彼女と一緒に異世界を!

ごま

1. 初めまして異世界

変わらない日々、目を開ければ見慣れた部屋の風景が目に飛び込んで来る。
はずだった...

「!?」

目覚めた俺の視界に広がるのは、1面真っ白の空間だが雪景色と言うに少しばかり現実味が無かった。

「なんだよここ..」

呆然とする俺の目の前には真っ白の空間の中にポツンと浮いているいくつかの画面のような物があり、そこからうつる映像を眺めている老人がいるだけだった。
その老人は俺の方を見るとわずかに目を見開いて、

「お、やっと目が覚めたかい?」

と、優しい口調で微笑みかける。

「突然知らない場所にいて驚いてるだろうが、ひとまず落ち着いて話を聞いて欲しい」

挙動不審な俺の事を落ち着かせるように老人は語りかけてくる。
俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。
聞きたいことは山ほどあるがまずはこの人の話を聞いてからにしよう。 そう思い俺は老人に続けてくれと先を促す。

「まず、先に謝らないといけないのじゃが..君はもう死んだ」

「......はい?」

「こちらの手違いでな、本当に申し訳ないと思ってる」

「いやいやいや!いろいろと意味わかんないんですけど!?それじゃあなんです?ここは死後の世界だとでも言いたいんですか?」 

この老人はいったい何を言ってるんだ?俺は必死に状況を理解しようと試みるがとてもじゃないが現実味がない。
目覚めた時とは別の事でまた呆然としていると

「まぁ、そんなもんじゃな」

まるでなんとでもないことのように言ってのける老人。

「あぁ、そう言えば自己紹介がまだじゃったのう わしはこの地球を担当しておる神..世間一般で言う所の神様という奴じゃな」

この老人、もとい自称神とはまともな会話は出来そうにないな。 
「自称神とは失礼な奴じゃのう、ちゃんと公式じゃって」

神に公式も非公式もあるのか?...ん?ちょっと待て

「ん?何じゃ?」

俺さっきから何も喋ってないんだけど..

「じゃ〜か〜ら〜、さっきから何回も言っておろうて。わしは正式な神様じゃから他人の考えを見透かすなんて朝飯前じゃわい」

「いや初耳だわ!」

俺はそこで初めて声を荒らげた 

「はて?そうじゃったっけな? まぁこれで神様ってことは信じてくれたかのう?」

「そんな簡単には信じられないけど..でもこのままだと話が進まないんでとりあえず神(仮)ってことで」

「まぁ細かい事は気にせんでおくとして、本題に入るとするかのう」

神(仮)はそこで一呼吸おくと俺に向かって言った。

「異世界転生してみんか?」

「....はい?」

まさかこんな短時間で2回も自分の耳を疑うとは思わなかった。

「ライトノベルとかでよくあるじゃろう?それと同じじゃよ」

「いや、現実でその質問される日が来るとは思わなくて..」

「悪い話じゃないと思うんじゃが、だってお前さん生前だと高校中退の俗に言うヒキニートじゃろ?それよりかはまだマシだと思うんじゃがのう」 

「うっ」

言い返す言葉が出てこないのはあの神の言った言葉が真実以外の何ものでも無かったからだ。




高校3年生の一学期、受験という言葉が本格的にプレッシャーとなって受験生を追い詰めて来る時期。

俺はそのプレッシャーから逃げたくて学校を休んだ。

元から友達などいなかった俺は休んでもそこまで罪悪感などを覚えずにすんだ。

幸いなのかは分からないが、親も急に不登校になった俺を責めようとも問いただそうともしなかった。

そこからは自分のしたいことをして寝るだけの毎日だった。

そんな生活を約1年半ほど続けた所で事件は起きた。

両親の他界、その事実は自暴自棄だった俺の心バラバラに打ち壊した。

親戚も頼れる人もいない、俺は正真正銘の1人になった。

残された物は、親が貯めていた沢山の貯金と今住んでる家。そして、砕かれた俺の心だった。

しばらくの間はろくに食欲もわかず、何も食わない日も珍しくは無かった。

親の他界によって俺の生活がいい方に傾くわけもなく、まるで価値のない日々を何日も送っていた。



そして今に至るわけである。

今振り返れば、「お前は死んだ」と聞かされた時も衝撃や疑問と同時に、「やっと終わった」と少し安堵したこと思い出す。

「お前さんの今までの生活もちらっと見てたが酷いもんじゃったぞ?それこそ、まるで死人みたいな」

否定のしようが無い。

「言い換えればこれはチャンスじゃ。昨日までの自分を捨て、新しい世界を、新たな心構えで望む。その第一歩が異世界転生ということじゃな」

「で、でも」

「まだ見ぬ世界が怖い、その1歩を踏み出す勇気が足りない、そう言って自分の殻に閉じこもるのも一つの選択肢じゃろう」

「・・・」

「じゃが、それでお前さんは何を得られる?また同じ生活に..同じ日々に戻るだけじゃぞ?」
「それだけは嫌だ...」

「それならやれるだけやってみようじゃないか。後悔するのは後からでも出来る、やらないで後悔するよりやって後悔した方がより良い結果に繋がる、とわしは思うがね」

「・・・」

「では、もう一度聞こう」

そこで優しげな表情で俺を見つめる老人が最初のように一呼吸を開けて言った。

「異世界転生してみんか?」

「.....はい!」

俺の返事を聞いた老人..いや、神様は嬉しそうに微笑んでいた。

「いい返事じゃな、ではムードを少しばかり変えていこうか。お前さんの異世界転生についての話じゃ」
そう言うと神様は俺の今後の事を語り出した。




「今回の異世界転生にはわしのミスという事でもあるので、お詫びと言ってはなんだが何か欲しい物を一つだけだが付けてあげよう」

「それって、例えば向こうの世界で最強の武器とか、チートスキルとかでもいいんですよね?」

俺は考えられる上で有力候補になるだろう2つをあげる。

「もちろんじゃとも、なんでもありじゃよ」

なんでもという言葉を聞いて俺は想像力を働かせる。
そして、ある程度考えた所で
「決まりました!」

「ほう、それで?何にしたんじゃ!?」

その質問をされて俺は自分が最も欲する物を答える。
「彼女を下さい!!!」

「え?彼女?」

神様の裏返ったような声が聞こえる。

「はい!可愛い彼女と一緒に異世界に行きたいです!」  

あ然としたような顔の神様がこちらを見ている。

「何故彼女が欲しいのか聞かせては貰えんか?」

「だって今までずっと1人だったので、異世界で心が折れたりしたときに、優しく寄り添ってくれるような存在が欲しいんです!」 

「そういう事じゃったか、てっきりイヤラシイ事考えているのかと思ったわい」

神様から俺はどういう風に見られているのだろうか..
「あ、あの、出来ますか?」

「うむ、何も問題ないぞ。では早速で悪いが異世界転生を始めるとするかのう」

「え!?もうですか?ていうか彼女は!?」

「それは現地に着いたら分かる。あと、一つ。向こうの世界に基本わしは干渉出来ないので向こうの事をざっとまとめた本を一緒に転生場所に置いとくから目を通しておくのじゃぞ」

「あ、ありがとうございます!」

「うむ、では向こうの世界で頑張るのじゃぞ!」
その言葉を最後に俺の意識は薄れていった。






「ここは...」 

目を開け辺りを見回す。
そこには、見たこともないような植物や樹木が生えていた。

「本当に来たんだ、異世界に」

しみじみと呟く俺の後ろでわずかに足音がした。
俺は振り返りその足音の主の姿を見た。

「大丈夫?」

そこには俺に心配そうに声をかける長い金髪が特徴的な美少女がいた。

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