青い記憶

【第5話】まだ知らない

それから青と私。2人の習慣は、毎日体育館の裏で昔の私と話す。というものだった。
2人のと言っても私と私が話している時青は、フラフラとどこかを歩いているだけだけど。


勉強のこと、昨日見たテレビのこと、今日見た夢の話。
いじめのことに関係するような話題を避けながら私たちは短い時間を共にした。

私としては不思議な感覚だったけど、笑って話してくれるのは嬉しかった。
私は笑った記憶なんて無かったから。

「ねぇお姉さん」
「ん?なぁに?」
「いつも一緒に来ている男の子って彼氏さん?」

えーと…?
「いやいや!違うって!」
少し動揺した。
「なんでー?あんな格好いいのに」

青の優しい笑顔が脳にチラつく。
いや違う。
あれは営業スマイルだ。

「美男美女カップルだと思うのにな~」
ちょっと残念そうに。でも何かに憧れるように少女は言った。
美女って。私はあなたなのに。

「お姉さん。誰かにとられる前にいかないとダメだよ!」
「やめてよ!そういうのじゃないんだから!」
確かにカッコいいけど…。

「そういう桃菜ちゃんはどうなの!?」

言ってからしまったと思った。
避けてきた人間関係についての話題に触れてしまった。

少女は寂しげに笑った。
しかし、すぐ明るい笑顔になった。

「片思い…なんですけど」
好きな人がいると。少女は言った。

私は驚いて目を見開いていた。
私の知らない私の気持ちだった。

あのね。と少女は私の目をみた。
「お姉さんのおかげだよ」
「え?」
「だってお姉さん。あの男の子がくるとすぐ髪型気にするんだもん」
「え~!?」
「そういうのが好きってことなのかな~って!」
「うそ~…」

「それにね。お姉さんと話してたら前向きになれたの。」
「前向き…?」
「うん!」
これも私の知らない私だった。

「いつも楽しい時間をありがとう!」

どういたしまして。とは言えなかった。
また明日ね。と去る少女の後ろ姿をただ、眺めていた。

「ねぇ、青」
「はい。どうかしましたか?」
「私ね。なんで自分の記憶の中の世界に来ちゃったか考えてたの」

いたずらっぽく青が笑う。
「それで、答えは出ましたか?」

「わかんないけどね。でも、少し元気になれた。」
「元気…に?」
「うん。私、今の自分はダメだって思ってたの。辛い思い出ばっかりで。だけどね、昔の私の笑顔を見て、そうでもなかったのかなーって思い始めた。だから、ここはそういう所を見直す場所なのかなーって」

青は少し微笑み、そして寂しそうな顔になった。

「昔の桃菜さんの今の笑顔があるのは貴女のおかげですよ」
「え…?」

「そして今の貴女のその考えは、まだ本当の昔の貴女を見ていないから生まれたんです」


次の日、体育館の裏には、
昔の私と4人の女子生徒と時計が転がっていた。

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