異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
氷のオブジェ、そして配慮
ユキナたちを家へと送り、今度は娼館の地下へと続く階段。その最上部へと繋げる。ようはキリとあのロングソードの男とが戦っていた場所である。
そこに人がいないかはちゃんと確認しているのでゲートを開ける。
ここにゲートを繋げたのには二つ理由がある。
一つは、今しがた言ったようにゲートを他人に見られる訳にはいかないから。
もう一つは、先ほどニーナたちに説明した能力の実演前練習のためだ。
彼女らにはああ言ってが、まだ能力を完全に制御出来るようにはなっていない。なのでその練習を事前にしておこうと思ったのだ。
制限時間は二時間くらいか。それまでになるべく習得しなくてはならない。
まず、今出来る範囲を知っておこう。
宝物庫から水儒核を取り出し、魔力を流す。すると掌から水がドバッと湧き出る。
そこへ能力を使う。
操った水が下から勢いよく凍っていき、あっという間に氷柱が現れる。凍らせたこの氷柱に水を被せるようにし、さらにその水を凍らせれば長さと太さが増す。
また途中で水を覆わせる際に反らせれば曲げられる。
それを繰り返せば円を描くことだって───
「出来ません!」
目の前にあるのは、不恰好な氷の柱。形はギリシャ文字のオームを斜めにしたみたいな感じだ。
そんなオブジェを作り上げた訳だが、そうなった理由としては曲げるタイミングとかだろうか?
操作が難しく、少し少しでしか曲げられないので綺麗な弧を描くことが出来ないのだ。
だがまあ、これからしようとしていることに円は使わないので良いが、今後の課題ではある。
今回考えているのは、氷の道を村まで敷いて馬車を走らせようと考えている。
形はジェットコースターのように敷くつもりではいるが、魔力が保つかどうか。
それに大人数十人を乗せた馬車が乗るのだからかなり頑丈に、また脱線しないように太長に路を造らなくてはならない。
全快ならいざ知らず......
「やれるだけやってみるか」
ゲート分だけ残すとして、それ以外の魔力は全て道に使う。
『魔眼』に使っている魔力も解き、能力を使う。
「......やっぱり足りない、か」
造ってはみたが、村まで必要な距離の四、五分の一までしか保たなかった。
それにしてもこれ、魔力ないから溶かせないな。考えておくのを忘れてた。
まあ、後回しでも良いだろう。
そう決めて氷の道に背を向けて檻の部屋へと向かう。
しかしそれが行われたのは数十日後となったため、その間にそれを見かけた者たちによって「その不思議な氷の下で告白すると氷の精がその恋を実らせてくれる」や「謎の魔獣の能力だ!」などと色々噂が広まることになるのだった。
階段を降りてしばらく歩けば檻へと着いた。
「あ、あのお兄さんだっ!」
すると顔を見せた俺に気がついた一人の少女が声を上げて駆け寄ってきた。
それを引き金に他の人も集まってきた。その中に村長の老婆も当然いた。
「お早いお帰りで御座いますね。もう用事は宜しかったらのですか?」
「ああ、杞憂だったからな」
「左様で御座いますか」
「......」
「結局何があったの?」
どう切り出そうか迷っていると、少年がそう尋ねてくる。
「.....」
「さ、皆!帰りの支度をするわよ!」
「そうよ!さあ、早く!」
俺が言いあぐねていると老婆がチラリと後ろに控える女性たちに視線をやった。
すると二人は頷き、皆にそう呼びかける。それに対して文句や抗議を述べる子どもたちを無理矢理牢の方へと連れて行った。
「悪いな」
こちらの様子を察して老婆以外は席を外すように手を回してくれたようだ。
果たして聞こえないのかは分からないが、気持ちは大分楽だ。
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