと受付嬢はクエスト情報を見たまま固まってしまった。

「これ大丈夫なの?」
「ああ、クエスト報告はいつもこうよ。不正にクリアされてないか確認するためにいちいちデータを確認してるの。まあ基本的に20秒もあれば終わるからそんなに心配しなくて良いわよ」

 カノンの言うとおり受付嬢は20秒もしないうちに元に戻る。

「確認が完了しました。報酬の800パルムと回復薬×1をお受け取りください」
「どうも。ほらアキト君も」
「あ、うん」

 目の前に『報酬を確認してください』というシステムメッセージが現れたのでそれをタップ。するとアイテムストレージに回復薬が、所持金に800パルムが追加された。

「おめでとうございます。クエストを始めてクリアしたので実績が解除されました。こちらのポータルキーをお受け取りください」

 そう言って手渡されたのは銀色の小さな鍵だ。
 それを手に取ったと同時に視界に説明文が映り込む。

『ポータルキー:一度でも行ったことのある街のポータルに転移できる鍵』

「ようはワープアイテムね。これで移動時間がぐっと削減できるわ」
「ってことは今回みたいに歩いて帰ってくる必要は無くなるんだ」

 たしかにそうならこれから先のクエストは楽になるだろう。なんせ単純計算で所要時間が半分近く短くなるのだから。

「あ、それとアイテム買い取りも改めてお願いします」
「かしこまりました」

 そしてカノンはキングゴブリンの王冠を受付に手渡した。今度は固まること無くすぐに手続きは終わり買い取りの査定が完了する。

「ではこちらで6000パルムになります。本当に買い取りでよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりましたでは6000パルムのお渡しになります」
「じゃあそのお金でテントください」
「かしこまりました。8000パルムのお支払いになります」

 カノンはβテストの時に貯めていた分もあるのでキングゴブリンの王冠と換金したお金と合わせたら軽々と支払えるはずだ。実際カノンはなんのためらいも無くテントを購入した。

「他に何かご用はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「かしこまりました。ご武運を」

 受付嬢が頭を下げたのを見届けて俺達は冒険者会館を後にした。

「さてと、これでひとまず最低限の準備はできたわね」
「どういうこと?」
「町の外でログアウトしたら幽体離脱したような状態で体だけが残るのよ。その体はログアウト中でもモンスターに見つかれば容赦無く攻撃を受けて死んでしまえばアイテムとか色々ロストしてしまう。でもテントがあれば外からの攻撃は受けないから町の外でも安全にログアウトできるのよ。だから最優先でテントを手に入れておくと移動のタイムロスをなくせるの」
「へー」

 いかんせん一番最初のクエストの直後にテントを手に入れてしまったがためにその凄さとありがたみが全然分からない。心境的にはポケベルが如何に有用な道具かをこのスマホ全盛期に語られているような気分だ。

「とにかくこれで最低限の準備は完了! 回復薬は私が持ってるから買い足す必要は無いし。あとは手頃なクエストを受けつつレベリングしていくだけなんだけど――」
「なんだけど?」
「お腹すかない? もう昼時だし」

 言われてみるとその通りだ。時計を確認するともうすぐ12時。一回ログアウトして昼食を取るのもアリかもしれない。

「じゃあ一度休憩しようか」
「うん。町の中ならどこでログアウトしても危険は無いから。メニューからログアウトを選べば戻れるわよ」

 カノンの言うとおりにメニューを開いてログアウトを選択。すると徐々に意識の薄れ行く感覚が体を襲う。立ったままで眠るような不思議な感覚がする。

 そして完全に意識が無くなるまではそう時間はかからなかった。



 次に目を覚ますとそこはゲームの世界では無く、現実での俺の部屋だった。

 どうやら無事にログアウトすることができたようだ。ゲーミングゴーグルを外して机の上に置くとベッドから起き上がって軽くストレッチ。

 仮想現実の中ではずっと歩いていたので現実の体が全く疲れていないことが不思議な気分にさせる。これが何時間もずっと仮想現実に潜り続けるVRMMO特有の感覚なのだろう。
 格ゲーでは1戦ごとに仮想現実から戻ってくるので今回のようなずれを感じることはあまりなかった。

「そうだ。お昼ご飯準備しないと」

 昨日作り置きしておいたカレーライスが残っているので今日は簡単にそれで昼食を取る。おいしいし温めるだけで食べられるからこんな昼食にあまり時間をかけたくない日にはぴったりだろう。

 俺は早速カレーを用意しようと部屋から出たのだが、その時ばったり隣の部屋から天音ちゃんが出てきた。

「あれ、アキト――じゃなかった明宏さんもご飯の準備ですか? 晩ご飯はお願いしちゃったので私がやりますよ?」
「いや、いいっていいって。気にしなくても…………というか本当にゲームやってるときとやってないときでキャラ変わるんだね」
「ええっとはい……」

 少し恥ずかしそうにして答える天音ちゃん。カノンの時はケロッとしていたがこっちのモードだと自分の変わりっぷりに恥ずかしさを覚えてしまうらしい。

 現実に帰ってくるとその髪色の違いも相まって余計に顔が同じのそっくりさん感が増している。やっぱり雰囲気がとんでもなく違う。

「一応こっちでも聞くけど二重人格じゃないんだよね?」
「あ、はい。記憶もちゃんと共通ですし、好き嫌いも一緒。何ならVRの中での出来事は全部自分でやったって言う自覚もありますし」
「じゃあ本当に性格を変えてるだけなんだ。何かそれ知って今日一日得した気分」
「得? どの辺りがですか?」

 不思議そうな顔で天音ちゃんは聞いてくる。その表情には不安の色も見え隠れしたがここは変に言葉を飾るよりもストレートに言った方が良い。

「だってこれまで知ることの出来なかった天音ちゃんを知れたんだしさ。そりゃあびっくりもしたけど、それ以上にあの天音ちゃんを見せてくれて嬉しかった」
「意外です。私の変わりっぷりに気味悪がる人も居るから明宏さんにもそう思われるんじゃないかって不安に思ってました。でも嬉しいって言ってくれて私も嬉しいです」

 そういえばこんなにもお互いにストレートに感情をぶつけ合ったことも初めてかも知れない。なんだかゲームという二つ目の現実を手に入れたことで色々な壁が一気に崩れ落ちてるような感覚だ。

「まあそういうわけでお礼もかねてお昼は私が用意します。だからゆっくりしててアキト君」

 冗談めかしてカノンの口調で言う天音。けれども実際には耳まで顔を赤くしている辺り、現実の妹もこの上なく愛らしいと思ってしまった。

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