13話 チートな俺とゴブリン姫

「私はどうなっても構いません！ ですが！ お父さんのことは殺さないで！」

そう言った彼女の顔は人間からしてみれば醜悪な顔というものが一番似合うゴブリンの顔そのものだった。 

「お父さんが消えては私達の村はやっていけないの！ だから、どうか慈悲を！」

その後先程まで言葉を失っていた健太だが、脳の判断がつきようやく口を開いた。

「別に俺はお前のお父さんを殺す気などないぞ、ただ、今は生きているか確認しにいくだけだ」

「本当？」

「ああ、本当だ」

そう言ってゴブリン王の許もとに歩み寄る健太。ゴブリン王の娘は黙って後ろをついていく。ゴブリン王のもとについた健太は、喉に手を当て脈を確認する。

「よし、息はしているな」

「息をしている…生きてるってこと？」

「そういうことだ」 

「よかった」 

彼女は胸に手を当て安堵の息をついた。

（さてと、豚男と高太を呼びに行くとするか）

チラッチラッと健太を見るゴブリン王の娘。

（ん？ 何だそれは、何か話したいことがあるのか？ にしても、流石にゴブリン顔だと萌えないな…）

（ど、どうしよう…何でこんなにドキドキしてんだろ私…さっきのこの人間の顔が頭から離れない）

「何か「あの」」  

「「…」」

（…！！？ ちょっと！ 何してんの私！恥ずかしい…）

「何か聞きたいことでもあるのか？ ゴブリン王の娘」

肩をピクッとさせるゴブリン王の娘。

「あ、あの…人間、お前は何のためにこの村に来たんだ」

目をそらしながら言う彼女、その頬は微かに赤く染まっている。

「そうだな…うーん。 簡単に言えば、お前達の村を支配しにきた」

「！！ そうか…で、どうするつもりだ」

「そこらへんはお前の父親が目を覚ましてから話すから安心しろ」

そういい終えると健太は立ち上がった。
なぜか、ゴブリン王の娘も立ち上がる。

「どうした？ お前はここで父親の目覚めを待っていなくていいのか？」

「いい…それより何しに行くんだ」

「仲間を呼びに行く」

健太は来た方向を指差す。

「仲間？」

「そうだ、仲間だ」

「何故一緒に協力しなかったんだ？」

「会ってみればわかるさ」

健太は先程指差した方向に歩きだした。

ゴブリン王の娘は黙って健太の後ろをついていく。

辺りを見ていると奇妙な虫のようなものが我が道を飛んでいた。 真っ直ぐしか見てこなかった健太はふと、のんびり進んで来た気がしていたが、案外早足でこの神秘的な世界を歩んでいたことに気づいた。それは、雨上がりの虹を見た時のようなものだった。

（今思えば、あの世界でもう少しゆっくり歩んでいたら少しはゆったり過ごせたんじゃないかと思うな）

さて、むず痒い考えをしながら歩いていた健太だが、いつのまに豚男と高太が居る場所まで戻ってきていた。

「「！！？」」

「よ、ことは済んだぞ」

「よ、じゃねぇ！！ 何で姫様と一緒に戻ってきてんだよテメェ！！」

「そうっすよ！ 姫様に何かしてないでしょうね！ 主！」

唾がとんでいるのが目に見えるほどの勢いで言うゴブリン二人組。

「いや、お前達の姫様が勝手についてきただけだぞ？」

は？ って感じでゴブリン姫の方を見るゴブリン二人組。

無言で頷くゴブリン姫。

「「はあぁ」」

手を顔に当てる豚男。 

「さて、ゴブリン達の村に戻るぞ、お前ら」

「いや、どの面下げて戻るんだよ…俺達は村を売ったていっても過言ではないんだぞ？」

「お前達が場所を教えたのか！？」

ゴブリン姫は叫んだ。

「そうだよ、姫様。 一応コイツの眷族だしな」

「…！？ ということはお前達は」

口に手を当て言うゴブリン姫、その顔は少し青い。

「そうだ、多分行方不明になってるゴブリンだ」

「…」

高太はゴブリン姫と目をあわせようとはしなかった。

「何で、こんなことを…」

「生き残るため、そして、そこにいる主がどんなヤツなのか、何をしようとしてるのか確かめるためだ」

豚男はゴブリン姫から目をそらせようとはしなかった。 真っ直ぐその瞳をみて話していた。

「…そう…確かにお前は昔から他のゴブリンとは少し考え方が違っていたとは思っていたけどここまでとは」

「悪いな」

「さて、話はすんだかな？」

微妙に沈みかけていたこの場の空気など知らんといわんばかりに健太は言った。

「…」

「まぁ、細かくはまた後で話せ」

健太達はゴブリン達の村に向けて再び歩きだした。

豚男の裏切りを知ったゴブリン姫も話さなくなり、すっかり重い空気になってしまった。