異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

交渉、そして一億円

 
 店主は、腕組みをしながら目を閉じて何かを考え始める。
 その時間が数分ほど流れ、彼女はゆっくりと目を開けて問うてきた。

「もし仮に公判に勝つためにあの娘を買うなら、あたしに何を寄越してくれるんだい?」

 そう言って彼女は親指でフェーネさんを指した。

「そうだな.....まず、フェーネさんをいくらで買ったかを知りたい」
「ダメだ。あの商品に価値を付けるのは、それを欲している坊や自身さ。交渉ってのは、如何に上手く持っていくかが大事とだけ覚えておきな」

 オークションやセリみたいに値段はつけるが、競い合う訳ではない。ようするに言い値。それに物を見る目。
 そして彼女が最後に言った「交渉」について。
 つまりリスクを負わされる彼女に、それを背負ってでも首を縦に振らせるような条件を出せっということだろう。
 そうなるとただ金を積むっていう最初の計画だけだと失敗しそうだな。
 だけど、どうすれば良い?リスクを背負ってでも手に入れたくなるような条件なんて.....

「アズマさん」

 頭を悩ませていると、落ち着いたニーナが小声で耳打ちしてきた。

「先程、店主さんが私を乗せる際に漏らしていたのですが....」

 そう前置きをして彼女はとあることを教えてくれた。

「なるほど。よく聴き逃さずに聞いてくれた」
「....こんな事で先程の失態の償いになるとは思ってません。でも!.....頑張ってください」
「....ああ」

 何かを言おうとしたが、彼女は止めた。

「話はまとまったかい?」
「おおよそは」

 まだしっかりと練れていないのだが、相手を待たせ過ぎるのもそれはそれで交渉に影響を与えそうなのであとは流れの中でどうにかするしかない。

「まずはこれがフェーネさん自体を買うための」

 そう前置きを述べながら宝物庫から一ドドンを取り出し、テーブルの上に置く。
 金額的には白金貨十枚、日本円だと百万くらい。しかし両替する際にベガとアンタレス王国の貨幣には約百分の一の差がある。
 なのでベガでは十万円で白金貨一枚になるが、アンタレス王国では千万円で白金貨一枚、十ドドンと両替される。
 なので白金貨一枚を両替して一ダイヤンとなった。つまり十億円を所持している。
 つまりこの国の人にとってはかなりの大金という訳だ。
 額が額だけに提示された店主はもちろん、フェーネさんや聞き耳を立てていた他の店員も驚愕している。
 まあ、俺もさっき両替して百分の一の差があるって知ったんだけど。

「こっちは彼女にこれ以上の価値を感じている」
「.....お、おったまげたー.....坊や、やっぱり良い所のボンボンかい?」
「ただの冒険者」
「本当かい?」

 彼女は苦笑しながら疑いの眼差しを向けてくる。

「さて、これくらいでは腹の足しにもならんだろう。次にだが....」

 少し間を置いて相手の様子を窺う。
 店主の方はすでに表情を戻している。さすがの切り替えの早さ。

「他国でこの店を開くつもりはないか?」
「.....他国、ね。ここで店を開くのがどれだけ大変か知ってるかい?そこら辺土地はあるくせに、物件は限られた数しかない。しかもそれらの物件をそれぞれを何人かの貴族が管理しているから、購入した後もその誰かの貴族に売上の三割が持っていかれる。そして驚いた事に畳むのにも総売上の半分必要なんだ!本当に商人には辛い決まりだよ」
「なるほど」

 捲し立てるように制度への文句を述べる。
 昔の年貢に近い制度なのだろうか?
 正直どれくらい必要なのか知りたいが、そんなこと訊けるはずない。
 やっぱり簡単に進んではくれないか。

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