女であり男でもある私は復讐をしていきます

わたぱち

15話 夜会、始まったようです




「テトラ、変じゃないかしら」

「とんでもない、お美しいですよ!見惚れない人がおかしいくらいに」

ある意味楽しみな夜会当日。新しく兄が贈ってくれた青を基調としたドレスに身を包み、いつもはハーフアップにしている髪をサイドアップスタイルにしてもらう。
その髪に純白の花を差して貰えば青の暗い印象が変わり、明るくなった。
生花は枯れやすく準備しにくいがわざわざ先程テトラがとってきてくれたらしい。

王立学園では生徒たちが2つに割れていて1つはディルクやアトレーテ、私やガルデたちが主な平等派と今から行く夜会はあの5人が主な特権派に分かれている。
この夜会はガルデ曰く、特権派の集まりのようで今日私が誘われたのもアルザックやヴァイルが私を特権派に引き込むためだろう。

特権派は平民が多い平等派とは違い、高位貴族が多く非常に差別意識が高い。
差別はある程度は仕方のないものではあるとは思うが、平等を掲げる学校で将来が期待できる魔力を所有していて努力をしている生徒を理不尽に責責め立てるのは見ていて我慢ならない。
だから、シトラルだった頃から平等派に婚約者を置いてついていたのだ。
できれば、アルザックには王太子として身分差別を軽率にしないようになって欲しかったが今はもう違う。
私はもう王太子妃でもアルザックの婚約者でもなんでもないのだ。

アルザックアレよりも今年主席で入学した第二王子のクロードの方がずっと王としての心構えや器を持っている。
けれど年上を敬い、私を姉と慕ってくれる可愛い弟のような存在だった。

生徒会では会えるけれど、もう姉様と呼ばれることもないのか。
そう思うと少し寂しい気もするが、あのアルザックとなんて考えたくもないので仕方がない。

でも、本当に可愛かった。
腹違いだとしてもバカ王子と兄弟だとは思えないほど。

馬車から降り、ゆっくりと城へ向かって歩く。
遅れて到着するようにしているので、もう軽やかな音楽がうっすらと聞こえてきていた。

そんな軽やかな音楽の中、今からその馬鹿王子に会いに行かなければ行けないのだと思うと気が沈むがもう計画シナリオは出来上がっているのだ。

そう思いながら、開いて行く扉の奥に広がる煌びやかな世界へと足を踏み入れた。


その瞬間、騒がしく賑わっていた会場が静まり返り視線が自分に集まるのを感じる。

…公爵令嬢として恥のないようにけれどシンプルで美しいドレスにしたつもりだが、浮いていただろうか。
不安を覚えたが取り敢えず階段を降り、会場へ向かって歩く。
その後一通り周りへの挨拶が済んでも視線はあまりおさまらなかった。
今はここの主役とも言えるアルザックやシャルル、達5人ががダンスをしているというのにそんなこと忘れたかのように周りは私を見てくる。
しかし、踊っているアルザックまでがこちらを見ているのには緊張というよりは呆れた。
婚約者とのダンス中に他の女性を見るなんて礼儀がなっていない。

だが本当に周りがこちらをすごい見てくるので少々戸惑っていたが、それを見かねたすぐにガルデが駆け寄ってきてくれた。

「やあリリア、…凄い綺麗だね。思わず見惚れてしまうよ」

その顔を見た瞬間、非常にホッとした。
なんせここに誘われている生徒とは面識があまりないのだ。

「ありがとうございます、ガル様はあの2人とダンスはしなくてよろしいのですか?」

話しかけてきてくれたのは嬉しいが、ガルデはいつもはファーストダンスをノアルと踊っていた。
それなのに今日は速攻で私に話しかけにきたのだ。
そのせいか、デュークスと踊っているノアルの目が私に突き刺さる。

「神に仕えるものは異性との関係を持つことを禁じられているから婚約なんてことにならないように仕方なく踊っていたまでだよ。けれどもう必要ないから」

そう小声で周りに聞こえないようにしながら呟くガルデ。
…彼女からしたら時期宰相で将来有望なガルデは恋愛対象だったのだろうに、まさか相手にこれ程相手にされていなかったとは。

少しかわいそうな気がする。

「それは置いといて一曲お願いできる?」

「ええ、よろこんで」

ガルデはすっと手を私の前に差し出してきたのでそれをとると周りからの視線がさらに酷くなる。
それを気にしないようにしてダンスが行われている中央に2人で歩いて行った。

私たちがダンスの輪に入ることで止んでいた音楽が流れ始める。
かなり上級者向けの音楽が流れ始めた。
腰に手を回されリードされる。
丁寧で相手を気遣っているようなガルデのリードはかなり上手だった。

「へえ、ダンス上手だね」

「ガル様のリードがお上手だからですわ」

踊りながら話していると視界の隅にある人物が見える。
勿論ノアルの事だが凄い剣幕で睨まれている。
ニッコリと笑うとすぐに視線をそらされた。

たわいもない会話をしていたら、いつの間にか音楽は終わってしまう。

「もう一曲やる?」

「ガルデ、独り占めはずるいぞ」

ガルデがそう行ったのと同時に私の体がぐいっと引っ張られる。
突然のことにバランスを崩したが、床に転げ落ちる先に誰かに支えられた。
…デュークスだ。
鳥肌が立ったのは言うまでもない。

「踊ってくれるよな…?」

私は何も返してないのに中央に引っ張っていきそのまま踊らされる。

戸惑ってガルデの方を見ると哀れみの目で見られていた。
目で『どんまい』と言っている。
裏切りやがった。

「ガルデとは随分と仲がいいな」

無心で踊っていると、デュークスから話しかけてきた。

「ええ、同じクラスであり生徒会の仲間ですから」

「俺ではダメか?」

微笑みながら返すとデュークスは見るからに不機嫌になる。
気持ち悪いめんどくさい、早く終われ。

心の中で散々暴言を吐き散らしながら、完璧なポーカーフェイスを数分間貫いた私を褒めて欲しい。

「では、」

曲が終わると同時に爽やかに相手から一礼して離れる。
やっと解放された!と喜んでいるのもつかの間、飲み物を取りに行こうと思ったらガッチリと手を掴まれる。

「来てくれたか、挨拶が遅れてすまないな」

ニッコリと笑っているアルザックが立っていた。

「お誘いありがとうございます。とても楽しいですわ」

完全な作り笑いを浮かべるとアルザックは顔を赤くして視線をそらした。
これで照れるとは、末期だな。

「…一曲踊っていただけるか?」

「シャルル様はよろしいのですか?双方想い合っていると伺っていますが」

「少しくらいいいだろう、それに今は貴方との時間を楽しみたい」

浮気じゃないか。公衆の前面で呆れるほど愛してるやらなんやら言っていたのに、意思は弱さにほとほと呆れる。

「でしたら、喜んで」

差し出された手に自身の手を重ね、考えていることなんて一切顔に出さず踊り始めた。
周りの人は驚きの目で私を見ていた。
今度はシャルルまでもが憎悪の目で睨んでくる。

私にしたことをしているだけなのに、と考える自分の性格の悪さは自覚している。
それでも、絶対に許せないのだ。

「…リリアーナ嬢は今日も美しいな、ドレスが海のような髪によく似合っている」

「ふふ、嬉しいですわ」

実際のところ全く嬉しくない。
ちょっと棒読み気味になったが相手が気づいていないようなので良しとしよう。

終盤に向かっていた音楽がいつの間にか止む。
しかし、音楽が止んでも手を離さないのアルザックを不思議に思いどうかしました?と声をかける。

「あ、すまない、飲み物でも取ってこようか」

自分が手を離していないことに気がついたのか目をそらしながら手を離し、飲み物を取りに行ってしまった。
王子を使ってしまった。

すぐ戻るだろうと思って少し待っていると、シャルルとノアルが睨みながらこちらに向かっていた。
これは、絡まれるかな。
と思っていると案の定話しかけてきた。

「リリアーナさん、来ていたんですね」

「ええ、殿下にお誘いいただいたので」

「リリアーナ様は随分とアルザック様やガルデ様と仲がよろしいのですね」

シャルルの後ろにいたノアルがニッコリと笑う。
周りの人たちはこの2人が私に話しかけたことが気になるようでチラチラと見ていた。

「みなさん親切でとてもお優しいので」

こちらもら笑いながらそう言う。
そのことにイラついたのか耳元で周りに聞こえないようにシャルルは告げる。

「…あの方々は私のことを見ていればいいの、モブの貴方が出て来ないで」

黒い笑みを浮かべながら本性を露わにする。
そのまま持っていたノンアルコールのカクテルを傾け私のドレスにかけた。

「あっ、ごめんなさいリリアーナさん…ドレスに飲み物が…!私の不注意でっ」

顔を私から離したと思ったらワントーン上がった声で周りに聞こえるようにそう言う。
ニヤニヤと笑う顔はさっさとここからいなくなれと言っていた。

「シャルル、ノア。リリアーナ嬢に何をしている」

その時、手に飲み物を2つ持ったアルザックとガルデが後ろから現れた。

「アルザック様!私、飲み物をこぼしてしまって…取って来てくださったんですね!ありがとうございます!」

アルザックの手にある飲み物が自分のものと勘違いしたシャルルがそれを取ろうとする。
しかし、それをすっと避けてアルザックは私に話しかける。

「エルデ原産の葡萄のシャンパンだ。…ドレスはすまない…今度新しいものを送ろう。シャルル、ノア謝れ」

「…そのドレス、インディゴ王国の希少価値の高い布じゃない…?まずいよ」

ガルデ、アルザックに責められ、顔が青くなる2人。
流石にまずいと思ったのか小さな声で申し訳ございませんと呟いた。
それよりもこのドレスがそんな希少なもので作られていたことに驚いた。
兄よ、大丈夫なのか。

「ドレスがこうなってしまったことですし、わたくしは失礼いたしますわ」

そう言って退散しようとするとアルザックが声をかけて来た。

「シャルルがすまなかった、送っていくぞ」

差し伸べられた手に手を重ね、後ろを振り返りシャルルに笑いかける。
さぞ屈辱的だろう。

隣でガルデがニヤニヤしているのがムカつくのが、そのまま会場の外に出た。



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