絶望の サイキック

福部誌是

アルドアージュ

『MASK』

その組織は確かに存在する。

だが、その詳細は誰も知らない。いつから存在しているのか、何処を拠点としているのか、構成人数・・・・・・全てが謎に包まれている。


「分かっているのは名前くらいだな」

と組織のリーダーである桃李が話す。


「奴らは自分達が関与した事件には必ず証拠を残す」


桃李の横でリンゴが口を開いた。

データが出て来なくて少し落ち込んでいた表情はどこへいったのやら・・・・・・


何故か少し嬉しそうに興奮した様子で続ける。


「現場に仮面を一つ残していく」


「お前、学校の職員室には行ったか?」

とリンゴの話を遮る形で桃李が質問をしてくる。その答えとして頭を横に振る。

「お前の学校の職員室に仮面が残されていた。間違いなく奴らだ」



「・・・・・・それには関係無いんだけどさ、この事件はかなり異例だよね?」

と藍色のボブショートの少女が口を挟む。

(そういえば、伏見もそんな事を言っていた気が・・・・・・)

と思い出す。

「そうだな」

桃李の答えに

「あの、どこが異例なんですか?」

と質問する。

「学校の事件を引き起こした奴を『ワイヤー使い』とするなら街から人を消したのは十中八九『荊使い』だろうな。学校に現れた事だしな。でも、例えどんな力であろうと街という広範囲に能力を使える者が存在するとは思えない。能力者と言っても一人の人間だ。能力にも限界がある」


「・・・・・・?」

桃李の答えを理解出来ずに顔を顰める。


「簡単に言うとだな、街という大きな物に力を使う事は出来ないという話だな。そんな話は聞いた事が無い。もし、そんな事が出来る奴が存在するならそいつは人間じゃないと断言出来る。だから、犯人は一晩かけて街中を移動して、一人、もしくは数人単位で人を消して行った、と考えるのが妥当なんだよ」


「・・・・・・なるほど」


青髪の男性のフォローにより理解する。


「・・・・・・過去数回にわたって『MASK』の奴らは今回の異例とも呼ぶべき様な大事件には必ず関わっている」

と桃李が話を進める。


「30年前の大企業殲滅戦、27年前のロシア内の大紛争、22年前のローマでの建築物大量破壊、18年前の中国との戦争、9年前のアメリカの大統領暗殺事件、・・・・・・直ぐに分かるものだけでもこれだけの事件に関与している。どの事件も能力者たちの中では有名なものばかりね」


とリンゴがよく分からない単語ばかりを並べる。


「ちょっと待ってくれないか。9年前にアメリカの大統領が暗殺された?そんな話聞いたことないし、それに」


「まぁ、知らないのも無理はない」

と言いかけた言葉を桃李が遮る。テルヤは疑問の表情で桃李を見詰める。

「記憶の改変が行われているからな」

「記憶の、改変?」

「あぁ、そうだ。一般市民に超能力の存在を隠す為に政府は色々と汚い手を使っている。そのひとつが記憶の改変だ。超能力による事件に巻き込まれて死んだ者の記憶や超能力に関する事件そのものを人の記憶から消している」


桃李の言葉に完全に固まる。


「普通にネットで調べても出てこないし、もちろん教科書にも載っていない。奴らは隠蔽したいのさ」

と青髪の男が腕を組んだまま言う。



「あと、監視カメラなどの映像も偽ってるよね」

と藍色のボブショートの少女が付け加える。


「ふん、誠に汚い手じゃな」

右奥のコンテナに腰を下ろす薄紅色の長い髪を真っ直ぐに伸ばし、眼鏡をかけた少女が初めて口を開いた。


「さっき、街全体に能力を使う事は出来ないと言ったが、例外が存在している。それは政府が隠し持っている謎の超能力者。男が女か、年齢も分かっていないが、奴は世界中の人間の記憶を改変している。どうやっているのかは分からないがな」


「じゃあ、能力によってはそういう事も出来るってことじゃ・・・・・・」

とテルヤが疑問に思う。

「・・・・・・それもひとつの仮定だが、そいつ以外に大規模に能力を扱える者を俺達は知らない。そいつが世界中の人々の記憶を改変しているのにも何らかのトリックがあると推測している」


「能力単体じゃあ、どうも説明出来ないからな」

と須棟が口を開く。

「超能力は万能じゃないんだよ。幾ら『新人類』と呼ばれていても、一人の人間に過ぎない。超能力を扱えない人間にも超能力者は殺せる」

桃李の言葉にまたも度肝を抜かれるテルヤ。


「え、ちょ、そうなんですか?」

「あぁ。実際にそういう組織が存在しているんだ」

伏見がテルヤの手前で口を開いた。


「『超能力者殺し』の組織、『超能力者狩り』を行っている組織が存在している。奴らの組織名は『マジックハント』」

「・・・・・・マジックハント」

と新しい単語を声に出す。


「・・・・・・アイツらに見つかると面倒臭いんだよなぁ。科学武器とか使ってくるしよォ」


「はははっ、それは言えてるぜよ」

と青髪の男性の言葉を左奥のコンテナに腰を下ろしている刀を持つ男性が肯定する。


「詳しい事は分かっていないが、奴らは超能力を嫌っていて憎んでいる。まぁ、過去に何らかの事件に巻き込まれ、何故か記憶の改変が行われていない人物達によって組織されている。恐らく、世界規模に展開された組織だ」

と桃李が更に付け加える。

「まぁ、超能力を使えると言っても永遠に使い続けれる訳じゃない。無理して使い続ければ何らかの異変が現れる。能力を使っていない時に通り魔にグサッとやられればそれだけで終わりさ」

と須棟が言う。

(確かに、俺も能力を使うと右眼が痛くなるし・・・・・・いや、それは一旦置いといて)


テルヤは頭の中の情報を整理し、

「・・・・・ひとつ聞いてもいいですか?」

と気になったことを聞く。

「なんだ?」

「記憶の改変ってのは何処までの範囲で行われているんですか?・・・・例えば、今回の事件とかは?」


テルヤは焦る。

「さぁな。これについては俺よりも」

と言いながらリンゴの方に視線を送る桃李。


「私の見解では、あの街に住んでいた者達の知り合いが外にいる場合、その者達はその人の事を覚えていないんじゃないかと」

とリンゴが手元のパソコンから目を離し言った。


「・・・・・・ッ!」

テルヤは表情を歪める。

「・・・・・・まぁ、最初は誰でもそういった反応になる。少しずつ飲み込めばいい。今日の所はこれで解散でいいか?最後に聞きたいことがあればなんでも聞くがいい」


「・・・・・・大丈夫です」

テルヤは奥歯を噛み締めてそう言った。

「それでは、解散の前に各自自己紹介だけでもしておけ」

とこの部屋にいる組織のメンバーに向けて桃李が声をかける。

「あと、お前の事が信用出来るまでこちらの方で監視を付けさせてもらう。伏見、合木、頼めるか?」

桃李の声に目の前の伏見とコンテナに腰を下ろす藍色のボブショートの少女が反応する。

それぞれ答えた後に皆の自己紹介が始まった。


「私は姫路ひめじ リンゴ。よろしく」

と答えたのは膝にノートパソコンを置く水色の髪の毛を後ろで二つ縛りする小さい女の子。

「よろしくお願いします」

と頭を下げる。

須棟すとう 久奈くなだ。これからよろしくな」

と黒髪をストレートに伸ばし、白い上着と青い黒いジャージに身を包んだ女性が答えた。恐らく年齢は20代。


「拙者は多摩たま 龍之介りゅうのすけだ」

と上下、武士服に草履を履いた刀を持つ男性が名を名乗る。恐らくだが、年齢は40代。今この場に居るメンバーで一番年上に見える。


合木あいぎ 歓菜かんなよ。よろしくね」

とニッコリ笑う彼女は藍色のボブショートの少女だ。

次に、その隣に座る茶髪のポニーテールの少女が口を開いた。

末笠まつがさ 菊乃きくのよ。下に居るのはクルさん」

と自分の名前を言ったあとに足元のコンテナに背中を預ける淡い緑色の長髪の男の名前を言った。


名前を呼ばれた男はコクんと小さく会釈をする。それに応える為にこちらも会釈で返す。

少女は二人ともテルヤと同じくらいの年齢だろう。男の人は20代に見える。


拍穂うつほ 蒼雅そうがだ。よろしくな」

須棟さんの奥で青髪の男が名を口にする。額に布を巻いていて、革ジャンを着ている。年齢はテルヤより少し上に見える。

「わしは独場どくば 未央みおじゃ。よろしくじゃな」

と更にその奥で眼鏡をかけた薄紅色の長髪の少女がそう名乗った。

その足元で赤茶色のセミロングの少女が初めて口を開いた。

血咲ちざき エリカです」

蚊の鳴くような声でそう言った。

「すまんのう、こやつは人見知りが酷くてな」

と未央がフォローする。

「あ、はい。分かりました」

と慌てて返す。


「これで終わったな。今、ここに居るのは組織の中でもトップクラスの実力を持つ者達だ。このメンバーが幹部という事だ。まぁ、事情があって居ない奴も居るがな」

と桃李が付け加えた後、解散となった。



   

テルヤは伏見と合木という名の藍色のショートヘア少女と一緒にその建物を出て、今日の寝る場所を確保する為に街の中を歩いた。

軽く昼食を取った後に軽く名古屋の街を歩き、色々と説明されたりした。

初めての都会という事で知っておかなければならない事を聞き、想像と違った部分も存在した。もっと早く知っていれば得した事なんかもある。

初めての都会と言っても数日一人で街の中を歩いたりしたから浮かれていた訳では無い。

「二人ともいつも寝る所はどうしてるの?」

とテルヤは共に歩く二人に訪ねる。

「俺はいつもアジトの一部屋を借りてるけどな」


「・・・・・私は名古屋に家があるから」


「なるほど」

両者の答えに納得する形で声を出す。


「じゃあ、えっと、あ、合木さんは」

と名前の所で迷った感じになってしまう。

「ふふふ。あんだけの名前一気に覚えるなんて無理よね。歓菜でいいよ。錦君」

と彼女は可愛らしく声に出して笑った後、明るい笑顔でテルヤの名前を呼んだ。


「あ、じゃあ、俺の方も名前でいいよ」

と返してから

「歓菜さんは今日は一旦家に帰るの?」

と本題に移る。

「分かったテルヤ君。そうだね、そうしよっかな。監視なんて紅輝一人いれば十分だしね」

と返してくれる。

「おい、俺一人に仕事押し付けるのかよ!」 

「連れて来た人が何言ってんのよー!」

文句を言う伏見に彼女は明るいノリで伏見を小突く。

「うぅ」と論破された伏見は少し大人しくなる。

その光景を笑みを浮かべながら眺める。

(まるで、昔の俺達みたいだな)


思い出すのはもうこの世にいない二人。いつまでもこんな時間が続くのだと思っていた。

崩れる事は無いのだと。


「テルヤ君?」 
 
そう呼ばれ、気が付くと歓菜さんが顔を覗き込むようにしてテルヤの様子を確認する。

「どうかしたのか?」 

その様子を見て伏見が止まる。

「いや、なんでもない」

そう言っていつの間にか止まっていた脚を前に踏み出す。






安めのホテルを探し出し、部屋の予約を取った後に歓菜さんと別れた。

伏見は送っていくと言い張っていたが、またも歓菜さんに論破される感じで撃沈する。


部屋は寝る為の部屋と言っていいほど狭かった。部屋のスペースはほとんど二つのベッドで陣取られていた。

ベッド以外に長机がひとつ、テレビがひとつ。

あとはトイレと洗面所と風呂があるだけの安いホテル部屋。


「そういえば、伏見ってお金とかどうしてるの?」

ふと気になったので質問してみる。

「んー、そんなに使う時がないからな。俺は特にお金に困ってないしな。でも、みんなはバイトとかしてるみたいだぞ。あと、俺の事も名前で呼んでくれ」


「分かったよ、紅輝。俺の方も名前でいいよ」

(バイト、か)

と心の中で呟く。


「あぁ。改めてこれからよろしくな」

とニッコリ笑いながら右手が差し出される。


「こちらこそ、よろしく」


その手を取り、握手を交わす。


互いにコンビニで買った夕食を食べ、交代で風呂を済ませる。




「・・・・・・そういえば、気になってたけど聞くのを忘れた事があるんだよね」

ベッドに横になってからテルヤは一人呟いてみる。

「ん?なんだよ」

と隣りから反応があった。


「組織の名前についてなんだけど」

「あぁ。俺もよく知っているわけじゃないけど確か『大地の牙』って言う意味だった気がする。何処かの国で使われる言葉でそういう意味らしい」

「へー」

と感心してからその日は眠りについた。


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