女であり男でもある私は復讐をしていきます

わたぱち

8話 お茶会の後に


その後先生がクラスに登場し、簡単な説明やこれからあるテストのことについて話していた。

今はそれも終わり親睦会を兼ねたお茶会が始まっている。
学園に備え付けられている庭園で行われるお茶会はとてもきらびやかなものだった。
薔薇が美しく咲いている中で紅茶を飲むのは気持ちが和む。
しかし、そんな楽しい時間もすぐに無くなった。
次々に色々な人が話しかけてくるのだ。
それは両手で数えても足りないほどに。
せっかくの薔薇を楽しんでいたのに。と思ったが、そんなことは顔に出さず笑顔で受け応える。

しかし、本当に疲れた。
知っている人にも一から挨拶をしなければいけないし、異常に男子生徒は長話をし、やけに手や肩などに触れてくるのでストレスが溜まり表情筋が引きつりそうだ。

大方挨拶はしたのでゆっくりと紅茶を楽しんでいると、また声がかかった。

「リリアーナ嬢ですよね、噂よりずっとお美しい。アトレーテ・スティーアです。これからどうぞよろしくお願いします」

淡い芝色の瞳と同じ色のの男性にしては長い髪を後ろに束ねて優雅に笑うクラスメート。
そこらの生徒とは育ちが違うと一目でわかるその仕草。

たしか、ディルクの出身地であるスティーア帝国の王家の長男だったと思う。

まあ、シトラルの頃は数回しか話した事なかったからよく知らないが。

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたしますわ、アトレーテ殿下」

「殿下とは他人行儀な、アトレーテでいいですよ」

「では、アトレーテ様と呼ばせていただきますね」

淑女らしく笑うと、彼も微笑み返してくる。
ただ、その笑顔がどうも嘘っぽい。
私と同類な気がした。
上辺では優しげで親切だがこの人は敵に回すとこれ以上にないくらい厄介な人だ。

さすがは帝国の王家。アルザックと違いすぎる。

「では、私もリリアと呼ばせていただきしましょう」


面白そうだったので少し雑談をしていると、王族という身分と美しい顔あってか女子生徒に持っていかれてしまった。

また1人になったので紅茶を楽しんでいると、ある人物が目に入った。

ガルデだ。

あの顔に高い身分だからさぞかし慕われるだろうと思っていたがなぜか1人だった。
顔色も先ほどより悪く見える。
気になったので、そちらに足を運んだ。

「ガルデ様。顔色が優れていないようですか大丈夫でしょうか?」

バッとこっちを見るとまた目を見開いてすぐにそらす。
流行ってるのか、お前の中で。

「リリアーナ嬢でしたか。心配はいりませんよ」

割と明るく答えられたが、近くで見ると目の下にはクマが広がっていて見ていて痛々しい。

「そうですか、…少し失礼いたします。ご無礼をお許しください」

そう言って彼のおでこに右手で触れる。
赤茶色の髪が目にかかるのかイエローサファイアの瞳が細められた。
嫌がらずされるがままにされているのでそれを了承と受け取り、手から魔力を移していくイメージで手に力を込める。

女子からの目線に嫉妬が混じり始めたが、気にせずガルデの体調不良を治した。

「…終わりました、違和感などはございませんか?」

魔法はかけたのでそっと手を離すと、瞑っていた目が開いた。

「はい、ありがとうございます。不思議なくらいスッキリしましたよ、素晴らしい魔法ですね」

ガルデは先ほどとは打って変わって、穏やかに笑ってそういった。

「お褒めに預かり光栄ですわ。それと、何か溜め込んでいらっしゃるなら私でよければいつかお話しください」

こちらも相応の笑みを返し、その場を去った。
軽く、魅了魔法を発動させながら。
ガルデが私の言葉に驚き、こちらを引きとめようとしているのを横目で確認しながら足早にお茶会から抜け出した。



そのまま学園の周りを優雅に見えるよう心がけながら歩いている。
暇なので気に入っていた場所や思い出深い場所を歩き回っていた。
現在使われていない小さな空き教室に向かおうとしている時、迫力のある怒鳴り声が耳に入った。
壁に隠れてからそっと声の方を見る。

どうやら新入生の男女がもめているようだった。

言い争いというよりも男子生徒が女子生徒を一方的に怒鳴りつけていると言った感じだった。
周りの生徒は迷惑そうに見ているが何も言わないところからおそらく男子生徒の身分が高いのだろう。

「ただの男爵令嬢の分際で俺に恥をかかせるのか!?」

あ。
そう言う新入生がある人物と重なった。
アルザックだ。馬鹿王子に似ている。

このようなことがあったら割り込むシトラルの名残か、あの子を自身と重ねたためかわからないが、私は目を瞑る。

「平民出の母親同等、立場もわきまえない馬鹿な女だな!」

そして、その庭園に立つとまさに男子生徒が手を挙げ、すすり泣く女子生徒を叩こうとしていた。
すぐさま間に入り、その手を受け止める。

ライルとなって。

「これまでの経緯は存じ上げませんが、このように女性に手をあげるのはいいとは言えませんよ」


女子生徒と男子生徒の間に立ち、冷たく言い放った。
他を圧倒する美しい容姿と威厳のある低い声が想像以上の迫力だったと思う。
突然入り込んできた私に彼は憎々しげにこちらを見ていて、女子生徒は涙を流しながらこちらを見上げている。
冷たい笑みを浮かべていると男子生徒は言った。

「この俺が誰かわかって言っているのか」

「知りません」

笑みを浮かべながらそう言うと、勝ち誇ったように笑いながら彼は言ってのけた。
アルザックの様だ。

「俺はリドルーガ侯爵家長男、タンペート・リドルーガだ!お前とは格が違うんだ!分かったらとっとと許しを請うんだな!!」

確かにエルデ王国ではリドルーガ侯爵家は高位貴族で、かなりの名誉と権力を持っていた。
だが、いまの私、いや俺の前ではそんなことは心底どうでもいい。

「格の違い…な」

「そうだ!早く俺に」

彼がそう言い終わるのを待たず、俺は口を開いた。

「侯爵家子息の分際でか、笑わせてくれる」

冷たく言い放つ。
少しあたりを見ると、周りの人がみんなこちらの様子を伺っているのが分かった。

「ああ?それがどう言う意味かわかっているのだろうな!?」

「それはそのまま貴様に返そう」

それから続いた言葉に、誰もが驚いただろう。
現に、後ろの女子生徒も目を見開いている。

「私はアイラライト公爵家、ライル・アイラライトだ。…格の違いとはこう言うものだ」

そう言うと、タンペートは目を見開いてこちらを見てくる。
さっきの勢いはどこへ行ったのか。

アイラライト公爵家は大国であるインディゴ王国の中でも群を抜いて力を持っている。
その子息である俺にエルデの侯爵家ごときが勝てるわけがなかった。

「今回は見逃してやるが、これからは口の聞き方に気をつけろ」

底冷えする声を見下しながら言い、クルリと後ろを向いた。

「大丈夫ですか?怖い思いをしましたね」

先程とは打って変わって甘い声を出した。

タンペートとの言い合いで怖いイメージを持たれてしまったかもしれないので、なるべく優しく笑うことを心がけながら。

涙で濡れている彼女の顔は驚いている。

「涙を流している姿も美しいですが、貴方には笑顔が似合いますよ」

少し眉を曲げて笑いながらハンカチで涙を拭うと、驚いていた顔はボッと赤くなり真っ直ぐこちらを見ていた目も逸らされてしまった。

「ありがとうございます…ライル様」

「いいえ、困っている女性がいたら助けるのは当然の事ですよ。手をあげるなんてもってのほかです。では、」

よし、かっこよく決まった。
心のなかでガッツポーズをしながら中庭から去って行った。

まさか、この事をテトラにあれほどからかわれるなんて思いもせずに。

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