家事力0の女魔術師が口の悪い使用人を雇ったところ、恋をこじらせました
第九話 休暇の過ごし方
ミレーネの休暇三日目。
片付いたダイニングルームにて二人で朝食を取りながら、ミレーネは話を切り出した。
「ギルバート、休暇が欲しくはありませんか?」
「休暇?」
怪訝そうにギルバートが聞き返す。
「はい。この二日間、あなたはとても熱心に勤めてくれています。新しい環境に来てくださったばかりですのに」
ミレーネの表情からはギルバートのことを心から心配していることが窺えた。
雇い主からそのような感情を向けられるのは初めてで、使用人はどういう顔をすればいいのか分からない。それゆえわずかに眉間にしわを寄せたまま、話の続きを促した。
「ですから、お休みを取ってほしいのです。何でも好きなことをしてください。食事は、一人でも何とかできますから」
「何とかするというのは、パンでも買ってきてかじるという意味か?」
「……まあ、そうです」
恥ずかしそうに目線を逸らした女主人を見て、ギルバートははあと溜め息を吐く。
「休暇はありがたくもらう。廊下などに放置されている本やらの整理整頓がまだすんでいないが、火急というほどでもないだろうしな」
「はい、それはまた後日に。ギルバートはどうぞご自由に今日を過ごしてください」
ミレーネがギルバートの様子を見てみると、どうやら真剣に考えこんでいるようだった。
しばらく無言で朝食を食べてから、彼は唐突に口を開く。
「今日まではあんたも休みなんだろう? それなら、この街の案内をしてくれないか?」
「え?」
予想外の言葉にミレーネは目を丸くした。
「……予定があるならいい」
ぶっきらぼうな言葉に、慌ててミレーネは首を横に振る。
「いえ、特に予定はありませんが。……私に、街の案内を?」
「俺はあの祭りの日に初めてこの街に来たんだ。ここのことはほとんど知らない。で、頼める相手はあんただけだからな」
頼めるのは私だけ。その言葉がミレーネの胸に響いた。
単に知り合いが自分だけだという意味だと理解はしていたが、信頼されているような気がした。
決して好かれているからではないことは重々承知していた。
「いいですよ。その、私でよろしければ」
「感謝する。準備ができたら、そうだな、一時間後くらいに出るのでいいか?」
「はい」
ミレーネはそっと微笑んだ。
その笑顔にどこか影があるような気配がしてギルバートは気になったが、考えても理由が分からない。
朝食の後の皿を片付ける頃には、気になったこと自体を忘れていた。
ギルバートは朝の家事を済ませ、外出用の服に着替え、集合場所としたリビングルームに時間ちょうどに現れた。
イスに腰かけて本を読んでいたミレーネは、彼が来たので立ち上がる。
自分の女主人が本を本棚に戻している様子を、ギルバートは惚けた顔で見ていた。
本をしまい終えたミレーネが視線に気付く。
「わ、私だって、ちゃんと片付けることもあるのです」
恥ずかしそうにミレーネが弁明をするが、ギルバートの思考を奪ったのはそこではなかった。
「いや、その……普段と違うな」
「あなたこそ。……すみません、いつもの格好の方がよかったですか?」
ギルバートは何と返答するべきか迷い、口をつぐんだ。
確かに彼は、仕事用のきっちりした服装ではなく、私服を着てきた。
ギルバートは私服としてはラフでカジュアルなものを好んでいる。
首元にボタンが縦に三つ付いている薄い灰色のシャツは、一番上のボタンをあえて留めずに着ている。
紺色のズボンは、だらしないほどではないがゆったりとしたものだ。
主人との外出なのであればもっとしっかりした服装の方がいいかとも考えたが、手持ちの私服は現状これしかない。それに、彼女であれば気にしないだろうとも推定した。
しかし、ミレーネも普段とは違う服を着てくるとは予想だにしなかった。
ミレーネは、いつもの魔術師然とした灰色のローブ姿でも、地味な無彩色のワンピース姿でもなかった。
白いシャツを着て、春らしい桃色のカーディガンを羽織り、ひだがあり裾の長いベージュ色のスカートをはいている。
机の上にはクリーム色の手持ちカバンがちょこんと置いてある。
シンプルな服装であるからこそ、ギルバートは目のやり場に困った。
これまでは見えていなかったものが明らかになったからだ。
いつもよりも体のラインが分かりやすい格好であるため、彼女の胸のふくらみが予想以上に豊かであることが判明した。薄手のカーディガンに覆われた腕は触れば柔らかそうだ。
祭りの日に足をくじいた際、一瞬でこの家の前まで移動した魔法を使うために、ミレーネが背後から抱きついてきたことを思い出す。確かにあのときの感触も柔らかかった。
ギルバートは右手を背中に回し、自分を思いきりつねった。
「私はここの方々とは人種が違いますので、普段外に出るときはローブを着て隠しているのですが。あれはあれで目立ちますので、それならこういう方がいいのかと……」
自身の黄褐色の肌と赤茶色の髪を見ながら、ミレーネは自虐的な笑みを見せる。
「やはり一人で出かけられますか?」
「馬鹿を言え。俺をあてどなくさ迷わせて、ここに戻ることすらできなくさせるつもりか?」
「そ、そんなつもりでは」
「ならば行くぞ」
「は、はい」
慌ててカバンを手に取り、ミレーネは部屋を出ようとするギルバートを追いかけた。
片付いたダイニングルームにて二人で朝食を取りながら、ミレーネは話を切り出した。
「ギルバート、休暇が欲しくはありませんか?」
「休暇?」
怪訝そうにギルバートが聞き返す。
「はい。この二日間、あなたはとても熱心に勤めてくれています。新しい環境に来てくださったばかりですのに」
ミレーネの表情からはギルバートのことを心から心配していることが窺えた。
雇い主からそのような感情を向けられるのは初めてで、使用人はどういう顔をすればいいのか分からない。それゆえわずかに眉間にしわを寄せたまま、話の続きを促した。
「ですから、お休みを取ってほしいのです。何でも好きなことをしてください。食事は、一人でも何とかできますから」
「何とかするというのは、パンでも買ってきてかじるという意味か?」
「……まあ、そうです」
恥ずかしそうに目線を逸らした女主人を見て、ギルバートははあと溜め息を吐く。
「休暇はありがたくもらう。廊下などに放置されている本やらの整理整頓がまだすんでいないが、火急というほどでもないだろうしな」
「はい、それはまた後日に。ギルバートはどうぞご自由に今日を過ごしてください」
ミレーネがギルバートの様子を見てみると、どうやら真剣に考えこんでいるようだった。
しばらく無言で朝食を食べてから、彼は唐突に口を開く。
「今日まではあんたも休みなんだろう? それなら、この街の案内をしてくれないか?」
「え?」
予想外の言葉にミレーネは目を丸くした。
「……予定があるならいい」
ぶっきらぼうな言葉に、慌ててミレーネは首を横に振る。
「いえ、特に予定はありませんが。……私に、街の案内を?」
「俺はあの祭りの日に初めてこの街に来たんだ。ここのことはほとんど知らない。で、頼める相手はあんただけだからな」
頼めるのは私だけ。その言葉がミレーネの胸に響いた。
単に知り合いが自分だけだという意味だと理解はしていたが、信頼されているような気がした。
決して好かれているからではないことは重々承知していた。
「いいですよ。その、私でよろしければ」
「感謝する。準備ができたら、そうだな、一時間後くらいに出るのでいいか?」
「はい」
ミレーネはそっと微笑んだ。
その笑顔にどこか影があるような気配がしてギルバートは気になったが、考えても理由が分からない。
朝食の後の皿を片付ける頃には、気になったこと自体を忘れていた。
ギルバートは朝の家事を済ませ、外出用の服に着替え、集合場所としたリビングルームに時間ちょうどに現れた。
イスに腰かけて本を読んでいたミレーネは、彼が来たので立ち上がる。
自分の女主人が本を本棚に戻している様子を、ギルバートは惚けた顔で見ていた。
本をしまい終えたミレーネが視線に気付く。
「わ、私だって、ちゃんと片付けることもあるのです」
恥ずかしそうにミレーネが弁明をするが、ギルバートの思考を奪ったのはそこではなかった。
「いや、その……普段と違うな」
「あなたこそ。……すみません、いつもの格好の方がよかったですか?」
ギルバートは何と返答するべきか迷い、口をつぐんだ。
確かに彼は、仕事用のきっちりした服装ではなく、私服を着てきた。
ギルバートは私服としてはラフでカジュアルなものを好んでいる。
首元にボタンが縦に三つ付いている薄い灰色のシャツは、一番上のボタンをあえて留めずに着ている。
紺色のズボンは、だらしないほどではないがゆったりとしたものだ。
主人との外出なのであればもっとしっかりした服装の方がいいかとも考えたが、手持ちの私服は現状これしかない。それに、彼女であれば気にしないだろうとも推定した。
しかし、ミレーネも普段とは違う服を着てくるとは予想だにしなかった。
ミレーネは、いつもの魔術師然とした灰色のローブ姿でも、地味な無彩色のワンピース姿でもなかった。
白いシャツを着て、春らしい桃色のカーディガンを羽織り、ひだがあり裾の長いベージュ色のスカートをはいている。
机の上にはクリーム色の手持ちカバンがちょこんと置いてある。
シンプルな服装であるからこそ、ギルバートは目のやり場に困った。
これまでは見えていなかったものが明らかになったからだ。
いつもよりも体のラインが分かりやすい格好であるため、彼女の胸のふくらみが予想以上に豊かであることが判明した。薄手のカーディガンに覆われた腕は触れば柔らかそうだ。
祭りの日に足をくじいた際、一瞬でこの家の前まで移動した魔法を使うために、ミレーネが背後から抱きついてきたことを思い出す。確かにあのときの感触も柔らかかった。
ギルバートは右手を背中に回し、自分を思いきりつねった。
「私はここの方々とは人種が違いますので、普段外に出るときはローブを着て隠しているのですが。あれはあれで目立ちますので、それならこういう方がいいのかと……」
自身の黄褐色の肌と赤茶色の髪を見ながら、ミレーネは自虐的な笑みを見せる。
「やはり一人で出かけられますか?」
「馬鹿を言え。俺をあてどなくさ迷わせて、ここに戻ることすらできなくさせるつもりか?」
「そ、そんなつもりでは」
「ならば行くぞ」
「は、はい」
慌ててカバンを手に取り、ミレーネは部屋を出ようとするギルバートを追いかけた。
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