話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

絶望の サイキック

福部誌是

フードの女

車の処置を浜野六佐に任せた右京晃司は街中を歩いていた。

彼の頭の中にあるのは今回の警察の件。

(撤退が早すぎる。なぜだ)

犯人が異能者と決めつけるには早すぎる今回の殺人事件。


街中を歩いて、横断歩道に突き当たる。目の前の信号は赤色の灯火だ。

周りの人間達は殺人事件が起こった事を知らないはずだ。

知る由もなく、知らされる権利もないまま平和だと思い込んでいる。

今、自分たちのいる街に殺人事件の犯人がいるなんて思う事もないであろう。


信号が青に変わる。

晃司は周りの人の流れに従って歩き始める。こちら側と反対側、かなりの人が横断歩道の中で交差していく。

人の流れで前から来る人の顔すら認識できない。

トンっ

と晃司の胸に衝撃が走った。ふと顔を落とすとそこには20代くらいの女性が体制を崩して、晃司の身体に寄りかかっていた。

その女性の服装は露出が多く、男なら強調された胸元に視線が向いてしまうのも避けられないだろう。

綺麗な金髪。

「おぅ、スミマセン」

そう言った女性の声はどこか心地よくて引き寄せられる綺麗な声で、発音に偏りがあった。

顔立ちも整っていて、一目で外人だと判断できる。

「いえ、大丈夫ですか?」

晃司は優しく笑顔で訊ねた。

「ハイ、アリガトウゴザイマス」

たどたどしい日本語で顔を赤らめて頭を下げた彼女は急いで晃司の元を離れて行った。


それを見送ってから晃司は歩き出した。

横断歩道を渡り終えて晃司の端末がピロン!と音を鳴らす。

端末を取り出してそれを耳に当てた。

「はい」

『右京晃司だな』

それは聞き覚えのない声だった。それもその筈だ。機械で作られた音声のように性別を判断できない。


「⋯⋯あぁ、そうだ。お前は?」

『私はX。選別者だ』

「選別?」

『君にミッションを与えよう。今日の午後8時、今から言う場所に来るんだ。場所は───────、午後8時だ。いいな』

こちらの疑問に答えることなくその声は要件を伝えて切れた。


晃司は腕を下ろして空を見上げた。

(今のは⋯⋯)






   


午後8時


指定された場所のすぐ近くに晃司は来ていた。

場所は工事途中のビル。今現在、取り壊し中で数年後には新しい立派なビルが建てられるであろう。


どうも胡散臭いが、普段異能者を狩る仕事をしている晃司からしたらこんなベタなイタズラは初めての経験だった。

夜、暗くなって周りが見えづらい中、晃司は慎重に人の気配を探る。

腰のホルスターから漆黒の拳銃を取り出して直ぐに打てる状態にもってくる。

銃を構えながら慎重に進んで、ビルの中へと侵入していく。


異様な気配。

工事現場独特の臭いの中に含まれる異質なもの。

それは何者かの気配であることを全身が感じ取った。

夜の工事は禁止されている。というより、このビルの工事は数ヶ月前にストップしているのだ。

理由は知らされていないが、一般人が近付くには危険すぎる。

これが何者かの企みによるものなら仕事柄無視はできない。

少しずつ前進して辺りを探っていく。


汗が晃司の頬を伝って落ちる。


足音を立てず、気配を極限まで消して進む。

1階の部屋を捜索していき、残すはトイレだけとなった。慎重に中へと身を滑らせる。先ずは男性用。身を低くしながら銃口をトイレの奥へと向けて身を外にさらけ出す。

誰も居ないことを確認してから奥へと進む。捜索を完了させて素早くトイレの外へ移動する。

慎重に外に出て隣の女性用トイレの中に迷うこと無く侵入する。

(何もなし、か)

階段の下まで進む。1歩、また1歩と息を殺して上がっていく。

普段階段を使う時より倍以上の時間をかけて2階に辿り着く。

そして、2階の部屋をひとつずつ確かめていく。

異様な緊張感に鼓動が早打ちして汗が止まらない。

足元が危ない場所を音を立てることなく飛び越えて全ての部屋を探った。

廊下の隅や角に姿を隠しながら階段まで素早く戻る。


そしてまた、時間をかけて階段を上った。


月の光が降り注ぐ中、慎重に捜索を進める。息を殺して、やっとの思いで6階にたどり着いた。

角を利用して、部屋全体を探る。

小さな部屋だが人が隠れるには充分なスペースがある。

その部屋を隅から隅まで徹底的に探して、その部屋には誰も居ないことを確認した。


それを全ての部屋を繰り返して階段まで戻る。

神経がすり減り、疲労が溜まる。それでも徐々に進んでいる。

7階に辿り着いて、角から廊下を覗いた。

(よし)

何も無いことを確認して廊下に出る。そして、1番手前の部屋の前まで素早く移動する。

壁にそって移動して、扉の横に静止する。

ゆっくりと扉を開けて中を確認しようと部屋の中を覗いた

まさに、その瞬間だった!

背後の気配と殺気に気付いて床を蹴った。

鈍い音が響いてその場から離脱する。前方に片手を着いて前転してから着地して、拳銃を向けた。

全身が沸騰したかのように汗が溢れる。

鼓動が鳴り止むことなく大きな音を振動させている。

(後少し遅かったら殺られていた)

晃司が数秒前まで居た場所に振り下ろされた鉄パイプ。

それを握って立つ人。

フードを深く被っているせいで性別が判断出来ない。暗い青色のパーカーに下はジャージ。

直ぐに撃とうかと考えたが、銃口を相手に向けたまま質問する事を選択した。


「お前は何者だ」

ゆっくりと立ち上がりながら、それでも相手から決して目を離さず銃口を向け続けた。

その問いに答えるつもりはないのか黙りしている。

「猟犬さんは招かれざる客だよね?」

その声は低いが女性のものだった。

(女だと?)

その事実が判明した事で更に緊張が高まった。

フードのせいで性別が判断出来ないが、男だと勝手に判断していた。

「猟犬?」

「猟犬でしょ?私達を狩ってるわけだし」

女の声に更に驚愕させられる。

拳銃を、握る手が震えて、正常な判断が出来るのか怪しくなってくる。

「何故それを知っている?お前が俺を呼んだんじゃないのか?」

電話の主が目の前のコイツとは限らない。それでも晃司はあえてその事を口に出す。

「チッ!」

その舌打ちが彼女が電話の相手ではない事を物語っている。

もう1つの質問は答えてくれないらしい。

「⋯⋯お前には他にも聞きたい事がある。死にたくないならそれを捨てて両手を上げろ」

吐き捨てるように言って、彼女を睨む。

「余裕だな。自分が優位だと思ってんのか!?」

フードの女は逃げること無く、逆に向かって来た。フードから長い緑色の髪が垂れる。

鉄パイプを振り上げるフードの女。

晃司は躊躇うことなく引き金を引いた。銃口から発射音と共に弾丸が発射される。

暗闇でも閃光が目立つことは無い。フラッシュサプレッサーによりマズルフラッシュは軽減されている。

フードの女は身を低くして横に飛ぶことで弾丸を避けた。

その動きを予想してたかのように女の動きに合わせて晃司は銃口を整える。そして、素早く引き金を引いた。

女は鉄パイプを振り下ろして弾丸を弾いた。カンっ!と金属音が響く。優れた動体視力。

それに半分驚きつつ晃司は更に引き金を引く。その距離は5メートルもない。だが、女は見事に鉄パイプを振って弾丸を捉えた。


だが、次は女の身体が吹き飛んだ。鉄パイプに重い衝撃が走ってクレーターが出来上がる。

身体はその衝撃に耐えられず後方に吹き飛び、鉄パイプは彼女の手から離れて床に落ちる。女の身体は壁に背中から激突してその場にずり落ちる。


「3弾目は特殊だ」

「くっ、」

女は悔しそうな声を出す。女が起き上がる前に晃司は更に引き金を引く。音が程よいリズムでなり続ける。

「⋯⋯っ、holeホール

微かな声だった。だが、確かに女はそう呟いた。

すると、女の背後に奇妙な空間が出来上がる。

晃司は目を見開いてその現象を凝視する。

女の身体が壁の中へと消えたのだ。虚しくも弾丸は何も無い壁に当たるだけだった。

「クソっ!」

晃司は吐き捨てて床を蹴る。急いで階段まで
走る。

身を乗り出して階段の奥へと銃口を向けた。だが、女の姿はそこにはなかった。

一定のリズムを刻んで階段を駆け上がる音が響く。

「上か」

晃司は上を見上げて階段を数段飛ばしで駆け上がり始める。

減った銃弾を補充しつつ、急いで階段を上る。


少し上の階段は止まることなく、進んでいく。

晃司は腕時計の電源を入れて話しかけた。

白華しらはな!行ったぞ!」










隣の建物の屋上で晃司の声を聞いた白華しらはな舞香まいか

「了解でーす」

とテンションよく答えてから、地面を蹴って走り出す。

胸元が開いたバトルスーツの彼女は頭の後ろで網目状で2つに縛る綺麗な白い髪を揺らしながら屋上を駆け抜けて、屋上の縁を蹴って隣のビルの屋上へと飛び移った。

「えいっ」

潔い掛け声と共に夜の空を飛んで建物と建物の間を飛び越える。

ビルの屋上に前転しながら衝撃を吸収して着地する。

身体に痛みは無い。それを確認してからコンマ数秒で腰のホルスターから白の拳銃を抜き出す。

青色のラインが入ったデザインの白い拳銃は見るものを圧倒させる。

オートマチックと見た目は変わらないが、驚くのはその性能である。

白華舞香は屋上から出る扉をこじ開けてそのまま階下へ進む。

すごい勢いで階段を飛び降りて女へと迫る。









フードの女は階段を駆け上がる途中で上から迫る刺客に気が付いた。

「まじか!」

驚きの声を上げて15階の廊下に飛び出た。

だが、その刺客は予想よりも早く姿を現す。

「そこまでよ!」

白華舞香は勢いよく女の背中目掛けて引き金を引いた。

銃口から発射されたのは銃弾ではなく、青白いレーザービームだった。

細いそれは女に向かって真っ直ぐに光の速さで飛んでいく。

女は真横の部屋の中に逃げ込む。

レーザーは女のパーカーの一部を焼き切るが、女は悲鳴を上げていない。

(外した?!)

そこへ晃司が到着する。

「どの部屋だ」

「右、4つ目です」

晃司と舞香は並んでその部屋の中へと侵入する。

部屋の奥へと銃口を向け、緊張を解くこと無く脚を運ぶ。


部屋の奥には女がこちらを向いて立っていた。月光が彼女の背中を照らす。

女は若く、20代前半と見て取れる。深い緑色の髪が特徴的だ。


晃司と舞香、2人が同時に引き金を引いた瞬間

holeホール

女の声が響いた。

その女の身体にレーザーと弾丸は当たることなく、背後の窓ガラスに傷を付けた。

女身体が床に沈んでいく。

いや、厳密には穴に落ちていく。

holeホール、穴か」

日本語訳を口に出す。

「下だ」

と告げてから部屋を急いで出て階段に向かう。

「は、はい」

いつもとは違う強ばった声で返事をしてから晃司に続く。



突如、16階の階段に近い廊下にあらかじめ設置された爆弾が起爆する。

激しい爆音と爆炎により、天井が一気に崩れ始めた。

「⋯⋯っ、離れろ!」


晃司は身体の向きを反転させて白華舞香を抱えて飛び退いた。


落石に巻き込まれる事は無かったが、行く手が阻まれてしまい、女を追いかけることが出来なくなった。


晃司は起き上がって埃を払う。

「大丈夫か?」

「は、はい!」


(嵌められたな)

心の中で呟いて端末を取り出す。

救助を求める電話を掛けながら落石の方に視線をやる。


(恐らく、追い詰められたら能力を使って上に逃げるように見せかけて罠に嵌めて殺す、といった感じか。自分はあの能力で下に逃げれるわけだしな)


確保、殺害の失敗

それは彼らにとって敗北を意味する。









   


夜の街の中を平然に何も無かったかのように歩くフードの女。

「悪いね。これが本来の武器なんで」

手の中には小型の爆弾とそれを遠隔操作するリモコン。

夜だというのに道の先は明るい。車のライトや店の明かりが道を照らしている。


腕時計の通話機能を使って、連絡を取る。

『君か』

「あぁ。任務は成功だ。途中、猟犬に噛み付かれそうになったけどね」

『猟犬?⋯⋯あぁ、奴らか』

「殺人事件の陰で動く予定が狂った。それより、奴らに情報を教えた奴が居る」

『それはおかしな話だな。今回の件は並の情報屋では情報を手に入れるには難しいと思うのだがね』

「裏切り者を探った方がいいかもな」

『⋯⋯忠告として受け取っておくよ』

「まぁ、そっちの判断に任せるよ。私は計画が無事に実施されればそれでいい」


通話を切って路地に入って女は闇に姿を消した。

「絶望の サイキック」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く