異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

化け物共、そして不明

 
「いやぁ、坊や強いなー。全然敵わんくてワイ、楽しいぃわ」
「全然本気じゃないくせに、よく言うよ」

 近づけば、小僧とモリアの会話が聴こえてくる。
 中腰程に落とし、矛先を下に向けて構えるモリアに対して小僧は中段の構え。
 互いに少しの間見合った後に、モリアが先に動いた。一歩、地面を蹴り中腰の高さを変えずに東へと迫る。
 そして槍の切先を彼の股下に入り込ませ、着地と同時に槍を下から上へと持ち上げる。
 モリアのその動きは中腰のままでも、力をあまり必要としないやり方だった。
 接近の際に重心を少しだけ前にしておく事で、着地と同時に身体を元の体制へと戻す。そうする事最小限の力で槍が持ち上げられる。
 しかし東はその狙いを読んでいたらしく、剣でその攻撃を押さえつける。
 そして半歩右足を前に進め、それを軸とし左から右へ身体を逆回転させ、左足による裏回し蹴りをモリアの側頭部目がけて振る。
 それを身を低くして避け、槍を引き寄せて東から数歩分距離を開ける。が、東は逃がさないとばかりに開いた距離を詰め、モリアの左腕の付け根を突く。
 その攻撃が彼に当たる寸前。反時計回りで槍を回し柄の部分を横から当て、そのままさらにその方向へ槍を捻り、今度はモリアが剣を上から押さえその軌道を変えた。
 攻撃が外された東は、左へ剣を走らせるがさらに身を引いたモリアにその攻撃は当たる事なく空を斬る事となった。

「本当に彼奴らは人間なのかと問いたくなる」

 何をどうしているのか詳細には分からん。時々見える奴らの動きとて、到底一般人がどうこうと解説出来るものではない。
 今の攻防も、二呼吸程の間に行われ再び距離を取って睨み合っている。

「......アレでもお互いに手を抜いている様です」
「はっ、化け物共め」

 分かっていても目の前の男達に対する素直な感想が、心の底から湧いて出てきた。

「まあ、良い。化け物同士、仲良く共倒れにでもなってくれる事を願うばかりだ」
「......貴方の願いは、アズマ・キリサキの死なのではなかったのですか?」
「そうは言うが、共倒れであれば必ず願いは叶う。それに彼奴は過って私を殺そうとしたのだ、その報いを願ってしまうのは仕方がない事ではないか?」
「......勝てませんよ。モリアでは。あの少年は強い」
「......自分の部下がそうなると考えているのなら、貴様は何故あの男を助けに行かん? 貴様が加勢すれば、小僧に勝ち目はなくなるはずだ」
「......お気になさらず。今言った事は忘れて、早く撤退する様に言って下さい。でないと......」
「サヘ──」

 話をはぐらかそうとしたタイミングだった。
 私を助けるためにか一人の騎士がウェンベルに攻撃を仕掛けようとし、しかし振り上げられていた剣が振り下ろされる事はなかった。
 襲おうとした彼は、ウェンベルによって首を切られてその場に崩れ落ちた。

「この様に私を攻撃してくる者が現れてしまいますので」

 そう嘆く彼は、いつの間にか抜いていた剣についた血を振り払う。
 やはり化け物同士、共倒れしてくれんものか......
 そんな儚い願いを抱きつつ、近場の騎士達に撤退するため私の周りにいるように命じる。
 こうでもしなくてはまた先の者と同じ考えを抱いて、突撃してくる輩が現れる可能性がある。
 それに部隊長である二人は死んではないが、目を覚ますのは当分先になる様子。
 副部隊長は小僧の仲間の女達の方へ救援に行ったが、やられたとの事。であるならば、へーネルの元へと向かう。今はへーネルが指揮権を所持している。
 とりあえず撤退の旨さえ伝えれば、後は彼奴が動くだろう。
 そう考え、へーネルが何処に居るのか辺りを見回す。
 しかし先程まで居た公判の席にも、その近くにも彼奴の姿が見当たらない。

「おい、へーネルは何処へ行った? 彼奴には決定権を譲渡させた。今は指令を出しているはずだ」
「......それが......へーネル様は............」
「歯切れの悪い事だ。死んだか?」
「いえ......っ、我々も途中から姿を見ておらず。生死不明の状態でして......」
「......そうか」

 護衛兼説明役でつけた騎士の中で、少し声の感じが若い男が戸惑いながらも話す。
 生死不明。逃げた可能性もあり、か。
 遺体が見つからないというのがその可能性を高めている。


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