異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
見分け、そして唇
モアちゃんを連れて娼館下のコロッセオへゲートで向かう。彼女の目さえ塞げば、偽装する必要もない。
そうして捕まえた連中たちの所へと連れてきた訳なのだが....
「クーラ兄(にぃ)!」
縄で拘束されている連中の前にきた瞬間、彼女は声を上げて一人の男の前へと駆け寄った。
その男は、薄い緑色の髪に黒に近い茶色の瞳、左の目の下には二センチくらいの傷痕。それが涙の様にも見える。
あの手強かった相手が、モアちゃんがずっと心配していたクーラさんだったようだ。
細く見えるが、あれだけの腕前だから筋肉はすごいことになっているのだろうな。
というか今さらだが彼に近づいて良いのだろうか?先ほどまであの女に魅了されていた訳だし。でも対策はしてあるし大丈夫だよな。
そんな危機感を覚えても少女はすでに、彼の手の届く範囲にいる。
「───っ!」
「?」
「!」
すると彼が、彼女の姿を見た途端に表情が変わった。
驚いた。もう『麻痺』の効果が切れかけているなんて。
彼らは捕まえた際に魔力を奪ってから『麻痺』を使って動けないようにしておいた。確かに多少の時間のズレはあるにしろ、これは早過ぎる。
ましてや彼と戦ったのは残り人数が半分くらいの頃だ。
それだというのに今この状況で彼だけが動けそうになっている。
モアちゃんが一気に危険になったため、急いで彼女に近づく。
「動くな」
モアちゃんをこちらへ抱き寄せ、クーラさんから距離を取らせる。
さらにいつでも『麻痺』を発動出来るよう構えておく。
「ふぅー......ふぅあぁー....」
「クーラ兄...」
「見ない方が良い」
唾液をダラリと垂らし、呼吸を荒くする彼の瞳には、怯える少女の姿が映っている。
それを見せないように彼女の目を覆う。
それにしても性欲ってここまで人を強暴にさせるんだな。従って、知り合いの少女ですら見境なく襲おうとする。
もし神様から状態異常を無効にする力をもらってなかったらと思うと、ゾッとする。
あの女に従ってキリたちを攻撃していたか、それとも襲っていたか。
どちらにしても最悪だ。
「彼はまだ正常じゃない。とりあえずまた動けなくしよう」
これ以上モアちゃんを不安にさせるのも可哀想なので『麻痺』を構えた右手を伸ばす。
そうの瞬間だった。
「はー、んっ!」
「っ ︎」
彼は口を大きく開け、一気に歯を下ろす。
すると少しの血飛沫が唇から噴き出る。
「ふぅーっ ︎んふうぅーっ ︎」
「えっ?何!何っ⁈クーラ兄、どうなったのっ!」
唇を噛みながらこちらを睨んでくる彼。その瞳には、俺に対する敵意が宿っているように見えた。
痛みで性欲を抑えつけたのか?
モアちゃんは男の上げる僅かな声で何かあったのだと察したが、目を塞がれているため見えず、それを剥がそうと暴れる。
「安心しろ。助ける側だ」
痛みで抑えているのならその痛みを麻痺させるのも治癒核で治すのも今はしない方が良い。
まずは意識を奪う方が良いだろう。
「んぐぅっ ︎」
強めに彼の鳩尾を殴る。そうすると短いうめき声を上げ、ぐったりと倒れる。
「クーラ兄!貴方、何したのっ ︎ねえ、何か言って!」
なおも少女は腕の中で騒ぎ暴れる。
さて、この子に見られる前に治してしまおう。そう思い、残りわずかの治癒核を使う。
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