女であり男でもある私は復讐をしていきます
23話 聖女様は笑わない
「これなら幼馴染の方も喜んでくれますよ!」
ガルデが自信ありげにそう言いながら手に持っている先ほど屋台で買っていた飲み物を全員に配る。
「ああ、いいものが買えた」
それを受け取りながらふんわりと微笑み、先ほど買ったアクセサリーの袋に視線をやるディルク。
ガルデが私にもその飲み物を差し出したのでそれを受け取り口を付ける。
「美味しい…!」
瞬間、口の中に広がるのはフルーツの爽やかな酸味とそれに合うほのかな甘み。
普段このように出店のものなんて飲めないのでそれが新鮮で気分が高揚した。
「冷えてればもっといいんだけどね」
ガルデがカップをゆらゆら揺らしながらボソッと呟く。
確かに、このフルーツジュースは微妙にぬるい。まあ氷は冷凍する技術が魔法のみしかないこの国では氷は貴重品で魔法で作るか冬に作ったものを保存するかしかない。ただ氷属性を持った人は僅かであり、贅沢は言えないのだ。
「確かにな、」
ガルデのつぶやきを聞いたのかディルクがそれに返し、ガルデのカップの上あたりに手を持っていく。
するとガルデが「わあ」と歓喜の声を漏らす。
それを見て、此方のカップにも手をかけてくれたので不思議に思い覗き込む。
「すごい…!」
すると、カップの中にはいくつかの氷が涼しげに動いていた。
「流石だね〜」
無邪気で綺麗な笑顔をしながらそうカップに口をつけるアトレーテ。
「…そういえば何故ガル様は、買い物に慣れているのですの?」
その様子を見ながらふとした疑問を口に出す。何故、時期宰相と言われている彼が、屋台での買い物にここまで手馴れているのか。
「…ははは、気のせいじゃないかな…」
「…あっ、あれノアルさんじゃない?」
ガルデの頬がひきつり始めた頃、アトレーテは話を変えようと辺りを見渡す。
そして見つけたのが王都の大聖堂の前で立っている光の聖女、ノアル・ガーデントレイ。
「あっ、本当だ。ノアだ」
それを好機と言わんばかりに飛びつくガルデ。少しため息が出たが、ディルクを含めそちらを見ている3人の顔が険しいものだったので私も視線を同じ方向に向ける。
そこには、あってはならない光景が広がっていた。
「助けてくださいっ…!娘が!」 
「ごめんなさぁい、先約があるの。さ、行きましょウルヴァリィア騎士団長っ」
見るからにやせ細り泣く体力も残っていない子を抱いた母親。
しかしそれに見向きもせずウルヴァリィア騎士団長、デュークスの父親にノアルはすりついていた。
「お願いします…助けてください…っ」
それでもノアルの足元まであるスカートにしがみつき助けを求める。
「騎士団長は今お怪我をなさっているのです。この方はこの国を支えているお方なのですよ」
その様子に、冷たく掴まれた部分を睨みながら言う。
今にも倒れてしまいそうな母子がいるのに人々を平等に扱う聖職者とは思えない対応だった。
「そうだ、その汚い手を離したまえ」
それに調子に乗ったのか母親の手をグリッと踏みつける。
その瞬間、私たちはその前に飛び出した。
「その様に民を扱うのは王に忠誠を誓い、国の為に尽くす騎士の行いか?」
ウルヴァリア騎士団長の肩に手を置き
冷淡にアトレーテは笑った。
「アトレーテ王太子殿下…?」
非常に困惑した表情を浮かべる騎士団長はその周りの面々を見てさらに固まって行った。
「違います!騎士団長様は肩に怪我をされているのです!そのため私はそちらを優先しようと…!」
見え透いた嘘をつくものだ、と一部を除いて他の面々は思っただろう。
王都の教会は市民の支援などを目的としているため騎士団長がここに来る理由はどこにもない。例え怪我をしようと専用の魔道士や魔法具を使うものだ。
「そうだぞ、さあいこうか聖女殿」 
「ええ」
「仕方ありませんわ…すみません、お手をお借りしてもよろしくて?」
 
ささくさと教会の中に入っていこうとする2人を見ながら横にいる母子の手を借りる。
「我は全知全能の神に愛されし者。今その聖天の力を持って人々に癒しを…」
神級回復魔法を大勢の前で堂々と使うわけにもいかないので小声で最小限になるよう努力した。
その詠唱を言い終えると同時に私の手とその手で握っている母子が淡い光に包まれはじめる。
その光景はさぞかし神秘的だろうが残念ながら治癒のため集中しているのと魔力の抜けて行く脱力感が重なり見れない。
「…ふぅ…終わりました」
「有難うございます!!感謝しきれません…!」
痩せ細って所々怪我をしていた2人はその面影もなく綺麗に健康的になっていた。
「リリアーナ様、何ですか、その魔法」
その光景をありえないとでも言いたげに見ていたノアルが口を開く。所々途切れているのは動揺のためか。
「なにとは?今見えたとおりですか」
当たり前だ、だって回復魔法の使い手は世界で見ても数人しかいない。
その為、彼女は光の聖女と崇められていたのだ。
「なんで、光属性を…」
それなのに一番敵視していた私が使えた、それも同時に2人分の高位回復を。
この希少性はだれよりも彼女が分かっているだろう。
「他国に適正魔法の報告をしなければいけないなんて、言われてませんわ」
今まで魔法、特に光属性では適性のないであろう私に負けるはずがないと思っていたノアルの余裕がなくなった瞬間だった。
「光の聖女とは慈悲深い者だと聞いていたけど、それほどでも無いようだね」
リリアの方が余程いい、と冷淡に言うアトレーテの言葉がさらにノアルの傷を抉る。
「リリアーナ様でしたか、初めてお目にかかります。デイリオル・ウルヴァリアです」
先程の姿勢とは打って変わりニタニタとこちらに敬礼をする騎士団長。
ディルクの眉間にシワがよっている事が見なくてもわかるくらい騎士とは言い難い体型と姿勢だった。
「リリアーナ・アイラライトです。先程はお見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません」
それを悟られないように一礼するとその視線が一層気持ちの悪いものになる。
全身を舐めまわさせているかのような、そんな視線だ。
「素晴らしい魔法ですね。ぜひ、私の治療もしていただきたいな」
その途端、馴れ馴れしく肩に手を置かれ教会の中に引きずり込まれそうになる。
全員が固まった瞬間だ。
「離してくださいません?」
完全な愛想笑いをしながらそう言っても聞き耳をもたない騎士団長は、気持ち悪い。
「リリアーナ嬢は噂通り美しいですな、デュークスの伴侶となっていただきたいくらいだ」
デュークスと婚約とかするのであれば死んだ方がまだましだ。
「まあ、少し教会で話そうじゃないか」
荒い息が肩にかかり鳥肌が立ってくる。
これは、やばい。
どうやって抜け出そうか色々考え、物理的に魔法で気絶させようと手に魔法陣を発動させる。
「リリアは先程の魔法で疲れたようなので、失礼いたします」
あと少しで騎士団長に魔法が直撃する寸前のところでディルクが肩に乗っている手を払いのけて私を掴む。
それだけで胸が高鳴った。
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