絶望の サイキック
捜索開始
翌日
「んっ」
テルヤはスっと重たい瞼を開く。カーテンの隙間から差し込まれる温かい光に顔が照らされ、重たい半身を起こした。
今自分がどこにいるのかを再認識する。いつもと変わらないホテルの一室。
そろそろ同じ部屋を借りるのが金銭面で厳しくなってきたところだ。
隣にはいつも居るはずの紅輝の姿が見えない。先日、紅輝と歓菜はテルヤに気を遣い1人にしてくれた。
テルヤから言ったのではなく、彼らがそう申し出たのだ。
気分は今も優れないと言っていい。気が重たく、何もする気になれない。いっその事、このままずっと布団の中に潜っていたい。
以前こんな気分に陥ってから何とか回復してからそんなに時間は経過していない。
あの時もあの時の衝撃で、何も考えられず、受け止められず、だったが今も変わらない。
幸運なのか不運なのか
一人だけ生き残ってしまった。
あんな事件を起こした犯人を許しておけない。
テルヤから日常と平和を奪っていった犯人。
そして、その事件を綺麗に隠蔽する国家機関。
テルヤ以外にあの街の住民の事を覚えている人が存在しているとは思えない。
それ程の力を持っている存在をこれかはテルヤは相手にするのだ。
テルヤが心に決めた二つの目標。
『荊使い』を捜し出して殺す事
一般人の『記憶操作』を行う超能力者を捜し出す事
二つ目は捜し出してどうこうするって事ではない。消されたものが戻るとは限らないし・・・・・・
それでも、捜し出して話をしたい。憎いかと聞かれれば憎いと答えるだろう。
でも、殺意はない。それよりも今は『荊使い』に殺意が向いている。
どす黒い殺意。
思い出すだけで憎く、奥歯を噛み締めて怒りを露わにする。今すぐこの場で暴れたい衝動を堪える為にシーツを握る拳に力を入れる。
崩れさり、失った日常は取り戻す事さえ出来ない。
無くなったものは手に入らない。
復讐をしたい。
憎いから殺したい
そうしなければ自分がどうにかなってしまいそうで今はそれに縋ることしか出来ない。
それでも、今は動きたくない。体が酷くだるく、重い。
それ程までにテルヤの心を折った。
復習に駆り立てられる心を、衝動を折るのに充分すぎる威力をあの事は持っていた。
家族の記憶。その家族の記憶。
それが消され、その事にも気付けない。
歯痒い。それでも、どうする事も出来ない。
どこに居るのかすら分からない人間、二人を同時に捜すことに時間を割く訳にはいかない。
だから、先ずは『荊使い』。
結局、一日の大半をホテルの中で過ごした。
特に何をするでもなく、ゴロゴロとだらしのない生活を送った。
翌日
あまり寝付けなかったテルヤは身体の怠さに打ち勝ち何とか身体を起こす。
溜息をつき、伸びをしてからベッドから出る。重い足取りで洗面所に向かい、蛇口から水を出すと頭を突っ込んだ。
ビクッと身体が反応する。冷たい水を頭から被って意識をハッキリとさせる。
水を止めてからタオルで顔と頭を拭く。
少し水気の残る髪の毛をそのままにして部屋を後にする。
エレベーターに乗り1階まで下りる。到着を知らせる音の後に扉が開くとそこには見知った顔があった。
「おっ!」
と声を出し、少し驚いた表情でテルヤを見詰める赤髪に耳に付けたピアスが特徴的な少年。
少し間を置いてから「おはよう」と目の前の紅輝に対して声をかける。
肝を抜かれた様子で応えた紅輝は少し安堵した様子に変わる。
「もう大丈夫なんだな」
彼は微笑む。テルヤは「あぁ。心配かけてごめん」と返した。
テルヤと紅輝は共に肩を並べて歩き出す。
「ちょうどよかったぜ」
紅輝の言葉にテルヤは耳を傾けた。
「紹介したいヤツらがいてよ」
と紅輝は続ける。
「紹介したいヤツら?」
「あぁ。詳しくはアジトに着いてから話すけど、超能力の新しい事件が起こったんだ」
アジトに着く。
「やぁ」と右手を軽く振る黒髪の白衣の女性。
中に黒いシャツを着ていて、白衣のポケットに左手を突っ込んでいる。
「先生!」
紅輝の声が裏返る。明らかにテンションが上がっている紅輝は素早く白衣の黒髪女性の前まで移動する。
テルヤは女性を見詰めて
(えっと、確か名前は・・・・・・)
と思考をフル回転させる。
そんなテルヤを横目にふふっと声を洩らしてから「須棟久奈だ。改めてよろしくな」と微笑んだ。
「はい、すみません。こちらこそよろしくお願いします」
と軽く頭を下げる。
階段を降りて建物の地下に移動する。廊下を歩く事数分。大きい扉の前に着く。
この間と同じ建物だが、歩いた道は全く別である。
須棟が扉を開いて最初に中に入り、それに紅輝が続く。テルヤもそれに続いて中に入った。
扉が閉まる。部屋の中にはリーダーである桜井桃李と姫路リンゴ、合木歓菜の三人と複数の男女がいる。
それぞれ、部屋の中に点々と座ったり、立ったり、壁にもたれかかったりとしている。
部屋は少し古臭く、ボロい。
木でできた机と椅子が散らばっていて、それも所々壊れたりしている。
歓菜はテルヤを見付けるとちょこっと手を上げて笑った。
目が合い、返事をしなければとその場で慌ててしまう。
挙動不審になったテルヤを桃李が冷ややかな視線で見る。
「何してんだ?」
と紅輝が振り返り、そう聞いてくるので「いや、何でもない」と答えた。
その様子を歓菜は声を殺しながら笑って見ていた。
急に桃李が咳払いをして注目を集める。
「話題に入ってもいいか?」
冷静な声が響き、それぞれが桃李に視線を送り、その場は闇に包まれたかのように静かになる。
「知っているかもしれないが、県内で女子高生の暴行事件が多発している。独自の調査の結果、それが超能力によるものだと判明した」
桃李の声に周りがザワつく。
「みんなには今日から調査、犯人を見つけ次第撃破、確保に当たって欲しい」
「ひとつ気を付けて欲しいのがこの件に関しては『マジックハント』も動き出してるってことね。名古屋にもひとつ拠点があるし、注意して行動して欲しい」
ボソッと桃李の真横でリンゴが口を開いた。
その情報にテルヤは驚きの表情を隠せないでいた。
「名古屋に拠点があるのか?」
と小さな声で近くの紅輝に訊ねる。
紅輝は「あぁ」と短く返す。その返事に呆れた表情に変わるテルヤ。
(まじかよ)
と内心で呟く。
「これで解散とする。各自散らばってくれ」
桃李は命令の後にリンゴと一緒に部屋から出ていった。
桃李とリンゴが部屋から消えた後、初めて見る男女複数人が小さな声でテルヤの事を話しているのが聞こえた。
「あれが例の新人くん?」
「あの神隠し事件の生き残りって噂だよ」
「なんか大人しそうだね」
「あのマツユキを殺したっていう噂もあるぞ」
「どんな子だろうね」
「話しかけてみなよ」
「えー」
などと会話が続く。
テルヤが気まずそうにしていると
「はぁーい、ちゅうもぉく」
とテンション高めに歓菜が右手を上げてテルヤの傍に来る。
「はい、自己紹介」
と歓菜が笑顔で見てくる。
「えっと、錦 輝夜です」
テルヤの自己紹介の後、またしても多くの名前を順番に言われ、全部を覚える事が出来ずにあの場所を後にしたテルヤ。
情報が多すぎて結局名前を覚えれたのは数人だけだ。
テルヤは今、名古屋の街中を歩いている。
少し疲れたせいか、両肩が下がっている。肩が重い事を感じながら歩き続ける。まるで、両肩に重りでもついてるかのように重い。
そんなテルヤを見て楽しそうに笑いを必死に堪えながら隣を歩いている合木歓菜。
少し涙目になっている。
「ホントに楽しそうだな」
と歓菜に話しかけるのはテルヤと歓菜の間を少し後ろで歩く紅輝だ。
その横で少し長身の大人の女性が微笑みながらその様子を見守る。
「だって、皆から名前言われた時のテルヤ君の焦った顔と困った顔が」
と言った後にまたツボる歓菜。
「まぁ、気にすんなよ。歓菜はこういう奴だ」
紅輝は頭をかきながらテルヤに対して言う。
「うん。気にしてないから大丈夫。ただ、少し以外だったていうか・・・・・・歓菜さんの印象が変わったっていうか」
(ナズナには無かった一面だしな)
と少し表情に影を落として考える。
「君たちは出会って数日なのに仲がいいんだね。まぁ、紅輝と歓菜が一緒にいたら仕方ないとはいえ」
須棟が口を開いた。
「先生、仕方ないってなんですかぁ!」
「そうですよ。久奈さん」
とそれぞれ文句ありげに須棟の方を見る。
そんな情景を見るとつい頬が緩んでしまう。
「そうですね。俺も不思議に思ってます」
「え?」
と声を洩らす紅輝。
「それで、どうやって犯人を捜すんですか?」
と話題を切り替える。テルヤの問いに多少の沈黙が流れてから紅輝が口を開いた。
「・・・・・・勘だろ?」
「え?」
「そんな訳ないだろ」
驚いていると須棟が口を挟む。
「犯人はあちこちで事件を起こしてるけど、県からは出ていない。捕まらない自信があるって事ね」
「それぞれ県の各地に散らばって細暗い路地を張り込みするってわけだ」
歓菜と須棟が説明する。
「えっと、見えて来ないんですが俺たちは?」
「名古屋担当だよ」
テルヤの問いに歓菜が素早く答える。
「まぁ、名古屋は『マジックハント』の拠点があるからな。能力を使って行動するとなると、動ける者が名古屋を担当した方がいいって訳だ」
「例えば、見つかったとしても俺たちなら、なんの問題もなく切り抜けれるって訳だ」
須棟と紅輝の言葉を聞いて更に疑問が増えるテルヤ。
「ん?つまり?」
「あー、だから。テルヤは俺たちと行動しなきゃダメだから」
「分かった。つまり、紅輝たちは幹部だから一番危ない名古屋担当で、監視対象の俺は道連れで名古屋担当って訳だな」
と苦笑いで理解した事を口に出す。
「そうそう」
と紅輝は笑顔で肯定しながらテルヤの背中を叩く。
「まぁ、私たちと一緒に行動するんだから、危ない目には遭わないと思うよ」
「そうだな」 
自信満々に呟く歓菜と頭を縦に振りながら肯定する須棟。
「・・・・・・先生、それで犯人が超能力者だ、っていう証拠はあるんですか?」
紅輝の問いに須棟が答える。
「被害者全員の証言が一致しているらしい。声が出なかったと」
「んっ」
テルヤはスっと重たい瞼を開く。カーテンの隙間から差し込まれる温かい光に顔が照らされ、重たい半身を起こした。
今自分がどこにいるのかを再認識する。いつもと変わらないホテルの一室。
そろそろ同じ部屋を借りるのが金銭面で厳しくなってきたところだ。
隣にはいつも居るはずの紅輝の姿が見えない。先日、紅輝と歓菜はテルヤに気を遣い1人にしてくれた。
テルヤから言ったのではなく、彼らがそう申し出たのだ。
気分は今も優れないと言っていい。気が重たく、何もする気になれない。いっその事、このままずっと布団の中に潜っていたい。
以前こんな気分に陥ってから何とか回復してからそんなに時間は経過していない。
あの時もあの時の衝撃で、何も考えられず、受け止められず、だったが今も変わらない。
幸運なのか不運なのか
一人だけ生き残ってしまった。
あんな事件を起こした犯人を許しておけない。
テルヤから日常と平和を奪っていった犯人。
そして、その事件を綺麗に隠蔽する国家機関。
テルヤ以外にあの街の住民の事を覚えている人が存在しているとは思えない。
それ程の力を持っている存在をこれかはテルヤは相手にするのだ。
テルヤが心に決めた二つの目標。
『荊使い』を捜し出して殺す事
一般人の『記憶操作』を行う超能力者を捜し出す事
二つ目は捜し出してどうこうするって事ではない。消されたものが戻るとは限らないし・・・・・・
それでも、捜し出して話をしたい。憎いかと聞かれれば憎いと答えるだろう。
でも、殺意はない。それよりも今は『荊使い』に殺意が向いている。
どす黒い殺意。
思い出すだけで憎く、奥歯を噛み締めて怒りを露わにする。今すぐこの場で暴れたい衝動を堪える為にシーツを握る拳に力を入れる。
崩れさり、失った日常は取り戻す事さえ出来ない。
無くなったものは手に入らない。
復讐をしたい。
憎いから殺したい
そうしなければ自分がどうにかなってしまいそうで今はそれに縋ることしか出来ない。
それでも、今は動きたくない。体が酷くだるく、重い。
それ程までにテルヤの心を折った。
復習に駆り立てられる心を、衝動を折るのに充分すぎる威力をあの事は持っていた。
家族の記憶。その家族の記憶。
それが消され、その事にも気付けない。
歯痒い。それでも、どうする事も出来ない。
どこに居るのかすら分からない人間、二人を同時に捜すことに時間を割く訳にはいかない。
だから、先ずは『荊使い』。
結局、一日の大半をホテルの中で過ごした。
特に何をするでもなく、ゴロゴロとだらしのない生活を送った。
翌日
あまり寝付けなかったテルヤは身体の怠さに打ち勝ち何とか身体を起こす。
溜息をつき、伸びをしてからベッドから出る。重い足取りで洗面所に向かい、蛇口から水を出すと頭を突っ込んだ。
ビクッと身体が反応する。冷たい水を頭から被って意識をハッキリとさせる。
水を止めてからタオルで顔と頭を拭く。
少し水気の残る髪の毛をそのままにして部屋を後にする。
エレベーターに乗り1階まで下りる。到着を知らせる音の後に扉が開くとそこには見知った顔があった。
「おっ!」
と声を出し、少し驚いた表情でテルヤを見詰める赤髪に耳に付けたピアスが特徴的な少年。
少し間を置いてから「おはよう」と目の前の紅輝に対して声をかける。
肝を抜かれた様子で応えた紅輝は少し安堵した様子に変わる。
「もう大丈夫なんだな」
彼は微笑む。テルヤは「あぁ。心配かけてごめん」と返した。
テルヤと紅輝は共に肩を並べて歩き出す。
「ちょうどよかったぜ」
紅輝の言葉にテルヤは耳を傾けた。
「紹介したいヤツらがいてよ」
と紅輝は続ける。
「紹介したいヤツら?」
「あぁ。詳しくはアジトに着いてから話すけど、超能力の新しい事件が起こったんだ」
アジトに着く。
「やぁ」と右手を軽く振る黒髪の白衣の女性。
中に黒いシャツを着ていて、白衣のポケットに左手を突っ込んでいる。
「先生!」
紅輝の声が裏返る。明らかにテンションが上がっている紅輝は素早く白衣の黒髪女性の前まで移動する。
テルヤは女性を見詰めて
(えっと、確か名前は・・・・・・)
と思考をフル回転させる。
そんなテルヤを横目にふふっと声を洩らしてから「須棟久奈だ。改めてよろしくな」と微笑んだ。
「はい、すみません。こちらこそよろしくお願いします」
と軽く頭を下げる。
階段を降りて建物の地下に移動する。廊下を歩く事数分。大きい扉の前に着く。
この間と同じ建物だが、歩いた道は全く別である。
須棟が扉を開いて最初に中に入り、それに紅輝が続く。テルヤもそれに続いて中に入った。
扉が閉まる。部屋の中にはリーダーである桜井桃李と姫路リンゴ、合木歓菜の三人と複数の男女がいる。
それぞれ、部屋の中に点々と座ったり、立ったり、壁にもたれかかったりとしている。
部屋は少し古臭く、ボロい。
木でできた机と椅子が散らばっていて、それも所々壊れたりしている。
歓菜はテルヤを見付けるとちょこっと手を上げて笑った。
目が合い、返事をしなければとその場で慌ててしまう。
挙動不審になったテルヤを桃李が冷ややかな視線で見る。
「何してんだ?」
と紅輝が振り返り、そう聞いてくるので「いや、何でもない」と答えた。
その様子を歓菜は声を殺しながら笑って見ていた。
急に桃李が咳払いをして注目を集める。
「話題に入ってもいいか?」
冷静な声が響き、それぞれが桃李に視線を送り、その場は闇に包まれたかのように静かになる。
「知っているかもしれないが、県内で女子高生の暴行事件が多発している。独自の調査の結果、それが超能力によるものだと判明した」
桃李の声に周りがザワつく。
「みんなには今日から調査、犯人を見つけ次第撃破、確保に当たって欲しい」
「ひとつ気を付けて欲しいのがこの件に関しては『マジックハント』も動き出してるってことね。名古屋にもひとつ拠点があるし、注意して行動して欲しい」
ボソッと桃李の真横でリンゴが口を開いた。
その情報にテルヤは驚きの表情を隠せないでいた。
「名古屋に拠点があるのか?」
と小さな声で近くの紅輝に訊ねる。
紅輝は「あぁ」と短く返す。その返事に呆れた表情に変わるテルヤ。
(まじかよ)
と内心で呟く。
「これで解散とする。各自散らばってくれ」
桃李は命令の後にリンゴと一緒に部屋から出ていった。
桃李とリンゴが部屋から消えた後、初めて見る男女複数人が小さな声でテルヤの事を話しているのが聞こえた。
「あれが例の新人くん?」
「あの神隠し事件の生き残りって噂だよ」
「なんか大人しそうだね」
「あのマツユキを殺したっていう噂もあるぞ」
「どんな子だろうね」
「話しかけてみなよ」
「えー」
などと会話が続く。
テルヤが気まずそうにしていると
「はぁーい、ちゅうもぉく」
とテンション高めに歓菜が右手を上げてテルヤの傍に来る。
「はい、自己紹介」
と歓菜が笑顔で見てくる。
「えっと、錦 輝夜です」
テルヤの自己紹介の後、またしても多くの名前を順番に言われ、全部を覚える事が出来ずにあの場所を後にしたテルヤ。
情報が多すぎて結局名前を覚えれたのは数人だけだ。
テルヤは今、名古屋の街中を歩いている。
少し疲れたせいか、両肩が下がっている。肩が重い事を感じながら歩き続ける。まるで、両肩に重りでもついてるかのように重い。
そんなテルヤを見て楽しそうに笑いを必死に堪えながら隣を歩いている合木歓菜。
少し涙目になっている。
「ホントに楽しそうだな」
と歓菜に話しかけるのはテルヤと歓菜の間を少し後ろで歩く紅輝だ。
その横で少し長身の大人の女性が微笑みながらその様子を見守る。
「だって、皆から名前言われた時のテルヤ君の焦った顔と困った顔が」
と言った後にまたツボる歓菜。
「まぁ、気にすんなよ。歓菜はこういう奴だ」
紅輝は頭をかきながらテルヤに対して言う。
「うん。気にしてないから大丈夫。ただ、少し以外だったていうか・・・・・・歓菜さんの印象が変わったっていうか」
(ナズナには無かった一面だしな)
と少し表情に影を落として考える。
「君たちは出会って数日なのに仲がいいんだね。まぁ、紅輝と歓菜が一緒にいたら仕方ないとはいえ」
須棟が口を開いた。
「先生、仕方ないってなんですかぁ!」
「そうですよ。久奈さん」
とそれぞれ文句ありげに須棟の方を見る。
そんな情景を見るとつい頬が緩んでしまう。
「そうですね。俺も不思議に思ってます」
「え?」
と声を洩らす紅輝。
「それで、どうやって犯人を捜すんですか?」
と話題を切り替える。テルヤの問いに多少の沈黙が流れてから紅輝が口を開いた。
「・・・・・・勘だろ?」
「え?」
「そんな訳ないだろ」
驚いていると須棟が口を挟む。
「犯人はあちこちで事件を起こしてるけど、県からは出ていない。捕まらない自信があるって事ね」
「それぞれ県の各地に散らばって細暗い路地を張り込みするってわけだ」
歓菜と須棟が説明する。
「えっと、見えて来ないんですが俺たちは?」
「名古屋担当だよ」
テルヤの問いに歓菜が素早く答える。
「まぁ、名古屋は『マジックハント』の拠点があるからな。能力を使って行動するとなると、動ける者が名古屋を担当した方がいいって訳だ」
「例えば、見つかったとしても俺たちなら、なんの問題もなく切り抜けれるって訳だ」
須棟と紅輝の言葉を聞いて更に疑問が増えるテルヤ。
「ん?つまり?」
「あー、だから。テルヤは俺たちと行動しなきゃダメだから」
「分かった。つまり、紅輝たちは幹部だから一番危ない名古屋担当で、監視対象の俺は道連れで名古屋担当って訳だな」
と苦笑いで理解した事を口に出す。
「そうそう」
と紅輝は笑顔で肯定しながらテルヤの背中を叩く。
「まぁ、私たちと一緒に行動するんだから、危ない目には遭わないと思うよ」
「そうだな」 
自信満々に呟く歓菜と頭を縦に振りながら肯定する須棟。
「・・・・・・先生、それで犯人が超能力者だ、っていう証拠はあるんですか?」
紅輝の問いに須棟が答える。
「被害者全員の証言が一致しているらしい。声が出なかったと」
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