異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

能力、そして黒ローブの男

 
「それにしてもあたしの合図、よく理解してくれたね」
「分かるよ。付き合い長いんだから」

 素っ気ない返しだが、それがいつもの彼女だから店主も気にしない。
 彼女の固有能力は『漏洩』。これは名の通り漏れ出させる能力なのだが、二つの用途を持っている。
 片方は半径四メートル内の指定対象の魔力を強制的に漏れ出させる。ただしその範囲内に自身がいなければならない。
 そしてもう一つが、片方と同じ条件で対象の秘密を無自覚に漏れ出させる。こちらは相手が秘密にしている事を無意識のうちにしゃべらせる能力。
 一見厄介極まりないのだが、これは秘密にしている事を話させるものなので、使い勝手が悪い。
 しかしこれは内に秘めていればいる程、そう意識していると出され易くされる。
 使い勝手が悪いといっても、誘導してしまえば簡単に言わせる事が可能なのだ。
 この能力もまたフェーネ同様、店主は便利だと思っている。
 しかしフェーネと違い少女を道具などとは考えていない。彼女とは長年のビジネスパートナーであり親友でもある。
 少女は奴隷だというのに、だ。

「そろそろこの国ともサヨナラするつもりだったし。この機に移ろうかな」

 もちろんさっきの坊やがいない国に。

「フェーネという奴隷は何処だ」

 そう彼女が考えていると不意に店の入り口の方から声がかかる。
 それに驚いて二人同時に振り返る。
 そこには黒のローブを羽織り、同じく黒のフードを深く被り顔を隠している者がいた。声からして男だろう。
 フードの間から口の右端から首の方へ向かった長い傷跡が唯一見える。
 お客.....なんて雰囲気じゃない、か。

「なんだいアンタ。勝手に店に入って来て、随分とぶ──」
「黙れ。オレの質問にのみ答えろ」

 目の前の男は身長こそ少女と変わらないが、明らかに敵意がある。下手をしたら殺されるかもしれない程だ。
 これは参った。素直に答えた方が身のためかねぇ?

「フェーネならついさっき来た男が連れて行ったよ」
「.....その男の名を言え」
「ええーっと....アズマ・キリサキだ」
「!ッチ!遅(おせ)ぇから捕まってんじゃねえかっ!クソがっ ︎絶対(ぜってぇ)文句言われるじゃねえか」

 彼は悪態を突いて憤慨している。
 逃げるしかない。恐らく貴族の回し者だろう。
 かなり動くのが遅かったけど、警戒していなかったのか?まあ、今はとりあえず逃げなきゃね。
 そう企てた丁度そのタイミング。

「ぐあっ ︎ ︎」

 唐突に腹部に痛みが走る。
 その部分を見ると、細長い棒のような物が刺さっている。そしてその周りを赤い染みが伝っている。
 その光景に戦慄していると視界に黒ローブの下側が見えたと思った瞬間、店主の視界は途絶えた。
 店主の頭が床へと転がる。
 距離を一瞬にして詰めた男によって首を刎ねられたのだ。



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