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絶望の サイキック

福部誌是

偽悪の仮面

「じゃあ、私はここで」

そう言ってテルヤ達とは反対方向へ歩いていく黒髪の白衣の美人女性、須棟。

彼女は今から別の用があるらしく、右手を上げてカッコ良く去っていった。


事件は解決したし、それぞれの自由行動になるわけなのだが、テルヤは赤髪の少年、紅輝と藍色のボブショートの歓菜に連れられてアジトへと戻った。


アジトの地下(・・・・・・地下そのものがアジトと言っても過言ではない気がしてきたが)に降りて、エレベーターから出ると栗色のボブヘアーの見慣れない少女が視界に入った。

見た目は中学生ぐらいで、身の丈に合わない長い水色のコートを着ている。

既に数人のメンバーが集まっているのだが、その子だけ見た事がなかった。

全員のメンバーの顔と名前を一致させることはまだ、流石に出来ないが、一度紹介された人なら何となく雰囲気と顔を覚えている。(・・・あまり、自身はないが)


「あ、ミミ!」

と言って歓菜がテルヤを追い越してその少女に抱き着いた。


「帰ってきたんだね」

と言って頬擦りをして少女の頭を撫でまくる。まるでお気に入りのぬいぐるみやペットにする愛情表現である。


「むむむ、む」 

と目を閉じて少女の方も何とも言えない様な癒し顔になっていたので嫌という訳では無さそうだ。


「あいつは蟹目かにのめ ミミ。幹部の一人だ」

と紅輝が紹介をする。

その声に反応して蟹目ミミという少女はスルりと歓菜の腕の中から脱出してテルヤの一歩手前まで迫ってきた。

「おぉ、貴方が噂の新人くんですね」

と何故か目を輝かせた。

「錦 輝夜です。よろしくお願いします」

苦笑いで答える。半ば差し出した掌を蟹目ミミは逃すまいとキャッチして縦に振る。

「よろしく」

「あ、なるほど!」

と蟹目ミミの後ろで歓菜が声を発した。

「え?」

不意に声が出てしまった。

「犯人の居場所を突き止めたのはミミって事だよ」

紅輝が補足してくれたお陰で納得がいった。

須棟の電話の相手は目の前の少女で、彼女の能力によって犯人の居場所を掴むことが出来た、という事らしい。


「おい、須棟はどうした」

銀髪の眼鏡のイケメン、桃李が聞いてくる。

「あー、あれです」

と何故か嫌そうな顔をして何かを飲むような仕草をして返す紅輝。

(あれ?)


紅輝の答えにその場の空気が重くなったような気がした。

額に手を当てたり、ため息をついたりと、反応は人さまざまだが、何やら不安になる動作だ。


「じゃあ、いつも通り紅輝が」  

と遠くからリンゴが話を進めたところで

「異議あり!」

と紅輝が叫んだ。

今までで1番デカい声かもと言うくらい叫んだ紅輝は焦っていた。

「なんでいつも俺なんですか!」

 
「いや、だって他に、ね?」 

と別の女性が声を上げる。

「うむ、その通りだな」

と別の所で男が賛成する。


「いやいや、誰も自分がやりたくないだけでしょ!」

と紅輝はまだ叫んでいる。

「まぁ、紅輝にピッタリな仕事だと私は思うよ」

とリンゴが何処か遠い場所に視線を送った。


「確かにピッタリだね」

と腹を抱えて笑う歓菜。

「おい、歓菜!笑ってんじゃねぇ!」

何故か紅輝は拳を握って発火させる。

「嫌だなー、冗談だって」

今にも殴りかかりそうな紅輝に対して歓菜は楽しそうにニコニコ笑って返す。

テルヤは状況についていけず、ボケっとしていた。それを察したのか蟹目ミミが口を開いた。

「酒癖ですよ」

「へ?」

と思わず聞き返してしまった。


「あっ!そうだ!」

紅輝は突然声を上げてテルヤを見て笑顔になる。

拳の炎を鎮めて腕を下ろし、早足でテルヤに近付いてくる。

「頼む!!」

と頭の前で両手を合わせての懇願。



「・・・・・・わ、わかったよ」

正直言うと断りたい気持ちはあったが、好印象を持ってもらうために、やむなく折れたのだった。





   


今回の事件で何も出来なかった自分が歯痒い。そんな理由もあってか、それとも彼女に対してそんなイメージが無いからか、端末の情報を頼りに酒場までやってきた。 


もう外は完全に薄暗くて、少々肌寒い。

酒場の引き戸を静かに開けて中の様子を確認する。

「てんちょー、もう一杯っ!」

と聞き覚えのある声が聞こえた。

「いやいや、久奈ちゃん。もう帰った方がいいよ」

と店主と思わしき人物が白衣の女性に対して言葉を返す。


渋々と引き戸を全開にして酒場の中へ入った。

酒場のカウンター席に腰を下ろして、目の前の机にベタッとふにゃけている女性。

周りの客は痛いものを見るかのように冷たい視線を送り、テルヤから見ても明らかに引いている。


意外だと思ったのが、大学生かと思われる男3人グループまでもが彼女に対して何とも言えない視線を送っている。

見た目がやんちゃそうで、いかにも遊んでますよオーラーを放っているのに、距離をとっている感じだ。


「らっしゃい!」

と店主がテルヤに気付いて声をかけてくれた。

「あれっ?錦君じゃーん」

と明らかに高いテンションでテルヤの事を呼ぶ彼女。

(キャラが違くない?)

と以前までの印象が崩れる。

「どうも」

ぺこりと頭を下げると店主が反応した。

「おう。なんだ、今日はいつものあんちゃんと違うじゃねぇか」

「今日は代理で来ました」


「さぁ、座って座って」

店主との話を須棟が強制的に終わらせて隣の席を叩く。


誘われるがままに須棟の横の席に座る。

「須棟さん。なんだか、人が違いますね」

「ばかもの!私はいつもこぅだぁ」

明らかに酔っ払っていて酒臭い。いかにも、ヒクッという音が聞こえてきそうだ。


「なにかあったんですか?」

「聞いてくれよぉ、友達がなぁ結婚するって言うんだぁ」

反応に困った。未だ高校生(現在は学校には通っていないが)に結婚がどうって言われてもイマイチ、ピンとこない。

「そ、そうですか。喜ばしい事なんじゃ・・・・・・」

と言いかけたところで、店主の表情が明らかに変化する。

すると、横から素早く肘が飛んできた。避ける隙もなく、胸に肘打ちを食らい、前に屈む。

「ぐっ、ぉ」 

「確かに、友人としては喜ばしい事かもしれんが、私には彼氏すら出来ないと言うのに!」

若干涙声で答える須棟。

(なるほど。つまり彼氏が出来ないという愚痴)

「そ、それは残念ですね」

前屈みになった状態でどう答えたらいいのか分からず、曖昧な返事になってしまう。


「ああぁ・・・・・・・・・彼氏欲しい。欲を言うならイケメンで高収入で」

とそこから彼女の理想の彼氏に対する条件が永遠と並び、

最後に「・・・・・・出会いが欲しい」と付け加えてカウンターに倒れ込む。


「・・・・・ご、合コンとかしないんですか?」


少し反応が怖いが、恐る恐る聞いてみた

「そりゃ、するさ」

と勢いよく飛び起きた。

「でも、でもね、そう簡単にはいかないんだよ。相手の下心っていうか、本性が見えてくるとどうも駄目で、それにこの人いいなって思っても少したったら他に女がいるとか、金目当てだった奴もいたなぁ」

だんだんと涙声になってきた。

「要するに、ダメ男製造機って訳だ」 

店主が耳打ちで教えてくれた。


「・・・・・・なるほど」

と納得がいき、ため息を零す。


「ぅ、ぅー、思い出しただけでイライラしてきた」

と怒りを鎮める為か新しい酒をグラスについで、一気に飲み干した。

プフゥーと酒臭い息を吹き出してカウンターに頭を伏せた。

横からなんとも言えない静かな寝息が聞こえてきた。










それから、しばらくの間沈黙が続いて店内にいた客はテルヤと須棟を残して全員が帰って行った。


「・・・・・・えっと、これはどうしたら」 

と困っていると「まだ時間は大丈夫だけど、君が帰りたいなら起こすしかないね」と店主が優しい口調で返してくれた。



「・・・・・・最近の様子はどうだ」

突然、須棟が言葉を発した。

「えっ?」と不意をつかれたので驚いたような声が出た。

「もう、辛くはないのか」

彼女の声は何処か優しく、暖かいものに包まれるような、そんな声だった。


「はい」

意味を理解したテルヤは俯いて短く返した。


「そうか・・・・・・・・君は最初に会った時、復讐に囚われたような感じだった。でも、本心は違った」 

彼女は静かに語り始める。

「それは、どういう」  

「私はね、他人の心が読めるんだよ」

それは静かに、それでも唐突に告げられた。
彼女は自分の能力をテルヤに告げたのだ。自ら。

眼を見開き、心臓が一気に高鳴る。



『読心』

通常の会話や、コミュニケーションを行わずに相手が何を考えているのかを把握する能力。

他人の心の声を聞く、他人の心を読む。


故に『読心』


(そんな、大事なこと) 

と考えたところで思考が停止する。

そう。この考えも彼女は読めるのだ。

「ふふ、君は本当に優しいな。君の本心はその優しさだ。口では大層な事を言っていたが、心の奥底では君は善良な人間だよ。・・・・・・恐らく、君に人殺しは出来ない」


その言葉に全身の血が沸騰しかけた。

カウンターテーブルに勢いよく手をついて、立ち上がった。その弾みで椅子が倒れてしまう。

その衝撃と音に店主が驚いてこちらを見てくる。

これまでの会話は店主には聞こえない音量で行われていた。

(恐らく、この店主は能力者ではない)

冷や汗が頬を伝う。

「さて、そろそろおいとまするか」

と横で須棟が立ち上がった。

店主が金額を言って、須棟が支払う。

「さて、身体を貸してくれるか?」

と須棟は首を傾げて聞いてきた。









本当は直ぐにその場から逃げてしまいたかったが、そうする事も出来ずに酔っ払っている彼女の腕を持って、肩を組むような形で夜の道を歩く。

テルヤの片腕は彼女の腰に添えられ、第三者からみたら、そういう関係と間違われてもおかしくはない状況だ。


「すまない。気に障ることを言ってしまったようだ」


「貴方ならこういう事になるって分かってたんじゃないですか?」


「ふふ、君は頭がいいな」

『読心』の能力を持つ彼女ならテルヤが怒る事はわかっていた筈だ。それを彼女も理解している。


「無理をしなくてもいい。その優しさは恥じることでは無い。誇るべき事だよ」


いちいち気に障る。


(うるさい)彼女を突き飛ばしてしまいたいぐらいに。テルヤの中でイライラが募っていく。


(この女は勝手に他人の心を読んで、理解した風に接してくる)

テルヤは奥歯を噛み締める。

(うざい。そんな事聞きたくない)


恐らく、この思いも筒抜けになっている。それでもテルヤは辞めない。

(お前に何が分かる!俺の何が!目の前で親友を失って、それだけでも崩れそうだったのに、幼馴染の少女まで・・・・・・居場所だった全てを失った。彼らがなにか誤ちを犯した訳でもないのに!罪を起こした訳でも無いのに!なぜ!なぜ、ツカサ達は殺されなければならなかったんだ!あんなに良い奴が!俺なんかより、価値がある奴らが、どうして、どうして死ななければならなかったんだよ!可笑しいだろ!だから、俺は殺すんだよ!殺して殺して殺して、真相を掴むんだ!殺すんだ!殺す!殺すんだよ!復讐してやる!仇を取ってやる!絶対に!殺す!『茨使い』も、『ワイヤー使い』も!アイツらにどんな理由があっても、そんなもん知ったことか!絶対に殺す!必ず殺す!)


心の中がぐちゃぐちゃだ。

どうにかなってしまいそうだ。身体の、頭だけが熱を帯びている気がする。

半分くらい、涙目になって心の中で叫んだ。



「・・・・・・今の君では無理だよ。復讐に囚われた者が、今日の事件で何も出来ないはずがない」


その言葉もまた、テルヤに深く突き刺さる。

真実だ。

今日の事件でテルヤは何も出来なかった。無能だ。


(そんなの、わかって)

そこまで叫んで彼の声は沈んだ。

そうだ。

今のテルヤでは、復讐の対象と遭遇しても、何も出来ないだろう。


「・・・・・・君は復讐がしたいんじゃない」

その言葉もテルヤに突き刺さった。


(は?何言ってんだ?俺が、復讐を望んでない?そんな事、ある筈がない!・・・・・・だって、皆が、皆が、報われない)


「自分の心を誤魔化すのに他人を利用するな!」


その言葉はナイフのように鋭く、テルヤの心臓に突き刺さる。


「君はただ、逃げたんだ」

突き刺さる

「そうしなければ、自分が壊れてしまいそうだったから。だから君は逃げたんだ。親友を、幼馴染を失って、居場所が壊された。望んでいた日常は消え去り、君は病んだ。随分と苦しんだ事だろう。独りで抱え込んで、限界まで耐えた。そして、壊れそうになったから、逃げた」


深々と刺し込まれる。痛々しくもその刃はテルヤの胸を抉る。

情景が浮かぶ。

ツカサ、が。ナズナ、が。
共に過ごした日々が。
通った学校が
笑った日常が
恋い焦がれた思いが
もう、戻ってくることの無い幸せが
居場所だった全てが

奪われ、壊された
 失った

抜け殻の様に徘徊した街
眠れなかった日々
啜り泣いた日々

ぷつりと切れてしまいそうだった細い糸。

ピンッと張っているのにも限界は来て

復讐を決めた。


いつの間にか目頭が熱くなり、水滴が溜まる。それも限界を迎えて、スっと流れ落ちる。


(復讐をすれば何かが変わると思っていた)

ただ、縋っていただけだ。

惨めに縋っていたんだ。

そうしなければ自分が自分で無くなりそうだったから。

(復讐しても、失った事は変わらない。分かっていた。分かっていたんだ。ただの自己満足だって)


偽悪。


染まった心・・・・・・いや、染めようとしていたのだ。

偽物の悪で自分を偽っていた。もう一人の自分を勝手に作り上げて


(嫌だったんだ。認めたくなかった。本当は分かっていた。見ない振りを、知らない振りをしてきた。偽りの仮面で本性を隠して、復讐に縋ることだけが活力だった。否、活力にしようとしてたのだ。復讐が皆が望んでいる事だと決めつけて、勝手に目標にした)



「・・・そうです」

そう言った唇は震えていた。

(でも。それの何が悪いんだ!そうしなければ、俺は生きていられなかった)


「だから」

(そうだ)

「僕は」

(俺は)

「弱いから」

(知らないふりをした。逃げた自分を) 

「(逃げたんだ)」


(理解していた。この弱さも醜さも。逃げたという事実も、実力の無さも、足りない覚悟も)


「・・・・・・」

(あぁ、この人の言う通りだ。俺は偽っていたんだ。利用していたんだ。逃げる理由を付けるために。ツカサが、ナズナが死んでしまったという事実から逃げた理由を偽った。その理由に他人を利用した)


「・・・・・・俺は、最低です」

溢れる涙と共にその言葉を零した。




身体の舵は、いつの間にか彼女に支配されていて、気が付くとホテルの一室だった。


ベッドに座らされ、下を俯く。


「俺、優しいんじゃないんです。弱いだけなんです」

いつの間にか、止まった涙に目元が赤く染まり、テルヤは呟く。


「・・・・・・いや、君は確かに優しいよ。今の君を構成しているものに大きく影響したものがあるだろ。それは人との関わりだ。人は人に影響される。君の中には、確かにそういう人達がいる」

ツカサの顔が
ナズナの顔が

両親の顔が
おじさん、おばさんの顔が

今はもう、見る事の出来ない大切な人達の顔が浮かんだ。


「君は優しい。でも、もう思い詰めなくてもいいんだ。ここまでよく独りで頑張った」

彼女はテルヤの隣に腰を下ろして、俯くテルヤの背中を優しく撫でた。



張り詰めていたものが緩んで、身の内から再び何かが溢れてくる。


「よしよし」と暖かい手で優しく少年の頭を導いて、自分の膝に誘い入れる。そして、少年を優しく抱擁する。


それは、久しぶりに感じだ愛情だった。

暖かく、優しく、どこか懐かしい

母親の温もり



情けなくも彼女の膝の上で、子供のように泣き叫んだ。


(辛かった。苦しかった。嫌だった。全て放り投げてしまいたかった。頑張ったんだ。ここまで。全力で、どうしていいか不安で、怖くて、恐ろしくて、どうにかなりそうだった)



「辛かったね、苦しかったね、もう大丈夫だ」

彼女の優しい言葉は少し酒が混じっていて大人の香りだった。それでも、久々に感じだ人の優しさに今まで溜め込んだものを全て吐き出した。



もしかしたら、どこかでずっと待っていたのかもしれない

誰かに優しくされるのを


心の内を暴かれるのを


本性をさらけ出せるのを


そういった相手に出会えるのを







偽りの悪。

偽悪の仮面が剥がれ落ちる。


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