彼女と一緒に異世界を!

ごま

12.絶望

 俺達は今オニ村を出て20分程の距離にある、妖精の森という所に来ていた。
 どうやらスクラップターキーはこの森に生息しているらしい。

 オニ村を出る前にリースが軽く妖精の森について説明してくれた。
 
 この森は様々なモンスターが生息していて、害の無いモンスターから難易度Aの危険なモンスターまで幅広く存在しているらしい。

 この話を聞いた時

「それって危険なモンスターと遭遇する可能性もあるってこと!?」

 とリースに慌てて質問した。
 初クエストで死ぬとかシャレにならない。
 
 するとリースは軽く笑いながら、

「大丈夫、大丈夫。妖精の森は奥に行けば行くほどモンスターが強くなっていく、っていう性質があるから入口辺りじゃ弱いのしかいないよ」
 
 と言っていた。

 その時の俺は「なんかゲームみたいだなー」とか思いながら安心していたのをよく覚えている。
 不思議とすんなり受け入れられたのは、異世界だから何でもありとでも考えていたのだろう。

 そんな危機感の欠片も無い状態で俺達は妖精の森に入りスクラップターキーを探していた。
 しかし、スクラップターキーは一向に見つからず、俺達はどんどん奥へと進んでいった。

 そうして歩き回って10分したくらいだろうか、俺達の近くで鳥の鳴く音が聞こえた。

 それがスクラップターキーの鳴き声だということは、いち早く反応したリースの表情から明らかだった。

 「やっと見つかった!」とでも言わんばかりに晴れやかな表情をしたリースを見た俺達は、鳴き声がした方へと向かって走り出した。

 直後に背後から「ちょっと待って!」というリースの声が聞こえたが、俺にはそれが「置いてかないでよ〜」といったフレーズの「ちょっと待って」に聞こえたため、無視して進んだ。

 何せ声がしたのは目の前にある茂みを掻き分けたすぐそこからだったので、リースが置いてかれて迷子になることも無いだろうと思い進んだのだ。

 そして俺達(正確にはリースを除いたみんな)は勢いよく茂みを掻き分け、鳴き声のした場所に出る。 


 そこには、頭から先が無くなった七面鳥のような物体にかぶりつく1匹の大きなクマと、その辺りに散らばった鳥の羽と血。そして、おびただしい数の鳥の死体が無造作に放置してあった。


 そこで俺はやっと気づいた。

 最初に聞こえた鳥の声が鳴き声では無く、断末魔の叫びだったこと。

 リースが俺達に言った「ちょっと待って!」とは、この事をいち早く察知したリースによる俺達への制止の意味を込めた「ちょっと待って!」だったこと。

 そして、そのクマが俺達にゆっくりと近付いて来ていることに。

「グガァァッ!」

 その声が、クマのものだとわかった時には既に俺の目の前にはクマがいた。
 鋭く尖った爪のついた太い右前脚を俺の前で掲げている。
 その右脚は俺の体へと一直線に振り下ろされる。
 よく見るとその脚には血が付いており、スクラップターキーがどのように殺されたのかが概ね理解出来た。

 クマの動きがとてもゆっくりに見える。
 これが俗に言うゾーンか。極限状態などで集中力が異常なまでに高まった結果、あらゆる動きが遅く見えるみたいなことを誰かが言ってた気がする。

 そんな事を考えてる間にもクマの脚は俺へと迫って来ている。

 不思議と恐怖感はそこまで無かったが、このままではあっさりと死んでしまうだろう。
 そこで俺はとりあえず右手を前に出して防御の構えをとる。
 これくらいではどうにもならないだろうが無いよりかはマシだろう。

 そうして俺はあと少しでくるだろう激しい痛みに耐えるため目を瞑り歯を食いしばった。

「展開」 

 すると突然後方から声が聞こえる。
 これがリースの声だということはすぐにわかった。

 その直後に前から金属と金属がぶつかり合うような音が聞こえた。
 何事かと思い目を開けると、そこには俺の体を覆うようにバリアが張られていて、それを殴りつけたような体制のクマがいた。

 それがバリアだとわかったのは、アニメなどで時々目にするような防御結界みたいなのと見た目がそっくりだったからだろう。

「今のうちに!早く!」

 またもやリースの声がする。
 言われた通りにその場からリースの方へと避難する。
 すると、俺を覆っていたバリアが消えてなくなる。
  
「今のは?」

「私の防御魔法だよ。そんなことより、慌てて来てみたらなんでワイルドベアーと鉢合わせてるの?私の魔法が間に合わなかったら今頃もうここにはいないよ?」

 少し...いや、相当怒った様子のリースが俺に説教を始めた。

「それはまた後で。それよりジャンヌ達はどこにいるの?」

「あっ...」

 そう言うとリースは、バッとクマの方を向き途端に青ざめた。
 嫌な予感がして俺もリースと同じ方を向く。

 そこにはゆっくりとした足取りで歩くクマがいて、その先には腰が抜けたのか座った状態で震えるクレイルとそのクレイルを庇うようにして前に立っているジャンヌがいた。
 しかし、前に立つジャンヌの体はここからでも分かる程に震えていて、そのキレイな青色の目には大粒の涙が溜まっていた。

 その様子から、ジャンヌがクマに対抗する術が無いことがわかる。
 クレイルを庇ったのはおそらく無意識だろう。
 ジャンヌ自身も相当怖がっているのは簡単にわかる。

 ジャンヌの唯一の対抗手段である魔法も、頭の中が恐怖でいっぱいになっている今のジャンヌでは魔法を使うためのイメージができないのだろう。

 その事を知ってか知らずかはわからないが、クマはゆっくりと1歩ずつ、ジャンヌ達との距離を詰めていく。 
 血に染まった自分の爪を舐めるさまは、まるで笑っているようにもみえた。

「リース!ジャンヌ達に今さっきの防御魔法を!」 

「ごめん。あの魔法クールタイムがあって、連発はできないんだ」

「何秒?」

「・・・3分」

 言いづらそうにリースは言う。
 
 ジャンヌ達は何もできず、リースの防御魔法も実質使えない。
 対するクマは、圧倒的スピードを持ち、前脚による一撃をくらえば死はまぬがれないだろう。

(こんなのどうすればいいんだよ...)

 そんなことを言ったって何にもならない事は良くわかっているのだが、そう思わずにはいられないことが俺の目の前で起こっている。



 その日、俺は初めて『絶対絶命』とも言える状況に陥った。





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〈ちょっと補足〉
・ワイルドベアーは難易度でいうとBランク程の魔物で、個体によってはAランクに届く程の強さを持ってる奴もいます。

・最初ら辺に出てきたグリーンスライムは、スライム種の中でも強い方で、難易度でいうとEランクくらいです。(ジャンヌは知りません)


 


 

 



 
 

 
 
 

 
 



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