家事力0の女魔術師が口の悪い使用人を雇ったところ、恋をこじらせました

アウトサイダーK

第十二話 彼女へ寄せる思いの先

「ミレーネに求婚? あんたが?」

「ああ。何かおかしいかな?」

 いかめしい目を見開いたギルバートは、市長の護衛へ目を走らせた。
 二人の護衛もきようがくした様子で、お互いにひそひそとささやきあっている。
 どうやら彼らにとっても想定外の言葉らしい。

 市長に視線を戻すと、彼は余裕を持ち、涼しげな顔をしていた。

「寄る辺なく、愛する女性が悲しんでいるのだよ。それを慰めずして何が男だ。そもそも、私ならミレーネを悲しませるようなことはしない」

 ギルバートは言葉を詰まらせる。
 確かに、ミレーネは自分のせいでおかしな様子になってしまったのだ。

「私が愛を告げても、最初は信じてすらもらえないだろうな。だが私はあきらめない。彼女が愛されていると自信を抱くまで、愛を囁き続けようではないか」

 穏やかに、かつ力強く市長は述べる。
 ギルバートはぎりりと歯を食いしばった。

「あんたは、ミレーネを愛しているのか?」

「無論だ。そして、私とミレーネの関係においてきみは邪魔だ。ちょうどミレーネもきみを追い出したがっているのだから好都合。次の勤め先は私が面倒を見る。だから彼女の前から消えてくれ」

「なぜ俺があんたの言うことを聞かなきゃならない」

「おや。異論があるのかい? 私のプラン以上にミレーネを幸せにできる手段があるのならば、言ってみてくれ」

 ギルバートはぐっと息を詰まらせる。
 ミレーネを不幸な状態に追いこんだ自覚があるため、何も言い返せなかった。

「そうだな……明日だ。明日、私はミレーネに思いを告げることとしよう。きみは早めに荷物をまとめておいてくれ。では失礼するよ。市長というのは多忙な身なのでね」

 市長がきびすを返すと、あわただしく護衛達も後に続いた。

 家の門扉の前に、ギルバート一人が残される。

「……くそっ」

 悔しげな声が雨の中に消えていった。





 ミレーネが帰宅したのは日が沈んだ後のことだった。

 雨避けの呪文によりれることなく玄関の外側まで戻ってきたミレーネは、自分がしっかりとローブもフードも着ていることを確認する。
 それから、黙ってドアノブをひねり、屋内に足を踏み入れた。

「遅かったな。おかえり」

 不意に声をかけられ、ミレーネは危うく悲鳴を上げるところだった。

 ギルバートは玄関のすぐ内側に立っている。
 祭りの日、ギルバートの怪我を治す薬を取ってくるために待っていてもらった場所とちょうど同じ所に彼はいた。

「奇妙な感覚だ。まだここに来て五日目だぞ? もっと前からいるような気がする」

 じっとギルバートに見つけられ、ミレーネは落ち着かなかった。
 目が怖いからではない。ローブやフードで隠した自分の心の底を見透かされそうで恐ろしかった。

「で、俺に出て行ってほしいというのは本当なのか?」

 ミレーネは息をむ。

「どこでそれを……」

「そうか、本当なんだな」

 ギルバートが悲しげに顔をゆがませたのを見て、ミレーネの胸は痛んだ。

「……はい。あなたには去ってもらいます」

 努めて感情のない声で返答をする。それが自分にできる唯一のことだとミレーネは信じていた。

「その前に、一つだけ頼みがある」

「何でしょうか。次の勤め先でしたら探してもらっていますし、私も退職金は充分な額を差し上げますよ」

「いや。あんたと胸を割って話をしたい」

 底知れぬ恐怖がミレーネの全身をおかした。

 廊下に散らばったままの紙を踏むのもいとわずに駆け出し、ギルバートの前を横切る。

「お、おい、待て!」

 もちろん待つはずはない。なりふり構わず家の中を走った。
 念動力テレキネシスで扉を開け、ギルバートの追跡を振り払うために背後で閉める。

 それでもすぐ後ろを追ってくる音がした。

 ――逃げこまなくては。寝室に。ギルバートを入れるわけにはいきません。

 ミレーネの寝室まであとわずか。
 念動力テレキネシスの呪文で扉を小さく開ける。

 そのすきに体を滑りこませ、すぐさま呪文により閉じようとする。

「いっ……」

 痛みのうめき声が聞こえ、反射的にミレーネは呪文を解く。
 扉が閉まらないように右手を隙間に突っこんだギルバートは、反発する力がなくなったため、痛みは無視して力任せに扉を開け放った。

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