悪役令嬢は趣味に没頭します

ててて

22 彼の存在


「俺は……精霊の里で生まれたんだ。」

ぽつりと彼が話し始める。

「月の光の力で生まれて、目を開いた。体の中の力は膨大にあって、魔法も…全属性使える。そんなのは今までに一人もいなくて、俺は化け物だと言われた。 」

ギュッと抱きつく力が強くなった。

「目の色が気持ち悪いって石を投げられて、髪の色が気味が悪いと指をさされた。力がありすぎるせいで森に押し込まれて里には戻ってくるなと言われた。
することもなく、したいこともなく、そのまま森に留まっていた。」

「だけど、それにも飽きてしまって。普通はこちらの世界には召喚されないと来られないけど、俺は力があるから。怪しまれないように猫の姿に変えてこちらに来たんだ。」

「水たまりに映る自分が嫌で。消そうと持って水たまりに入ったら出てこれなくて。死ぬかもしれないと思った。死んでもいいかもと思った。そうしたら、あなたが助けてくれた」

彼は体を離し私の頬に手を添える。

「……どうして泣いてるの?」

「………」

そう言って私の涙は頬を伝う。彼はそれを指で拭く。
さっきとは立場が逆になってしまった。

ゲームでの私は力を欲しがった。力があれば誰にでも好かれ愛されると思っていた。

だが、彼は違う。彼は望んでもない力を持ち、愛されず忌み嫌われ捨てられた。
ゲームでの自分の愚考さに腹が立った。

「あなたくらいだ。俺を助けてくれて暖かく撫でてくれて、暖めてくれて、泣いてくれるのは。」

彼はそう言って私の涙を吹きおでことおでこをくっつけた。 
この涙はそんなにいいもんじゃない。違うんだ。


「ねぇ、俺に名前をくれる?」

彼は縋るようにポツリと言った。
その意味を私は分かっている。
精霊に名前をつけるということはその精霊と絶対の約束を結ぶ《盟約》。共に力を共有すること。

彼に名前をつければ、彼と同じように魔法が使える。だが、それは私にとって良くないことだ。魔法が使えると学園の魔法科に入ることになる。それはまずい。

私は必死に考える。黙っていた私に彼は体を離す。

「やっぱり、嫌、だよね。こんな力にあなたを巻き込むなんて…ごめん、俺どうかしてた。」

「ち、ちがう!!」

離れようとした彼の腕を引っ張る。
そのまま、また隣に座らせた。

「気持ち悪くないって言ったでしょ?
そうじゃないのよ、そうじゃなくて……
私、魔法が使えると将来殺されるかも知れな、くて…」

「え」

両肩を掴まれる。

「誰に?どうして?どうやって!?」

そのまま揺さぶられる。

「ちょっと待って!説明するから……聞いてくれる?」

そうして、私は彼に前世の記憶があること。そしてこの世界が前世でやったゲームの舞台のようだということ。そして、私の立ち位置だと殺されてしまうことを話した。

今まで誰にも話したことのないことだ。
ドキドキしながら話す。

「……そうか。じゃあ、俺に名前をつけて」

「ん??話聞いてた??」

「聞いてた。その上で盟約したい。俺と盟約して魔法が使えるようになっても測定器に出ないようにする。」

「そんなことできるの?」

「俺ならできる。」

彼はそう言って胸を張る。
本当にできるの…?

「そんな…でも、もしかしたらゲームの強制力が働いてしまうかも…」

それだ。それが私にとって1番怖いこと。強制力が働いて仲良くなったルーに殺されたり、好きでもない相手に嫉妬したらどうしよう。わからないのだ、未来が。
そして、その強制力に抗う術も無ければ自分を守る術もない。

「その、未来視のげぇむというのに俺は出てきた?」

「……いいえ」

そんなキャラクターいなかったはずだ。

「だったら大丈夫だと思う。俺の力なら国1つ2つ滅ぼせるから。そんな力に惑わされない。」

おおっと、別の意味で盟約したくなくなった。

「俺は盟約に従い、あなたのものになる。そして、全部の力を使ってでもあなたを守る。あなたが俺を助けてくれたように」

そういう彼の手は暖かい。

この世界で前世の私もこの世界の私も知っていて頼れるのが彼だけ。

この世界ではピアノが弾けて音楽がてきて、暖かい家族がいて優しいお兄様も可愛いルーも優しい使用人たちもいる。

そんな彼らにも伝えられないこと。
私はどこか心の中で孤独を感じていた。

本当のことを言えない罪悪感、心から愛していいのかわからない、もしかしたらゲームの強制力が働いたら私を殺す人達。

でも、彼が居てくれたら、彼がそばに居てくれたら嬉しい。何も隠していない私を見てくれて、話を聞いてくれる人。

私を守ると言ってくれる人。

未来はわからない。例え私が拒み続けても、強制力が働いたら全て水の泡だ。

魔法が使えたら…強制力が働いた時、自分を守る術になる。しかも、測定器に出ないなら学園は普通科に行けるし…

どうせ、どうせ死ぬなら…
私はまた力を求めた。それは皆からの愛をとるためではなく、私の命のために。







「あなたの名前はノア。私と一緒にいてくれる?」

「もちろん、姫。俺にとって優しく美しい人」

そう言って彼は私の唇に同じものを重ねた。

「名前を聞いても?」

私は今、顔が真っ赤だろう。そりゃあ突然キスされればね!!さっきまでのしおらしさはどこに行ったのか!

「………リリア・エルディーナ。」

「リア、必ず俺があなたを守ってみせる。そして、ずっと笑顔で居られるようにする。」

また近づいてくる彼に逃げようとしたが、ぐぃっと腕を掴まれまたキスをされた。

さっきよりも長く、何故か全身がポカポカしてくる。いや、これは恥ずかしくて熱いのではなく本当になにかが流れて熱いのだ。

しばらくして、息が出来なくなり離してもらう。

「ちょ…はぁっ、息が…」

「鼻から吸わなきゃ。ほらもう一度。まだ完全じゃないよ。」

「んっ」

そうして、彼はキスをする。ずーーーーっと口をつけたまま。たまに食みながら。それは夕食を呼びに来たメイドが来るまで。

体がもう熱く、全身が赤い。

「なに、これっ」

「リアに俺の力を全て流した。これで盟約は完了だよ。俺はリアの居場所や危ない時が分かるし、リアは魔法が使えるようになる。」

どうやら、このキスで力を流していたらしい。そりゃあ、体がパンクしそうなくらい熱いわけでしょうね。国を滅ぼすほどの魔力を流されたのだから。

というか、盟約する人はみんなキスしてるわけ!?嘘でしょ!!

「みんな……ハァ、キスするもの、なの?」

とぎれとぎれに話す。

「いや、普通はご主人様が寝てる間とかに手を握ってやる。」

「なっっ、なんで!?」

どうしてわざわざキスしたの!?しかも今!夕食前!寝てる時に手を握ってやってよ!!

「………なんとなく。」

そういうと彼は私を抱っこしてベットに運ぶ。
そのままベットに寝かせて髪を梳く。
チュッとまたもやキスをした。

「…嫌いにならないでね?リア」

猫の姿になり私の隣に寝転ぶ。頬をスリスリされてふわふわの毛が気持ちいい。

私はもう色々とありすぎて疲れてるし、ノアの力が体を駆け巡っているので体が重く、そのまま眠ってしまった。

そうして、大好きなビーフシチューを食べ損ねたのだった。








コメント

  • パニックフィッシュ

    いいですねぇ

    5
  • あおい

    この展開はナイスすぎる
    のあくんけっこーすきやわ

    4
  • ノベルバユーザー321909

    ……(ちょっと見てたら照れた、何でやろ)

    4
  • アタナシウス

    っはーーー!大好きですこの展開最高です

    3
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