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絶望の サイキック

福部誌是

消された名前と記憶

「テルヤ!遊ぼーぜ!」

無邪気に声をかけてくるのはまだ幼いツカサ。

サッカーボールを片手にツカサは笑顔でテルヤを部屋の外に連れ出す。


その後ろを笑いながらナズナが追ってくる。

近所の子供たちと性別構わずサッカーや、鬼ごっこや、かくれんぼをして遊ぶ。


公園の中を元気よく駆け回る子供たち。


「タッチ!次はテルヤが鬼だな」

そう笑った言うツカサの言葉は捕まって鬼に変わってしまったテルヤへの挑戦状だ。

悔しそうな顔をしながらも楽しく笑顔でツカサやナズナ、他の皆を追い掛ける。



他の子達と別れた後、ツカサに連れられ3人は河川敷に向かう。

「おい!見ろよ。バッタだ」

と言って手に持っていたサッカーボールを下に落とし、道端の草むらの中に入っていく。

バッタを片手で鷲掴みしてテルヤとナズナに見せつける。


「なぁ、バッタってどうして凄いジャンプをするんだろうな?」 

「んー?何でだろう」

ツカサとナズナがそんな様な会話を交わす。

「ジャンプって言えばカエルもだよね」

とテルヤは話の中に入っていく。


「そうだよな」

ツカサは敵持っていたバッタを離す。

「逃がしちゃうの?」 

ナズナが首を傾げて疑問形で聞く。

「うん、どうせ飼えないしな。それに、可哀想だろ?」

そう言ってツカサは離れて行くバッタを悲しげな表情で見送る。



それから、道端に落ちている石を沢山集めて、川で水切りをして遊ぶ。

一番上手いのはツカサで、一番下手なのはテルヤだ。

ツカサは勢い良く石を投げる為に川と水平に腕を振る。

ツカサの手から離れた石はスピードを増して川の水面を勢い良く跳ねていく。

「やった!13回!」

とツカサは嬉しさを全身で現しガッツポーズをする。

「凄っ!」

とテルヤとナズナは共に驚く。

「私なんて7回しか跳ねないのに」

とナズナが羨ましそうな視線をツカサに向ける。

「僕なんて5回が限界だよ」

と苦笑いで言う。


その後も一緒に遊んで日が暮れる頃、全身泥だらけで3人で仲良く家に帰る。

ナズナの両親はそんなテルヤ達を見て微笑ましい表情で出迎えてくれる。


本当の両親みたいに接してくれる。暖かい空間、大好きな人達に囲まれて夕食を食べる。


里親も大好きだったが、ナズナの両親の事も大好きだった。


夕食後、3人で一緒に風呂に入ってそこでもじゃれ合う。

お湯を掛け合ったり、両手を使って噴水やお湯でっぽう、泡でシャボン玉作ったり・・・・・


そうして1時間近くの時間をお風呂で過ごした後は一緒に歯を磨く。

その後は一緒の部屋に布団を並べて一緒に眠る。


血の繋がりはないけど、兄弟みたいな感覚に包まれ、楽しい幼少期を過ごした。





「テルヤ」

名前を呼ばれてテルヤは後ろを振り返る。そこには眼球が無くなり、ポッカリと空いた穴から血を流すナズナの姿があった。

テルヤは恐れを表情に出しながら尻餅をつく。

「テルヤ」

そう言って近付こうとするナズナの首が急に切断される。地面に落ちた首は衝撃と共に赤い液体をその場に散らかす。




「ッ!・・・・・・、!」

全身汗だくでベッドから飛び起きるテルヤ。荒くなった呼吸を少しずつ整えながら右手を額に当てる。

こんな夢を見るなんて

「・・・・・・クソッ!」

奥歯を噛み締めて強めに呟く。

やつれた表情で隣を確認すると紅輝の無邪気に眠る姿がそこにあった。


「・・・・・・意外だな。まぁ、多少楽にはなるけどな」

と再び独り言を呟いた後、顔を洗う為にベッドから離れる。

ついでに部屋に置いてあるデジタル時計を確認すると午前4時を過ぎたところだった。




   


一通りの支度を済ませてテルヤと紅輝はホテルのロビーで歓菜を待った。

歓菜は直ぐにやって来て、テルヤ達を見つけると嬉しそうに小走りで近づいてきて「待たせてごめん」と少しすまなさそうな表情で言った。



「それで、今日はどうするんだ?」

紅輝がテルヤに訊ねる。

紅輝と歓菜はテルヤの監視の為に一緒にいる訳なので予定はテルヤが決めなければならない。


「なにか予定はあるの?」 

と歓菜が顔を覗き込んでくる。


「・・・・・少し、行きたい場所があるんだ」

テルヤは恐る恐る口を開く。


そんなテルヤを見て紅輝と歓菜がお互いに顔を見合わせる。

「実は・・・・・・」

とテルヤは切り出してから思いを伝えた。




   


テルヤと紅輝と歓菜の3人は新幹線に乗っていた。

テルヤは白のシャツの上から青色の上着、下はジーパンを履いている。

歓菜は黒のシャツにベージュ色のスカート。紅輝は相変わらずジャージである。


女子の私服姿というのはなんか新鮮で不思議な感じがするものだ。


だが、テルヤは歓菜に見蕩れたりはせずに新幹線の窓側の席に座る。

その向かい側に歓菜が座り、テルヤの横に紅輝が座る。


話をした後、直ぐに新幹線に乗る為の切符を3人分揃えて新幹線に乗った。

少ししてから新幹線は目的地に向かうために出発する。

「・・・・・・そういえば、監視とかって幹部の人がやる事なのか?」

テルヤは二人に対して質問する。

「んー、人が少ない場合だけだな」

と隣の紅輝が答える。


「監視する対象にもよると思うけどね」

と意味ありげな事を言う歓菜。


「それって、つまり俺がその対象ってことか?」

「あー、心配しないでね。疑ってるとか信用してないとかじゃないから」

と歓菜は慌てる様子で言う。

が、それが逆に怪しく見える。

「それによ、監視する奴が弱かったらそれこそ意味無いじゃん。ミイラ取りが何たらってやつだよ」

と紅輝が笑いながら言う。

「ミイラ取りがミイラになる、ね」

と歓菜が正しく訂正する。


その光景を見て少し胸の奥にモヤというか、棘のようなものを感じる。


テルヤの表情が暗くなりかけた時、

「そういえば、何で静岡に向かおうと思ったんだ?」

と紅輝が質問してくる。

「ん?あぁ」

顔を上げて歓菜も紅輝にそれぞれ視線を送った後に詳細について話し始める。


「・・・・・・俺さ、学校で皆の事を知った後にさ数日間あの街に留まって何か痕跡がないか確認してたんだよ。手がかりを探すっていうか。・・・・・・結局何も見つからなかったんだけど、昨日の話聞いたら確かめたくなっちゃって・・・・・・最初は迷ったし、真実を知るのは怖いけどそれでも確認しておきたいし、しなきゃダメなんだと思うんだ。それが残された俺がやるべきことなんだって」


あの数日間は本当に酷かった。

一切食事が喉を通らず、抜け殻のような状態で、なにも考えることの出来ない脳を働かしただ、街の中を歩いた。

もしかしたら、何処かに生き残っている人がいるかもしれないと


何度も吐きそうになりながら、楽しかった思い出が溢れ、何度も涙を流しながら



受け入れたくはなかったし認める事も嫌だったが、何とか飲み込むことが出来たのは名古屋に向かう電車の中だった気がする。


駅に向かう途中でどう見ても一般人じゃない人に出会ったがあまり顔も覚えていないほどに窶れていた。


少しの間、テルヤの話を聞いていた歓菜は黙り込んでしまう。

「・・・・・そりゃあ、最初は迷うだろうな。誰だって信じられないと思うぜ。今の自分の記憶が偽物かもしれないなんてな。・・・・・・でも、それでも俺達は迷いながら進むしかないんだろうな。沢山悩んで決めた事なら迷わずやりぬくべきだと俺は思うけどな」

と紅輝が重たい唇を開いて言う。


「・・・・・・うん、ありがとう」

と笑って返す。その言葉は予想していなかったのか驚いた表情になってテルヤの顔を見つめる紅輝。


その後は空気を明るい空気に何とか戻しつつ静岡に着くまでの時間を話しながら過ごした。

その中で三人は同い歳だということを知る。



自分でもびっくりするほど二人との距離が縮まっている気がする。普段人と接して来なかったテルヤにとっては新鮮な事であった。


つい数日前に出会った同い歳の少年。

そして昨日出会ったばかりの少女。


そんな気が薄れる程に話し合った3人は駅に着いて新幹線を降りた後、軽く昼食をとった。

その後、バスに乗って更に目的地へと近付く。


「・・・・・・それでよ、着いたら俺達はどうしてればいいんだ?」

と紅輝が聞いてくる。

「あ、それ私も気になってたの」

歓菜も不思議そうな表情でテルヤを見詰めた。



「んー、一緒に居てくれるだけでいいよ。監視の仕事がある以上俺から目を離したらいけないと思うし」

とテルヤはあんまり考えてなかったので即席の答えを提示する。


「分かった」

と二人は頭を上下に小さく振る。





バスが目的地の最寄りの停留所に停る。

テルヤ達3人は一緒にバスを降りて、そこから歩いた。

海が見える道をただひたすらに歩く事約1時間。

テルヤが目的地の一軒家の前で止まり、後の2人もそれに続いた。


テルヤは大きく深呼吸してもう一度覚悟を決めてからチャイムを押した。

音が反響した直後に家の中から女の人の声が聞こえた。どうやら返事をしてくれたみたいだ。


ドアのガラスの向こう側に人影が写り、扉を開ける。


初めて見る女性の人が出迎えてくれた。


「あの、白井南沙さんについて確認したいことが」

と切り出したところ、目の前の彼女は疑問を表情に浮かべる。


この家はナズナの母親の姉夫婦が暮らす家だ。

ナズナの家にも直接確かめに行った時に見つけた住所。それを頼りにここ、静岡まで来たのだ。


「えっと、誰ですか?」

と彼女が言った。


「ッ!・・・・・覚えてませんか?あなたの妹の子供の名前です」

テルヤは焦りを出す。


「その、家を間違われてませんか?私にも夫にも妹なんて居ませんし、その子供なんて」

との返事が返ってくる。


喪失感に押し潰されそうになり、テルヤは唇を噛む。


「何で、覚えてないんだよっ」

そう小さく呟いた後、

「急にお邪魔してすみませんでした」

と深々頭を下げてから体を半回転させ、その家を後にする。


両拳をギュッと握り締めて歩くテルヤの背中を紅輝と歓菜がそれぞれ追う。

歓菜はしっかりと女性に頭を下げていたのが確認出来たが、紅輝は分からなかった。



バス停まで歩く道の途中で歓菜が後ろから話しかけてくる。

「残念だったね」

慰めの言葉に何かが溢れそうになるのを必死に堪える。


「あぁ」とだけ短く返す。

初めからこうなる事は予想していたが、あまりの残酷さに声が出ない。

超能力を必死に隠したがる国家勢力と実際にそれを行う力を持つ存在が居ることを改めて実感する。


あの街の住人の名前を覚えているのはもう世界中にたった一人、テルヤだけしか存在しないのかもしれない。


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