勇者の俺が科学の世界に転生した結果
2話 転生
「───と!綾人!ねぇ聞いてるの?」
ふと意識が覚める。あれ、ここは?
「ッ」
痛って、なんだこれ頭痛い。
あ、そうだ、思い出した。そうか、ここは病院だ。
「ちょっと綾人、本当に大丈夫?頭痛いの?何かあったらあ母さんに言うのよ?」
そうそう、全部思い出した。
今世での僕は桐崎綾人、3歳。そして今、僕に話しかけてきている人は僕の義母の桐崎巴、21歳。
なんとこの巴さん、もうすぐ子供が産まれるらしい。しかし、巴さんは半年前に夫を亡くしている。
これから産まれてくる子が巴さんの夫の最後の遺産というわけだ。
「ううん。大丈夫だよ、お母さん」
「そう?ならいいけど」
この人は俺の実の母ではない。どうやら僕の両親は僕を産んですぐ、交通事故で命を落としたらしい。
そして僕は、その後この桐崎家に引き取られたというわけだ。
ところで、この家にはもう1人家族がいる。
「あやと、大丈夫?」
そう、それがこの子。桐崎藍、4歳だ。この子は巴さんの実の娘で、つまり僕の義姉にあたる人だ。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「ッ!?あやと……今私のこと…お姉ちゃんって……!ママ!あやとがついに私のことお姉ちゃんって!」
しまった。僕は普段、姉のことをあいちゃんと呼んでいたようだ。
まぁいいや、この際だ。これから藍ちゃんのことはお姉ちゃんと呼ぶことにしよう。
「あらあら、私にはまだママって呼んでくれないのに」
「あやとはママよりわたしのほうがすきなんだもーん!わたしあやとのおよめさんになる!」
「藍は綾人が大好きなのね」
「うん!大好き!」
「ママも綾人と藍の事、大大だーい好きよ!」
そう言って僕と藍を一緒に抱きしめる母さん。
僕は産まれてくる子も含めてこの家族が大好きだ。この家族のためなら僕はなんだってしよう。僕は誰にもこの暖かい空間を壊させやしない。
※
ところで、今世での僕の話をしよう。
今世での僕はイケメンだ。それはもうかなりのイケメンだ。それこそ女神様にも並ぶくらいのイケメンだ。というかどことなく、顔が女神様に似てる気がする。どうやら僕は、転生する時無意識に女神様の顔を思い浮かべていたらしい。その結果、前世での僕の顔と女神様の顔を、ちょうど間ぐらいの顔になっている。初めて鏡を見た時は驚いたものだ。
鏡といえば、この世界は本当にすごい。こんな綺麗に写る鏡なんて前世にはなかった。
鏡だけではない。初めて母さんに連れられて外に出た時の事を思い出す。辺り一面に並ぶ高層ビル、何故か黒い道を、馬車とは比べ物にならない速さで走る車。
こんなびっくり箱みたいな世界に転生させてくれた女神様には感謝してもしきれない。
おっと、 話がそれた。
そうそう今世の僕だがなんと、前世での『スキル』が使える。これは僕なりの見解だが、女神様は本来魂が転生する時記憶などの汚れを浄化してから次の体に入れると言っていた。そして、魂に刻まれる『スキル』も魂の汚れとして浄化されるのだろう。
しかし僕の場合、記憶を残そうとした結果同じ汚れである『スキル』まで残ってしまったのではないか。
まあ理由なんてどうでもいい。どうやらこの世界ではなぜか『スキル』という概念はあるようだが、『スキル』そのものはないらしい。そんな世界で僕一人だけが『スキル』を使えるというのは、非常に大きなアドバンテージになると同時に、隠さなければならない秘密になるだろう。
もし僕に特殊な力があるとバレたらこの平穏な日々は崩れ去るかもしれない。
それは絶対に嫌だ。だから僕は今世では能力はバレないように使う!
「ねぇ綾人、あなたさっきからボーッとしてどうしたの?」
おっと考え事終了。今は母さんと姉との会話を楽しもうではないか。
その時───
「ウッ!」
「ママ!ママ!どうしたの!?」
「母さん!大丈夫!?」
「うっ!」
「「うっ!?」」
「うっ、産まれる!!」
「「産まれる!?」」
「あぁ!もうダメ!あやと!お医者さん呼んで!!」
「わかった!今すぐ呼ぶ!」
※
「おぎゃー!おぎゃー!」
「おめでとうございます!元気な女の子ですよ!」
「はぁ、はぁ」
「わー!かわいいね!あやと!」
「うん!そうだね!お姉ちゃん!」
前世でも何度が見たことがあったが、やはり生命の誕生とは素晴らしいものだ。
「お母さん、名前は何にするの?」
「はぁ、はぁ、はぁ、えぇ、この子は海。桐崎海よ。」
「うみちゃん!いいなまえだね!」
「うみか……。うん、いいなまえだ。うみ、よろしくな」
海。前世でも兄弟のいなかった僕に、いきなり姉と妹が出来てしまった。
しかし海は本当にかわいいな。もしかしたら僕、将来はシスコン?ってやつになるかもしれない。でも構わない!僕はシスコンと言われようがマザコンと言われようがこの家族は絶対に守る!
そう、改めて決意した。
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