ホワイトデー特別読み切り企画。今回は2篇お届け!!!!!

織稚影願

スイートマジック~甘い恋の模様~

プロローグ・コンラン
やっばい!
やばいやばいやばい!
今………かなで君に何された!?
もう何も思い出せないような……いや、覚えてるけど………。
それでも………私が溶けそうだよー………。

第一章・ミツケタ
時はだいぶ遡る。
そう、それは、1月の初め頃。
私の学校では7日から学校が始まる。
これは、まぁ、学校の伝統のようなもので、その分多めに勉強できるから、一石二鳥だ!と言っているらしい。頭がおかしいのだろう。うん。
だからこそ、今私が学校にいるのもおかしくないとも言える。
………ごめんなさい嘘です。私は赤点をとって補習くらいました、今日は1月5日です。
まぁ、それでも、結構の人が学校に来ているのだから、早めに学校を始めても意味が無いし、所詮勉強が出来ない人ばかりなのだろう。つまり私だけが馬鹿なわけじゃない。うん。そう思いたい。
心愛ここあー、あんたも補習ー?」
「あんたもってことは、舞尼まにちゃんも?」
舞尼ちゃんは私の友達で、まぁ、頭が悪いという点では仲間とも言える。
ちなみに私の名前は吉野よしの 心愛で、2年A組にいる。38席だ。
「やっぱむずいよね、期末ー。何点だった?」
「数学が18点………。」
「うわっ、やばいじゃん。それやばすぎ。もっと勉強しなよー。」
「舞尼ちゃんが言う!?」
うちの学校は赤点が25点以下で、進学校というわけでもなくあまり賢い訳では無いような学校だ。
つまり、赤点をとるとは余程らしい。うん、私はその余程に入るのよ。
「私英語5点だもんねー。数学は23だし!」
「赤点ってことには変わりない!てか英語5点のがやばいじゃん!私それだけだかんね!?」
どうやったら5点なんて取れるのだろうか………。
そんな雑談をしていると、教室の扉が開いた。
「よぉーし、授業始めんぞー。」
数学の田辺の合図によって、補習授業が始まった。

「──えー、だからこの四乗根の中身は八乗となるから、この三は二個出ることになって………」
キーンコーンカーンコーン
田辺の説明がいいところ、という時に、チャイムが鳴った。
「あー、もうこんな時間か。んじゃ、十分休憩な。十分後再開するぞー。」
そして休み時間が始まる。

さて、1月5日の近くでやるイベント事と言えば何があるだろうか。
成人式、節分、建国記念の日……いやいや、そんなものではないだろう。
新年の御礼参り……でもない。
約一ヶ月後。女子の中では一年の中で最大のイベント。
そう。バレンタインデーだ。
ともなれば。比較的女子の多いこの高校では、既にバレンタインのお菓子を何作るか、の話で盛り上がっている。
もちろん、私や舞尼もその一人だ。
「バレンタイン何作るー?やっぱガトーショコラ?」
「あー、それもいいけどさー、生チョコとかどう?」
なーんて、他愛もない話で盛り上がったりもする。
正直にいえば、私はお菓子を作るのが苦手だ。でも、バレンタインでは何かを作らなければ、それは随分と下位の方に押しやられる。
下手をすれば、食べられるのが約一ヶ月後、ということもあるそうだ。
だから、この学校の女子は必ず手作りで持ってくる。
私も頑張る予定だ。
その日は、数学の補習と、休み時間のバレンタインの他愛もない話で過ぎていった。

補習が終わり、帰ろうとしたところ。
ふとグラウントを見ると、そこには部活をするサッカー部がいた。
正月シーズンも終わっていないのに、もう練習を始めるなんてすごいな。
あれ?正月シーズンって、本格的に終わるのは二月八日だっけ。じゃあ普通なのか。
そんな風に思い、練習を見ていると、その中に一人、気になる人がいた。
サッカー部エース、という訳でも、特にこれといった特徴もなく、イケメンとまではいかないが。
それでも、私はかっこいいと思う。そんな男の子がいた。
宮田奏みやたかなで君だ。
その一生懸命頑張る姿は、すごく、凄くかっこいい。
正直に言うと、私は彼が好きだ。ほかの人には、見る目がないと言われるが、そんな事どうでもいい。私が好きならばそれでいいのだ。
私はバレンタインに絶対なにか送ろう、そう決めていた。
その後、私はすぐに家に帰り、何を作るかの思案をしていた。

部屋でずっと、レシピ本などをみて、何を作るか決めかねていた。
切ない気持ちも一緒に重ねて、チョコレートミルフィーユ?
それとも、酸味のあるいちごなども積み上げたチョコタルト?
もしくは、苦味も入れたビターチョコレートケーキ?
迷った。
ものすごく、迷った。
そりゃ、すべて美味しいには美味しい。
でも、そんなの、ありきたり過ぎてつまんない。
どうしよう。まだ何も決まっていなかった。
あと一ヶ月にまで迫っているのに、まだ私は何も出来ない。
正直、バレンタインに何も渡せないような気もしてきた。
それても、諦めるのは嫌だったから、何かを作ろう、そんな気持ちでいっぱいだった。
夜遅くまで考え、寝たのは午前二時を過ぎてからだった。
結局、何を作るかは、まだ決まっていなかった。

第二章・ジュッコウ
次の日の朝、この日は数学の補習もなく、一日ゆっくりとした休みがあった。
とは言っても、私はどのお菓子を作るのかを決めるので精一杯で、あまり休むことも出来なさそうだが。
シンプルにチョコレートクッキー。
ふわふわのチョコシフォンケーキ。
冷たく甘いチョコレートアイス。
たしかに色々な案は浮かんだ。でも、ありきたりだったり、季節にあってなかったりして、決めることは出来なかった。
マフィン?いやいや、マカロン?もしかしたら、カヌレとかでも?
そんなありきたりなものしか浮かばない私は、自分が嫌になってきた。
奏君には、特別なものを送りたい。
そのためには、私しか作らないようなものを作りたい!
まぁ、何も浮かばないわけですけども。
結局その後、お昼ご飯の呼びかけがあるまで、ずっと考えていたが、一つも決まらなかった。

「んー…んぐんぐ……んっ、お母さんこれ美味しいねー。」
「でしょぉ、それ、お隣さんからお野菜もらっちゃってねぇ。それで作ったのよぉ。」
なるほど、美味しいものを使えば美味しくなるのか。
いやいや、それは大前提だと思うけど……
ただ、自然なもの、新鮮なものの方が美味しくて、それでも、美味しいものだけを組み合わせたのも違う。
こういうのなんて言うんだっけ?
と思っていたら、お母さんが答えを言ってくれた。
「まぁ、味が喧嘩しないように、市販の普通のお醤油しょうゆも使ったんだけどねー。」
そうそう、味が喧嘩する、だ。
それも注意してやらないと………。
私は美味しいと言い続けながら、お皿を空っぽにした。
するとお母さんは、美味しいと言ってくれたのが嬉しかったのか、おかわりを注ごうか?と言ってきた。
「うん、お願い」
私はそうお願いし、注いでもらおうとした。
しかしお母さんが持ち出したのは、フライパンでも、小さな鍋でもなく。
「………どんだけ作ったの?」
大きな鍋だった。
シチューとか作るようの。
その中には、今日の晩御飯の 美味しい美味しい筑前煮だった。作りすぎでしょ、流石に。
まぁ、そんなことはスルーして、私は皿の中のものをさらえて、ごちそうさまを言った。
そして、私は部屋に戻った。

私は机に座り、ノートとにらめっこをしていた。
何を作るかをまとめたリストである。
シフォンだの、ケーキだの、ミルフィーユだのと書いてある。
しかし、どれもこれもぱっとしない。
と言うか、そもそも、甘いのは好きなのだろうか。
………明日聞こう。そう思った私だった。
そうして、また一時間近く考えてから、私は眠りに入った。
結局、決まりはしなかった。

「おはよー!」
1月7日、今日は始業式の日だった。
もちろん、二日前に会っている人もいるので、誰にでも「久しぶりだねー」とか、「あけおめー!」とか言ったりはしない。当たり前だけど。
ただ、私は、その二日前に会った(見た)けど、挨拶をしていない人がいたので、その子にはしに行った。
そう、それは、奏君である。
同じクラスなので、すぐに会えるし、挨拶も気軽にできる。
「奏くーん。あけおめ!ことよろ!久しぶりだねー!」
などど私は、明るく挨拶をしに行った。
しかし、奏くんはまるで聞こえていなかったかのように──イヤホンをしていたから本当に聞こえてなかったのかもしれない──そっぽを向いて、ずっと静かにしていた。
もしかして、無視された?
そんな考えがふと頭をぎる。違うかもなんて考えていない。考えれなかった。
それがわからずに、私はずっと困惑していた。
すると、いきなり奏くんが振り向きこっちをじっと見てきた。
え、なに!?あ、もしかして邪魔かな……?
しかし、そうでもないらしい。
何故なら、振り向いた時に私の姿を確認して、驚いた表情を見せたからだ。
───気づいてなかったんだ。
彼は驚いた表情のままこちらを見つめてきて、しばらくして、イヤホンを外してから言った。
「………なに?なんか用だった?」
「え、あっ。えっと……あ、あけおめ、ことよろ。久しぶりだねって……その……。」
思わず言いよどんでしまった。なんというか……迫力がすごい。
しかし彼は、あきれるでも、怒るでもなく、こちらをじっと見つめ、ついには、ぷっ、と吹き出してしまった。
何かが彼にとってツボだったんだろう。
彼はそのまま笑い飛ばし、腹を抱えて苦しそうにしていた。
「あはははは!なんだよー、わざわざそんなことを言うためにこっち来たの?しかも、反応されなくてもずっと待ってたんだ?」
何に笑っているのか、よくわかっていないが、それでも。
無視されていたわけじゃなくてよかった、と、頭の中で喜んでいる私もいた。
「っはぁー、ごめんね、ずっと音楽聴いててさ。気づかなかったよ。えっと、あけおめ、ことよろ。ほんと久しぶり……って、2週間ぐらいじゃん。」
彼はそう言ってまた笑い飛ばした。
私は、そんな彼が落ち着く時間をあたえずに、さっさと本題へ入ることにした。
「──えっとさ、奏くん。奏くんって甘いものとかって大丈夫?」
まぁ、普通に聞くと、なんのことかバレかねないが、この際仕方が無い。
すると彼は、きょとんとした顔で、こちらを見て答えた。
「大丈夫だよ。甘いものは好きかな。なんで?」
「あ、いや、その………えっと……」
なぜ、と聞かれることを予想していなかったため、また言い淀んでしまった。
すると私は、何を血迷ったのか、変なことを言った。
「その、今度さ。うちに来て、お菓子作りとか……して見ないかな?って思って………ど、どう?」
今思えばなぜこんなことを言ったのかはよく分からないが、しかし、バレンタインとそのまま言うわけにはいかない。それよりはましだろう。
すると、彼からは快い返事が返ってきた。
「いいの!?いくいく!わー、楽しみだなー。」
私は、クラスのみんながこの時、ニヤニヤと笑っているように見えて仕方がなかった。
いや、実際ニヤニヤしているんだけど。

「心愛ー、あれなにー?なんだあんな事言ったの?」
舞尼ちゃんがニヤニヤしながら聞いてきた。
「んー、分かんない。思わず言っちゃった。」
「えー?ほんとにー?まぁ、そっか、甘いもの好きじゃなかったら、バレン──」
「──それ以上言っちゃダメだよ。」
「……うん。でも、作れないもんね、それだと。甘いもの好きでよかったねー。そのあとの理由が分かんないけど。」
「……だからぁ、私もわかんないんだって。誤魔化そうとして、なんでかあんなこと言っちゃったの。」
本当は、誘うつもりはなかったのだが……母親に言って、やるしかないか。
「そー?……んー、でもさ、別に作るのはいいんだけど……」
舞尼ちゃんは何故かはにかみながら、言葉を続けた。
「二人っきりで?」
………あ。
「え、そそそそそんなぁ!それは無理だよ!だだ、だって、そんな……」
「でもさぁ、あの流れだと普通ふたりだよね。女子多いのもあれだし、どうすんの?私と、誰か男連れてく?」
確かに、それだとバランスが取れてて気まずい空気ではないだろう。しかし……男友達が可哀想かわいそうというか……。それに、ふたりきりだと思ってた、と言われると、なんとも言い難い気持ちになってしまう。
すると、不意に横から、聞きなれた男の声が聞こえた。
「──吉野さん、他に誰が来るの?」
噂をすればなんとやらだ。
それは、奏くんの声だった。
そしてこの質問内容は……。
よし、巻き込もう。
「えっとね、ここにいる舞尼ちゃんと、あと一人男子誘おうかなって思ってる。」
「男子も?」
「うん。そうじゃないと奏くん、気まずいでしょ?」
男ひとりで女子の中に、はおそらくきついものがあると思う。
「あー、そっか。おけ、分かった。もうひとりの男子って、決まってるの?」
しまった。言ったはいいものの、一切決めていなかった。
すると、奏くんがこんな提案をしてきた。
「もし決まってなかったら、僕が誰か誘ってみようか?初対面で気まずいかもだけど、男子ひとりよりはマシかなって思うけど………」
それは願ってもないことだ。
「うん、お願いできる?」
「いいよ。時間は、次の日曜でいい?」
「うん。住所はメール送っとくね。ありがとう、奏くん。」
やっぱり奏くんは優しいなぁ……。
奏くんは、そのまま自分の席へ戻っていった。
「──ちょっと、巻き込まないでよ。いきなりでびっくりしたじゃない。」
「ま、まぁまぁ、舞尼ちゃん。ちょうど、行こうか? って言ってくれてたんだしいいじゃん。」
「まぁ、そうだけどさ。それで、何作るの?」
「んー、クッキーと、マドレーヌ作ろうかなって。作りやすいし。」
咄嗟とっさに決めたものだけど、まぁまぁ、いい選択ではないかと思う。
舞尼ちゃんも、賛成という顔でうなずいた。

日曜日、お菓子作り当日。
材料はあらかじめ多量に買っておいたので、余分に作ることも可能だ。
万が一足りない、なんてことがないようにはしておいた。
ピンポーン。
と、チャイムがなったので、玄関へ行き、扉を開けた。
「やぁ、こんにちは。今日はよろしくね。」
それは、奏くんと、もうひとり男の子だった。
いや、それだけだと思っていたのだが、そのうしろに、舞尼ちゃんの姿も見えた。
ちょうど、さっき来たみたいだ。
「うん、こっちこそよろしくね。どうぞ、上がって上がって!」
三人を家に上げ、私たちは、キッチンへと向かった。

「チス、奏くんに誘われてきました、城谷 健登しろや けんとっす。自分、お菓子作りとか好きなんで、呼んでもらってありがたいっす。」
4人目の、奏くんが連れてきた男子の自己紹介も終わり、私たち女子も、健登くんに自己紹介をした。
そして、簡単に作り方を言って、製菓が始まった。

一時間後。
通常なら出来ているはずなのだが……。
「ぁぁあ!何やってんの健登くん!こぼしちゃダメだよ!」
「奏くーん、それお砂糖じゃなくて塩じゃない?」
「あ、ほんとだ、やっべ。」
「奏くん、何やってんすかー、もー。」
「いや、健登くん、あなたも人のこと言えないから!ちゃんと手を見てやって!」
健登くんは、お菓子作りが好きなのではなかったのだろうか。
初心者レベルで下手くそだった。
「もう混ぜ終わったんで、形も決めたんで、焼いていいっすか?」
「え、あ、うん。焼き方わかる?」
「大丈夫っす。ちゃんと焼けますよ!」
ど、初心者みたいな人の言葉を信じた私が悪かった。
ちょうどみんなのが形を取り終わったので、一緒に焼いてもらうことにしたのだが。

「な………に、こ……れ………」
そこにあるのは、黒い物体。
………焦げていた。
と言うより、消し炭になっていた。
「いやぁ、なんでっすかねー、普通に焼いたのに。」
「え、え、え、何分にした?何Wワット?」
「え、分かんなかったんで、12000W?で、10分焼きました。」
12000。普通オーブンはそんなに出せないのだが、彼はチートでも使ったのだろうか。
と言うか、それはオーブン壊れるし、一瞬で焦げると思うけど……。
「なんでそんな………どうしよう、美味しいの食べてもらいたかったのに……」
思わず泣きそうになってしまった。
しかし、奏くんは、ニッコリと微笑んで、言った。
「じゃあさ。吉野さん、もうすぐバレンタインでしょ?だから、バレンタインで何か作ってよ。なんでもいいからさ、美味しいの。」
そんなことを、奏くんは提案してきた。
もちろん最初から作るつもりだったが、しかしいい機会だ。
「──分かった、作るよ。作る。絶対に美味しいの作ってみせるよ!」
「うん、ありがとう。別に特殊なのじゃなくていいからさ。普通のチョコレートが食べたいな、、、、、、、、、、、、、、、。」
その言葉で、私は思った。
別に、ありきたりなのでもいいんだ。
そこに………愛が詰まっていれば。
私はその言葉に頷きを返し、そして決意した。
奏くんに、一生懸命作ってこよう、と。
そうして、その日のお菓子作りは終了した。

第三章・ケツダン
バレンタインまで、あと1週間を切ったとき。
私は……まだ何を作るか決まっていなかった。
色々なものを考えすぎて、逆に、『普通』というものが分からなくなったのである。
そして、私は何を作るか、だいたい絞ることにした。
候補としては、ガトーショコラ、生チョコ、トリュフ、抹茶チョコ、何かの形をかたどった、ただのミルクチョコ。
そうして、私の試作日記は始まった。

一日目、生チョコ。
作ろうとしたら、何故かどろどろになってしまった。
どうやって……作るのか忘れてました。
生チョコ、没。

二日目。トリュフを作った……けど、よく良く考えたら、お酒入ってる………。
結局、トリュフは、お父さんに食べてもらいました。

三日目、抹茶チョコ。抹茶の苦味が強すぎて、甘い抹茶チョコの作れなかった。
たぶん、抹茶を間違えたんだけど、それでも、苦すぎた。

四日目。候補になかったものを作った。
それは、チョコレートのパウンドケーキ。
普通に美味しく作れたので、第一案にしようか、と思っていた。
しかし、母親に「今から作ったこれじゃ、すぐしぼんじゃうわよ。他のも試してみたら?」と言われたので、形を象るチョコも作ってみた。
………簡単すぎたので没。と言うより、味が変わってなかったから、市販のでも変わらないんじゃないか、と思った。

五日目。ついに明後日がバレンタイン。
今日は、ガトーショコラを作った。
ものすごく美味しくできたので、パウンドケーキとガトーショコラのどちらにしようか迷ってしまった。

そして六日目。ついに前日。
私は、もう作るものを決めた。
ありきたりかもだけど、あまりないような新しい発想。
私は、いくつか作ったうち、その中で一番うまく出来たものをラッピングした。
これが……勝負のチョコレートである。

そしてついに当日。
学校中が、バレンタインという甘い空気に包まれているように感じた。
「おはよう舞尼ちゃん。」
「おはよう心愛。……どう?できた?」
舞尼ちゃんは、ずっとアドバイスをしてくれたりして、助けてくれた。
私は舞尼ちゃんに力強く頷き、ニッコリと微笑んだ。
「よし。じゃあ、頑張りな。応援してるよ。」
舞尼ちゃんはとっても優しい子だ。
だから……舞尼ちゃんにはとてもとても力強い返事を返し、そして、心の中でものすごく感謝をした。
ありがとう、舞尼ちゃん。

そして、ついに放課後。
私は、校舎裏で待っていた。
奏くんにそこに来るように伝えてある。
運命の時……そう、思えて仕方がなかった。
「吉野さん、来たよ。………できた?」
奏くんが来たみたいだ。
「うん。奏くん……」
私は、決意した。
今まで頑張ってきたことを。
今まで応援してもらったことを。
今まで想ってきたことを。
全部………吐き出す。

「──好きです!付き合ってください!」

私は、チョコレートが入った、お菓子の紙袋を差し出しながら、そう言った。
正直怖い。
振られるかも。受け取って貰えないかも。
でも、そんな不安は、次の言葉で吹っ飛んだ。
そしてその言葉によって、私の感情は、幸福で満たされた。

「──僕も……僕も吉野さんのことが好きです。こんな僕でよければ……お願いします。」

私は、泣きそうになった。
奏くんは、紙袋を受け取り、恥ずかしそうに微笑んだ。
「……か、奏くん……ありがとう。これからも……よろしくね。」
「うん。こちらこそ、よろしくね。」
そうして、私たちのお菓子作り日記は終わった。

エピローグ・カクシアジ
私たちは、ついに付き合うことが出来た。
まず、そのことを報告した相手は、舞尼ちゃんだ。
「おー!おめでとうー!良かったじゃん!いやー、めでたいねー!」
舞尼ちゃんは、心から嬉しそうに、一緒に喜んでくれた。
私はそれにつられて、泣きそうになりながらも、嬉しくなっていた。

そのあと、私たちは、付き合ったばかりだが、一緒に帰ることにした。
駅まで、とは言っても、その間だけでも幸せだと思う。
帰る途中、私たちは海に立ち寄った。
海を眺めながら、彼は聞いてきた。
「そう言えば、心愛ちゃん。何を作ったの?」
「んー……ナイショ。開けてみて?」
私に促されるまま、彼は紙袋を開けた。
その中身は。
「………パウンドケーキ?」
「うん。パウンドケーキにガトーショコラを載せた、、、、、、、、、、、、、、、、、、、んだ。」
「……へぇー。その発想はなかったな。」
ガトーショコラといえば、ココアパウダーを振るうのが多いが、そのココアパウダーの苦味などを利用して、私はパウンドケーキを甘めにしている。
一緒に食べれば、美味しく感じる、という目論見もくろみだ。
「ねぇ、食べてもいい?」
「うん。いいよ!」
そう言うと、彼は嬉しそうにケーキを取り出し、かぶりついた。
「──んー!美味しい!すごい美味しいよ!」
奏くんは、笑ってそう言ってくれた。
でも、多分彼は気づいていないだろうな。
パウンドケーキに隠された、隠し味を。
苦味とか、酸味とか、そういうのもたまにはいいけれど。
あまーい隠し味。
それは……奏くんに対する、恋心、、だ。
そして、そんなお菓子を作る私は。
言わば、『甘い魔法使い』のようなものだろう。
そうして、私たちは。
甘い恋にひたり、幸せな魔法にかけられましたとさ。

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