彼女と一緒に異世界を!

ごま

2. 出会い

俺の目の前にはこちらに心配そうな目を向ける金髪の少女がいる。
この子が神様がくれた俺の彼女ってことでいいのか?
それを確かめたいけど初対面の人に「君が俺の彼女?」と、聞けるほど俺に度胸は座ってない。
ていうか、仮にその質問をしたとして「はい」と答えるような人を俺はすんなり受け入れられるのか?
そもそも彼女ってなんだ?

「えーと..私の声、聞こえる?」

そんな終わりの見えないような自問自答に頭を悩ませてた俺に、その少女はより心配そうな声をかけてきた。

「まぁ、大丈夫...かな?」

とりあえずこの少女を安心させるため、当たり障りのないような返事をする。

「はぁ、良かった。急に意識を失ったからびっくりしちゃった」

ふむ、俺は急に意識を失ったという事になっているのか。
なら丁度いい。
この状況を上手く利用させてもらうとしよう。
そして俺は素知らぬ顔で目の前の少女にこう言った。

「えーと、君はいったい誰なんだ?」

~数分後~
「どう?これで大体わかった?」

「なんとなくだけどな」

俺が目覚める前の記憶が無い事を伝えた後、少女は驚いたかのように瞬きを繰り返し、しばらくしてから俺にまた話しかけてきた。

「目覚める前の記憶が無いって言ってたけど、どの辺りからの記憶がないの?」

返答に困る。
しばしの沈黙のあと、

「君と会うちょっと前くらいからの記憶がないんだ」

正直な所聞きたいことは山ほどある。
この世界の詳しい事とか、ここがどこなのかとか。
俺が「全くもって、何も覚えてない」と言えば、この少女は俺に知りうる限り情報を教えてくれるかもしれない。
だが今は、その説明の時間さえも惜しい。
詳しい事は、神様が俺に持たせてくれたという例の本に書いてあるだろう...あるよな?
俺が少しばかりの不安に胸をかられていると、

「私と会うちょっと前の事はわかんないけど、会った後の事だったら分かるわよ?」

「頼む、分かる所だけで良いから教えてくれ」

とりあえず、自分の現状を知るために俺は目の前の少女に頭を下げる。

「そんなかしこまらなくてもいいわよ..えーと、まずは私と貴方が初めて会った所からよね」

そう言うと少女は、思い出すようにゆっくりと言葉を
続けた。

「初めて会ったのは4日前、私が初めてのギルドからの依頼を無事果たした帰り道にモンスターに襲われた時だったわ」 

「ギルドにモンスターね...」 

ゲームやアニメとかでしか聞かないワードに眉をひそめる。
そんな俺の様子を見ることもせずに少女は続ける。

「襲いかかって来たモンスターはブルースライム3体だけだったわ」

スライムと聞き俺はゼリー状の魔物を想像する。

「普段ならたいした相手じゃないんだけど、その日の私はクエストが終わった後だったから気を抜いてたんでしょうね。最初の不意打ちを喰らってから私の攻撃は当たらず、3体のスライムはじりじりと私との距離を詰めていった」

俺は自分の中にあったスライムのイメージが少しばかり変わった気がした。

「その時の私はどうかしてたみたい。”私はここで死ぬんだ”とか、”短い人生だったな”とか勝手に思ってて戦闘中だってのにほぼ諦めて戦意を無くしちゃって..」

「・・・」

「そんな時だよ!颯爽と現れた貴方が全部のスライムを倒して私に大丈夫?って声を掛けてくれたの!」

ここだけ見ると主人公以外の何ものでもないが、本当は引きこもり以外の何ものでもない事を忘れないで欲しい。

「それから貴方は、私を私が住んでる村まで送ってくれるって言ってくれたの!その後は3日間ぐらい一緒に野宿して道中は何回かモンスターとの戦闘も会ったわ。その度に貴方は一緒に戦ってくれて、とっても頼もしかった..」

少女はほんのり頬を赤らめながらそう言った。
聞いてて、本当にそれ俺だったの?と強く思う。

「そして、私の住んでる村までもう少しという所で急に貴方が倒れたの。そして今の状態ってわけ。どう?わかった?」

「にわかには信じられないけど、概ね理解したよ」

「なら良かったわ」

言い終わるとすぐにはっとした表情でこちらに向き直り、俺に質問して来た。 

「そう言えばここ何日間の間一緒にいるけどまだ貴方の名前聞いて無かったわね。貴方、なんて言うの?」

「俺の名前は中村康太。コータって呼んでくれ」

「コータ、いい名前ね」

異世界でも漢字に違和感はないんだと少しばかり驚きつつ、俺は同じように少女にも質問する。

「君の名前は?」

「私は1度言ったはずだけど記憶喪失じゃしょうがないわね」

と、一旦前置きを入れるとおそらくまだ成長過程であると信じたい膨らみの足りない薄い胸を前に出して言った。

「私の名前はジャンヌ・アメリア!これからよろしくね、コータ」

そう言って俺に笑顔を見せてくる。
 

  
これこそが俺の彼女、ジャンヌ・アメリアとの出会いである。

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