Little Red Riding Hood

闇狐

四章「メルスケルク」『始発列車』

始発列車に揺られること約一時間が経過した。
車窓からは小高い山々と、葉が枯れ落ち全く見応えのない木々が点々と映り込んでいる。
俗に言う『殺風景』だ。
願わくば緑溢れる自然豊かな光景を望みたい所だが、現実問題、そんなものは無い。

「ねえおじさん。まだ着かないの?  私退屈なんだけど。」

赤ずきんはただ茫然としているミントンに対して蟠りを募らせ、顔を顰めた。

「‥‥!‥‥ああすまん。もう少しだ。後十数分程度で着くさ。」

「‥‥本当なの?」

「ああ本当さ。おじさんの眼を見て御覧。嘘をついている眼に見えるか?」

この立ち振る舞いに対して流石の赤ずきんも疑念を抱かざるおえなかった。
「この男は本当に信用していいのか?」
「もしやこのまま拉致されるのでは?」
‥‥等と赤ずきんの脳裏で様々な疑念や憶測が飛び交った。

しかし、赤ずきんはこの男を信用することにした。
まだ多くの疑念は残っている。
しかし、外出(そとで)したからにはもう後戻りは出来ない。
そう悟ったのだ。

腕を組み、苛立ちを隠せない赤ずきん。
ふと、再び車窓に目をやると、赤ずきんは何か幻影を見ているかの如く何度も右目を擦る素振りを見せた。

「おじさん‥‥あれ‥‥」

赤ずきんは突然顔面蒼白になると、ミントンに対して車窓のある方向を震える人差し指で指し示した。

「なんだあ‥‥?」

先程まで気の抜けた表情で座席に腰掛けていたミントンは、赤ずきんの指し示す方向を一瞥すると、瞬く間に幅の狭い車窓に張り付き目を皿にしてある方向を凝視した。

「あ、あ、あ、あれは‥‥!!」

「ラシュール帝国軍の騎兵隊だ!  お嬢ちゃん今すぐ窓を閉めて伏せるんだ!」

ミントンの悲鳴は瞬く間に客車全体に響き渡り、その客車に同席していた乗客全員にどよめきが走った。

「ラシュール帝国軍の襲撃だ!  全員窓を閉めて伏せるんだ!  然もないと全員クロスボウの餌食になるぞ!!」

慌てふためきだす乗客達、赤ずきんはただ漠然と突っ立っている。

「お嬢ちゃん早く伏せろ!  俺は今すぐ此処の運転士に知らせてくる。  こんなオンボロ機関車じゃ大した速力も出ない!  直ぐに騎兵隊に追い付かれるぞ!!」

今までのあのアホ面野郎は一体何処へ。
そう思う赤ずきんを他所に、ミントン駆け足で機関室に飛び込んでいった。

【続く】

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