家族になって1ヶ月の妹に誘われたVRMMOで俺はゆるくやるつもりがいつの間にかトッププレイヤーの仲間入りをしていた

ノベルバユーザー203449

第1話 家族歴1ヶ月の俺と妹がVRMMOをやることになったワケ

「明宏さん。荷物が届いてますよ」

 いつものように部屋で動画投稿サイトの旅動画を見ていた7月最後の日のこと。

 控えめなノックの音と共にそんな声がしたのでパソコンをスリープモードにして扉を開いた。

「ありがとう天音あまねちゃん。重くなかった?」

 扉の前に立っていたのは大人しそうな雰囲気を醸し出している長い黒髪を持つ女の子。俺の妹、沢木天音だ。

 見た目は中学2年生というのを考えても小柄な方だが、意外に力持ちらしく結構大きめの段ボールを軽々と持っている。どちらかと言えば彼女はインドア派なので余計にギャップが強い。

「いえ、私力には自信がありますから。わざわざ一階に降りてきて貰うのも申し訳なかったですし……」
「良いって良いって。そんなに気を遣わなくても。それよりほら、荷物貰うよ」

 遠慮がちな天音から荷物を受け取って床に置く。そして早速その辺に置いてあったはさみを使って段ボールを開けていく。そんな様子を見届けると彼女は黙って俺の部屋から出て行こうとした。

「あ、待って!」
「え?」
「この荷物、天音ちゃんに渡そうとしてたやつだから」

 言いながら俺は段ボール箱の中から一つの白い箱を取り出した。

 今世界中を騒がせている超最新ゲーム機の外箱だ。

「あ、コレって……!」
「《アルテマブレイバーズ ヴァーサスリバイバル》、世界初の家庭用フルダイブVRゲームってやつ。天音ちゃんこういうの好きでしょ?」

 《アルテマブレイバーズ ヴァーサスリバイバル》。略称ABVR

 25年もの間続く人気シリーズである《アルテマブレイバーズ》シリーズの最新作にして、今言ったように世界初の家庭用フルダイブシステムVRゲームである。

 これまでは意識そのものを仮想現実に移すことが出来るタイプのフルダイブVRゲームはゲームセンターに置くような業務用しか存在していなかったが、この度なんとついに家庭用ゲームとして発売されることとなったのだ。もっともその業務用の物もこのABVR発売に先駆けたVR技術の試験目的に稼働していたらしいが。

 ともかくそんな歴史に名を間違い無く残すことになるであろうゲームである。ちなみにジャンルはMMOアクションRPG。アクションが付いているのがミソらしいけどRPGをそんなにプレイしない俺にはよく分からない。

「これ予約が2分で終わるような代物なのによく手に入れましたね!」
「いやー友達に誘われて出てみたVR格ゲーの大会で入賞しちゃってさ。その景品で貰ったんだよね。いやーソフトとVR機器両方くれるなんて、最近のゲーム会社は気前が良いよね」

 そのたまたま出た大会というのがその格ゲーの販売元の会社主催の物で、その会社がABVRの開発元と業務提携しているからこその、この景品とのことだった。

「でも貰ったはいいけど俺RPGとかあんまりやら無くてさ。知り合いに譲ろうと思って賞品辞退はしなかったんだけど、みんな口を揃えてそんなもの受け取れないって言うから手元に残っちゃってさ。だからまあ、余り物を押しつけるみたいなのは分かってるんだけど、受け取ってくれないかな?」

 俺はそう言って箱を差し出す。けれど天音は困り顔。そうしてしばらく俺の顔を見つめたあと、遠慮がちに口を開いた。

「あの、ごめんなさい明宏さん。それはちょっと受け取れません……」
「ああ、やっぱりそうだよね。というかゲームに興味あるかも俺の勝手な推測だったし、迷惑だったかな」

 割と手探りな家族関係改善ためのプレゼントのつもりだったがこの様子だと余計なお世話に終わりそうだ。そんな想いが顔に出ていたのかすぐに天音はフォローするかのように話し始める。

「あ、気持ちは嬉しいしそのゲームが欲しいのも当たってるんですけど。実は私、都合着いてたんですよね」
「都合がついてたって、VRゲーム機の?」
「あ、はい。βテスター特典の優先購入権があって」

 そういえば聞いたことがある。ABVRには抽選で選ばれた2000人しか参加できないβテストというのが存在していて、それには色々な参加特典が存在しているという話だった。その中にVRゲーム機と製品版ソフトの優先購入券があったというのも話には聞いていた。

「じゃあ天音ちゃんはβテストに参加してたの? そんな様子無かったのに……」
「明宏さんが知らなくて当然です。βテストが行われたのは4月だから」
「ってことは俺達が家族になるより前の話かあ」

 実のところ、俺達は生まれた時から家族という関係では無い。

 兄妹になったのはほんの一月前。互いの親の再婚が理由だった。つまりは血の繋がっていない義理の兄妹というやつだ。

 そりゃ母さんが娘さんの居る相手と再婚すると言ったときは驚いたが、相手についてウキウキと楽しそうに語る姿を見て反対することが出来ず、割と軽く考えてOKしてしまった。

 天音ちゃんもそこは同じような経緯らしく父親の意思を尊重してGOサインを出したとのことだ。

 けれど思春期の若者同士、それも異性同士がそれまで顔も名前も知らなかった相手と即座に仲良くできるかというのは難しい課題であり、ましてや家族として一緒に暮らすというのはハードルをこれ以上無く上げていた。

 別に険悪というわけでは無いのだが、強引に話を振る位のことはしないとあまり会話には発展しないという微妙な距離感のまま過ごしていた。今日俺がABVRをプレゼントしようと考えたのもそんな話題作りの一貫だったが思わぬ所で先手を打たれていたらしい。

「ごめんなさい。せっかくのお話なのに」
「気にしなくて良いよ。元はといえば自分でやる気の無いゲーム貰っちゃった俺のせいだし」

 けれどこうなると元からどうするか迷っていたゲーム機の行き場が無くなってしまう。

 そう思ったが意外な提案が天音ちゃんの方からされたのだ。

「もし良かったら私と一緒にやりませんか?」
「え?」
「実は私、これまでのABシリーズは全部やってるんですけど今までは一人用のゲームだったんですよ。だからMMOは今回で初めてで。一緒にやろうと思ってた知り合いみんな1次出荷分は買えなかったみたいなんで一緒にやる人が居なくて困ってたんです。だからせっかくだし明宏さんと一緒にやりたいなーなんて……」

 俺はその提案に少しだけ考える。

 今のままだと物置の肥やしになるかゲームショップに売るかのどちらかになってしまう。でも仲の良い友人達がせっかくだし自分で使えと言ってくれた品をそんな風にするのは心苦しい。

 それにせっかく天音ちゃんが誘ってくれたのだ。ここで断ったらしばらくは少し気まずくなるかもしれない。共通の趣味を持つというのも仲良くなる切っ掛けになるかもしれないし。

「じゃあ一緒にやっちゃおうか。経験者と一緒なら気楽にできそうだし」
「本当ですか!?」
「うん。面白そうって思ってなかったって言ったら嘘だし。それに偶然でもこうやって手に入ったってことは神様か誰かのプレゼントと思うし。元々自分で使わないって方が罰当たりだったんだよ」

 そうと決まれば俺は早速箱の中からゲーム機とソフトを取りだした。そして早速遊ぼうと機械を操作しようと思ったのだがそこに天音が待ったをかける。

「あ、今はまだ遊べませんよ。サービス開始は明日の朝10時からだから」
「え、そうなの?」
「だから今はキャラメイクを先にやりましょう。これはスマホやパソコンなんかでも出来るので。あ、それとせっかくなので雑誌付録のシリアルコードも入力しちゃいましょう。序盤が楽になりますし」
「う、うん」

 これまでと打って変わってマシンガンのように喋り始めた妹に驚きを隠せないが、勢いから言って止めても止まらない感じだ。やはり見立て通りゲームは結構好きらしい。

 そうこうしている内に自分の部屋にタブレットとゲーム雑誌を取りに行こうと部屋のドアノブに手をかける。

「あ、それはそうと明宏さん。なんで私がゲーム好きって分かったんですか?」

 そういえば本人から直接聞いた話では無かった。それにゲームの話をするのは今日が初めてだし。天音ちゃんがリビングでゲームをしているところも見たことは無い。でも確かな根拠はちゃんとあった。

「ほら、よく天音ちゃんリビングにゲーム雑誌置きっぱなしにしてるじゃん。ほらあのドリ通ってやつ」
「あっ」
「それに一度ソファーでドリ通顔にかぶったまま寝てたし。それでよほどゲーム好きなんだろうなって」

 途端に天音の顔が真っ赤になる。そして恥ずかしそうにそそくさと俺の部屋から出て行った。

 それは果たしてゲーム好きを隠していたのがバレたことが恥ずかしかったのか、それともそんな寝方をしているのを見られていたことが恥ずかしかったのか。その答えはきっと本人のみぞ知る。

「でも本当に自分で使うことになるとはなー」

 箱の中に入っていたゲーミングゴーグルを手に取って少しだけ掌で弄んでみる。あまりデザインとかに拘りは無いが、近未来って感じがしてかっこいい。

 明日からこれをつけて仮想現実の世界を冒険する。まさか自分がそんな経験を、しかも義理の妹と一緒にすることになるなんて夢にも思ってみなかった。

「やると決めたからには今日の内から下調べでもするかー。せっかくだし天音ちゃんにも色々教えて貰いながらやってみよう」

 タイミング良く天音が戻ってきた。多少は落ち着いたのか特に何か言うことも無く10冊近くのゲーム雑誌を床に広げた。
 そこからはゲーム雑誌を見ながらワイワイと明日の予定なんかを決めていく。この日はこれまでに無いというくらい天音と話したが、明日以降はもっと話すことになるのだろう。

 なんせゲームの始まりは明日からなのだから。



Ep.1 真夏のサービス開始と義兄妹の初協力プレイ

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