話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

絶望の サイキック

福部誌是

炎VS剣・鉤爪・クロスボウ

ホテルの一室で須棟久奈は椅子に座り、酒の入ったグラスを口に運んだ。

窓から見える街の夜景。都会なので夜でも様々な明かりがイルミネーションの様に輝く。

この部屋にはベッドが一つしか存在していない。そのひとつも可愛い後輩に取られてしまっている。

ベッドを占領している少年の寝顔は愛らしく、まるで赤ん坊の様にどこか母性を擽るものがあった。(結婚どころか、相手すら居ない彼女だが)彼の背負っている重みには、初めて見た時に気付いていた。

こう見えても少し奥手な彼女。酒の力を借りなければ彼に対してあそこまでの事は言えなかったであろう。 

(先生。私は貴方のようにあの子を救えましたか?)


心の中で呟きながら、脳裏に浮かぶのは幼い自分とその前を歩く一人の青年。

彼女な自身の能力『読心』に目覚めたのは10歳のとき。他人の心が読め、周りの人間達の歪んだ醜い心に、10歳の少女の心が壊れ人間不信になるには充分たった。

そんな時、彼女を救った一人の青年。

彼が今、どこにいるのか分からない。今の組織に属してからも追い続けているが、情報はなし。

10歳の時の記憶なんて大して当てにはならないし、相手の名前も分からない。

だが、彼女はあの日に決めた事を守り抜いている。「あの青年のように誰かを救いたい」


1人の男を追い求める姿は傍から見ても1人の少女である。

(はぁ、私もそろそろいい歳だしなぁ。いい加減、彼氏が欲しぃ)

トロトロになった眼で夜景を見ながら酒を口に運んだ。




   


「あー!頭痛い」

須棟久奈が頭を抑えながらアジトの地下に入ってくるのを蟹目ミミが発見した。

「二日酔いですか?」

「あぁ」

(うー、失敗したぁ。錦くんを寝かした後に酒なんて飲むんじゃなかった)


「それで、アイツはどうだ」

その問いに須棟は顔を上げた。目の前では組織のリーダーである銀髪の眼鏡イケメン、桜井桃李が赤髪の少年、伏見紅輝と藍色のボブショートの少女、合木歓菜の例の少年、錦輝夜の事への質問が行われていた。

「問題なし」

「同じく」

「本当か?」

桃李が2人を睨んだところで須棟久奈は一歩踏み出した。

「あの子なら大丈夫だよ」

須棟の割込みに桃李が反応し、こちらに鋭い視線を送ってくる。

「確かに、お前の能力ならば信頼出来る。だが、細心の注意をするべきだ」

「そうだな。リーダーが警戒する理由もわからなくはない。それだけ彼が特殊なケースだということだろ?」

「・・・・・・」

「むしろ、君が案じているのは彼が裏切るかどうかより、彼を狙って他の組織の勢力争いに巻き込まれることだろう」

「・・・・・・流石だな。能力を使ったか」

リーダーは吐き捨てるように言った。

「そうだ。なぜ、彼があの大規模な事件に巻き込まれ、一人だけ生き残ったのか。いくら能力者といっても素人だ。あの事件で目覚めたに過ぎない」

「それでも、彼は生き残った」

そう割り込んできたのは桃李のすぐ近くに腰を下ろして、パソコンを弄る少女。水色の綺麗な髪を後ろで2つに縛る幼い彼女、姫路リンゴ。

彼女は珍しく眼鏡をかけていた。

「あの事件は能力者たちにとってはいい餌になる。前代未聞の大事件。たった1人生き残った少年。目的はどうであれ、彼を狙う連中はこの先溢れてくる」

「なるほど。らしくない理由はそれか、リーダー」

「こんな時間は必要ないだろ。お前ならば全て把握出来ることだ」


「・・・・・・、」

能力を使用して桃李の心を読み取った須棟の眼が見開かれる。その表情は驚きを隠すことを辞めた。

「アイツは切るべきだ」

察し、そう短く吐き捨てたリーダーに対して一人の少年が舌打ちして割り込んだ。

「チッ!気に入らねぇなぁ!一度仲間と認めた奴を切るのか?」


その表情は怒り一色に染まっていた。普段は仲の良いチーム。それが、一人の少年をきっかけに亀裂が入る。

「テルヤは仲間だ!」

「・・・・・・、」

伏見紅輝と桜井桃李、両者が共に睨み合う。その場の空気にまた一段と深い亀裂が走る。

「仲間割れをしている場合ではない。もし、リーダーの考えが事実なら対策を立てなければならない」

そう切り出したのは須棟久奈だった。


「否、今ここで決めるべきだ」

「望むところだ!」

赤髪の全身ジャージの少年、伏見紅輝は更に近付いていく。そして、リーダーである桜井桃李の一歩手前で停止した。




   


別の部屋にて一つの闘いが始まろうとしていた。

それを見届けようとする者がいる。

須棟久奈、合木歓菜、姫路リンゴ、蟹目ミミ、拍穂蒼雅、クルさん。

「これって止めなくてもいいんですか?」

焦った表情でその場にいる皆に問う歓菜。

「止めようとしても無駄でしょ」

そう答えたのは額に布を巻いた青髪の少年、拍穂蒼雅。

「そうだな」

それに同意するように頷くクルさん。

「で、でも」

そう困惑を見せる彼女の肩に手を置いて須棟は説得する。

「見届けるしかない」


目の前では仲間同士とは思えない程の壮絶な争いが繰り広げられていた。

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

両拳を発火させて殴りかかる紅輝に対してリーダーは右手に長剣、左手は爪付きボウガンで対応する。

桜井桃李の戦闘スタイルは極めて特異なもので、剣と鉤爪の二刀流。更に、左腕にクロスボウを取り付けていて、近遠両用戦闘スタイル。

桃李の左腕は義手で特殊な技術により、桃李の脳からの信号だけで左腕のクロスボウを操作できる。

矢の準備と発射攻撃。それを自身の脳と左腕の義手だけで成立させている。

炎を纏った右フックを桃李は軽々と避けて相手の懐に侵入、剣を横一直線に払う。数分間、紅輝の攻撃をずっと避けてきた桃李が初めて反撃に出た。

剣を避けるために後ろに飛ぶが、剣先が僅かに紅輝を腹を掠める。

「う、ぐっ」

顔をしかめて、腹筋に力を入れて痛みを堪える。

(い、痛てぇ)

直ぐに次の攻撃が迫る。桃李の突き出した左腕のクロスボウの先端に付けられた鉤爪。

鉤爪の鋭利な先端が直前まで迫る。

「ぐっ、」と息を漏らしてギリギリで避ける。身を低くして鉤爪を避けた紅輝は地面を蹴って、桃李の懐で発火させた拳を腹に抉り込んだ。


ゴボッ!と血と共に息を零して後方に吹き飛ぶ身体。

開始数分、ずっと避けられていた紅輝の攻撃がやっと命中した。

切れた息を整えて砂埃が舞った視線の先から目を逸らさない。

砂埃の中から風を切り裂いてクロスボウの矢が飛んでくる。

飛来する連続の矢を避けて、砂埃の中へと向かう。

途端、砂埃の中から飛び出してくる影。桃李は紅輝から距離を取るように移動しながらクロスボウの矢を発射し続ける。


一本ずつ矢を丁寧に避けながら距離を詰める紅輝。だが、それこそが桃李の罠だった。

近付きすぎた紅輝を嘲笑うようにして桃李は地面を蹴って宙に身体を浮かせる。そして、背後の壁を蹴って距離を一気に縮めた。

咄嗟の反撃に、前に出過ぎた紅輝は反応出来ずに為す術なくして反撃を食らう。

急に紅輝の視界が痛みと共に暗闇に包まれる。

(痛てぇ、)

自身の身に何が起きたのか理解する前に次の攻撃の嵐が紅輝を襲った。

そのまま打ちのめされる紅輝は理解が追いつく。

(なるほど、アッパーか)


紅輝の考察通り、桃李は壁を蹴った後に紅輝の顎にアッパーを食らわせて脳に振動を与えた。
そして、脳による衝撃によって動けなくなった紅輝を袋叩きにしたのだ。


(ぐっ、!、ふざけるなぁ!)

奥歯を噛み締めて立ち上がろうとする。が、それを脚で桃李が地面に縫い付ける。

「諦めろ」

その言葉が何度も紅輝の中で反射して聞こえた。

桃李は右手の剣先を紅輝の首に当てた。

(やっぱり、届かねぇわ。強すぎる・・・・・・それでも、俺はァ)

それでも、紅輝は敗北を認めない。自身と彼の間にある長い距離を確かめても、認めても、勝てないと理解していても、諦める事は無い。

それが彼の生き方


たちまち、桃李の脚の下から大きな炎が巻き起こる。

発火源はもちろん彼。

赤い炎が薄暗い部屋の中を照らし、灰と化した埃が蝶のように部屋の中を舞う。

「桃李!」

そう叫んだリンゴの声が部屋の中に響き渡るのにそう時間はかからなかった。

真っ赤に燃える炎の中には2つの人影が存在していた。

炎に共鳴するかのように部屋の壁が赤く光っている。

赤い火柱は天井を貫き、そこに積もった埃を灰に変えて下に降らせる。

灰の雨。


桃李の顔に驚きはない。彼が立ち上がるのを予期していたかのように自身の武器を構えた。


熱によって、桃李の眼鏡が一気に曇って視界を遮断したその瞬間、紅輝が仕掛けた。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

獣のごとき咆哮と共に鋭い右ストレートが桃李の顔面に迫る。

それを避けて剣を大きく振るう。連続して振るわれる剣技を避けながら拳を繰り出す。

「能力、使わないのか」

「使って欲しいなら結果を出してみろ!」

紅輝の拳に対して、殺傷能力が高い桃李の武器。

(デカい傷は致命傷になる。だが、これ程度なら余裕で避けられる)

が、本来の桃李の先頭では能力が使用される。言わずとも戦闘系の能力。

それを使わずここまでの差。

能力を使わないことに対して怒りを覚えるが、正直言うと有難い。

能力を使われれば紅輝なんて瞬殺で終わるだろう。

再び両者の猛攻が始まった。

相手の攻撃を避けては反撃を互いに繰り返した。お互いに相手の攻撃を防ぐ術を持ち合わせていない。

剣と爪のコンビ攻撃を必死に避けながら反撃する。あと1歩のところで攻撃を当てられず、反撃を繰り返される桃李。

「くっ、」

苦し紛れに桃李は苦渋の決断をする。
桃李の命令によって近距離でクロスボウの矢が発射される。

それに反応した紅輝は身をよじって避けようと努力するが、それは無駄に終わる。

横っ腹を矢に貫かれて意識が飛びそうになる。

「ぐっ、がっ、・・・・・・っ、」

血と息を漏らして飛びかけた意識を無理矢理覚醒させる。

血塗れ、傷だらけの全身で勝利を掴む為に拳を握る。

真っ赤に染まった拳は血によるものなのか、炎によるものなのか判別できなくなっていた。

腹のそこから叫んで最後の攻撃の為に死力を尽くす。


それに対する桃李も、既に余裕を忘れて戦闘にのめり込んでいた。

激しい戦闘を繰り広げて、目の前の少年を打ち倒す為に咆哮しながら紅輝目掛けて剣の柄を握り締めて剣を上段から振り下ろした。


炎の拳と振り下ろされた剣が正面から激突する。

普通ならば拳が負ける。だが、この闘いはそれを通り越して拳が打ち勝った。

凄まじい熱量によって剣が弾かれ、溶け始めた。剣先を形作るものが綻び初めて鋭さを失っていく。金属の塊が衝撃によって飛散する。

桃李は敗北を悟る。だが、その瞬間彼は経験によってか勝機を見出すことに成功する。

それは脊髄反射よりも早く、脳が信号をだし、身体がそれに従った。


無褒美になった紅輝の腹部に鋭い蹴りが炸裂する。

「うぐっ、」と身を屈めた紅輝に勝利を確信した桃李。


(・・・・・・ま、け、)

掠れる意識。


それでも、彼は敗北を認めなかった。

崩れた体制。力の入らない身体。正常に働かない脳。

視界が狭まり、その場に倒れる瞬間


彼の脚が踏み止まる。

彼の身体は倒れる事を許さなかった。

彼の魂は敗北する事を許さなかった。

桃李が気付いた時にはもう遅く、彼の拳が眼前に迫った。


────────っ!


激しい衝撃と途方もない痛み。

その両者が襲ってきた。

そのまま後方に吹き飛んで地面に倒れた。


両者共にダウン。

だが、桃李は直ぐに半身だけ起こした。


「桃李!」

とボロボロで火傷まみれの桃李の身を案ずるのも忘れて姫路リンゴが飛びついた。









数時間後

紅輝が目覚める前に桃李は身支度の用意を完了させた。身体や顔の至る所に包帯やら湿布を貼られている。


「リーダー」


そう言って桃李の背後に立つ須棟。

「用事ができた。少しの間、留守にする」

「君が独りで抱え込む問題ではない」

「俺は、ここのリーダーだからな」 

そう言って立ち上がる桃李。

「あの事は誰にも言うな。それから、留守の間組織を任せる」 

すれ違いざまに彼はそう言った。


「何故、私なんだ」

「組織の中でお前は酒が絡まなければまともな方だ」

「わ、私は酒が絡んでもまともな人間だ!」

顔を赤くしながら慌てふためいて彼女は言った。

「フフ」と珍しく彼は笑い声を漏らして

「頼むぞ」

と告げて部屋を出ていった。



「絶望の サイキック」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く