家族になって1ヶ月の妹に誘われたVRMMOで俺はゆるくやるつもりがいつの間にかトッププレイヤーの仲間入りをしていた

ノベルバユーザー203449

第3話 初めてのクエスト

「ここが冒険者会館。言い換えれば序盤の財布よ」
「言い方酷くない?」

 石造りの巨大な建物を指してカノンはそう呼んだ。

 外見はまるでロンドンの時計台のようで巨大な時計が今の時刻を教えてくれる。もっともシステムメニューから時間はいつでも見られるので不要かもしれないが、雰囲気の演出という意味では充分価値のあるものだ。

 ここは冒険者会館。全てのプレイヤーが一度はお世話になるという施設である。事前の情報によれば、ここでは回復薬などのアイテム購入やクエスト受注などができるらしい――のだが、俺はこのクエストというものが良く分かっていなかった。

「あのさ、カノンさん。クエストって何種類かあるらしいけど、あれって何が違うの?」
「よし、じゃあ良い機会だから教えるね」

 冒険者会館の巨大な扉を開けながらカノンは答える。そして人差し指を立てて言葉を続ける。

「クエストは大きく4つに分類されてる。一つ目は会館クエスト。この冒険者会館で受けることの出来るクエストで、あそこのクエストボードの前に立ったら表示されるメニューからクエストを受注。そんでそれをこなして会館に戻ってくると報酬とクエストポイントがもらえるの」
「クエストポイント?」
「ざっくり言うと会館クエストでしか手に入らない、アイテムと交換できるポイントのこと。ただしポイントがもらえる分クエストそのものの報酬はしょぼいのよ。汎用アイテムとお金とか。まあでもその分全部のクエストが誰でも受けられるようにはなっているからハードルは一番低いの」

 ここまで一息で言い切ると二本目の指を立てた。

「二つ目にプライベートクエスト。これは街中とかに居るNPCから受注できるクエストよ。会館に来れば受けられる会館クエストと違ってクエストが発生するNPCを自分の足で探さなきゃいけないし、ものによってはクエストを受けるための条件を満たしてないといけなかったりするからハードルは高めね。その分限定アイテムとかが手に入ったりするからゲームになれた頃に積極的にやった方が良いかもね」
「ここまでは分かった。じゃあ三つ目と四つ目、続けてどうぞ」
「歌番組の司会? まあいいや」

 息が切れたのかカノンは一呼吸だけ置いて再び口を開く。

「三つ目はプレイヤークエスト。文字通りプレイヤー間で受発注し合うクエストのことよ。一応使い方としては自分では集められないアイテムを他人にやってもらうとかそういう使い方になるわね。でもこれは今後実装予定ってことで今はできないから気にしなくて良いと思う」

「あ、そうなの」

「んで、最後に紹介するのがワールドクエスト。これはゲームのシナリオ進行に関わってくる物で、常時全てのプレイヤーが受注している状態になってる。達成条件を満たすと自動的に更新されていくことになってる。そして更新される度に新要素や新エリアが追加されていくの」
「じゃあゲームのストーリーに関わりたいならワールドクエストを積極的にやれば良いってこと?」
「そうそう。あとワールドクエストの達成報酬やボス討伐報酬は凄く豪華って話だから私はそっちメインでやりたいって思ってる」
「ってことは今日はワールドクエストを進めていくの?」

 この話の勢いのまま早速ストーリー攻略だと思っての言葉。けれどカノンは首を横に振った。

「いや、ソレより先にアキト君にゲームに慣れて貰うのとレベリングしなきゃだから会館クエスト行くよ。序盤の活動資金も集めなきゃならないし。私もβテストから引き継いだ分でも安泰って訳にもいかないし」
「え、そうなの?」
「序盤は家買ったり野営道具買ったりで出費かさむし。それにβで稼いだ分はほとんど装備に消えたし」

 意外とゲームの金銭事情は複雑らしい。βテストからの引き継ぎ要素に所持金があるのでカノンの懐は余裕があると思い込んでいたのだがそうでは無いようだ。
 あと家とか気になるワードが飛び出したけど後で聞くことにしよう。あまり迷惑をかけるのもよくないし。

「まあそんなわけで少なくとも最初の一週間はコツコツお金稼ぎだね」
「了解」

 その返事を聞いて満足げに頷いたカノンは足早にクエストボードへと駆けていく。そしてその前でメニュー画面を開いて手際よく操作。そしてすぐさま戻ってきた。

「はい、クエスト受注完了。これであとは現場に行ってクエストをこなすだけ」
「早っ! あそこにある受付に行かなくても良いの?」
「あれは雰囲気だけで行かなくても良いみたい。多分普通のショップでしょ」
「ええ……」

 色々とぶち壊しである。まあいちいち並ぶようにしてたら行列が出来てしまう。いまでさえ会館の中には多くの人間が詰めかけてきて満員電車のような様相を成している。この様子なら利便性を優先するのもうなずける。

「まあここには貸倉庫とか銀行とかもあるみたいだけど今は預ける物も無いから用事無いし。そんなもの見て回って時間潰すより先に生活の基盤整えなきゃ。時間はあるんだし」
「でもクエストって何したら良いの? モンスターを倒すとか?」
「その通り。今回はプレイの練習もかねてゴブリン4体倒したら終わるクエストにしてみました」

 ゴブリンは昨日の予習で知っている。たしか序盤の雑魚敵で小学生くらいの背丈で緑色の小さな鬼みたいなヤツだったと記憶している。

「ゴブリンは弱いからもしアキト君がやられそうになっても私がカバーできるし。あと生息地が広いから見つかりやすいっていうのも初心者には易しいところかな」
「それすごいお得って感じじゃ無い?」
「でもみんな考えてることは同じだろうからなー早く行かないと公式サイトに載ってるようなおすすめの狩り場とられちゃうし」
「でもカノンさんはβテスターだからこの辺の地理とか全部知ってるんじゃ無いの?」

 カノンは少し申し訳なさそうな感じで首を横に振る。

「それがβテストの舞台は全然違う場所なのよ。しかも今後通常プレイで行けるかも怪しいし」
「何ソレ。無人島とか?」
「もっと辺鄙なところ。高度1万キロメートルに浮かぶ天空島」
「え?」

 これまたおっかなびっくりな単語が飛び出した。よりによって空である。

 よくよく話を聞くとβテストにもシナリオが存在し、そのシナリオというのが異界の神々が作った冒険者を惑星『エネルガル』に入れないようにするための結界を破壊するというもの。結界の発生装置が天空島に存在するのでそれを破壊すればクリアということらしい。

 ちなみにその天空島は結界の外側にあるので冒険者は侵入出来たとのこと。あとついでに言うと天空島と今俺達が居る大地とはマップ上繋がっていなかったらしくバグを利用して飛び降りても無限に続く空を永遠にスカイダイビングする羽目になったらしい。

「じゃあ今俺達がこうしてゲーム出来てるのはβテスターのおかげってこと?」
「そういうこと。感謝として今日の晩ご飯作ってくれても良いのよ?」
「いや、元々作るつもりだったけど」

 今日はたまたま親は両方居ないのでどちらかが作るか買いに行く必要があった。幸いにも二人とも料理は作れるのでわざわざ外に作りに行かずとも冷蔵庫の中身だけでちょちょいと晩ご飯は工面できるのである。

「よし、これで今日の懸念事項は消えた。これでゲームに集中できる!」

 めちゃくちゃ嬉しそうにガッツポーズして来るカノン。まあABVRはかなり楽しみにしてたみたいだから1秒でも長くやりたいんだろう。

「じゃあ今度こそ行くよ。ABVRでの初戦闘に」

 そういうわけで俺達はいよいよクエストに繰り出すことになった。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品