異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

油断、そして出血

 
 アズマが落ちて行くの横目に女はこの場から早急に飛び去ろうと翼をはためかせた。
 その瞬間サナの横で動く影があった。
 彼女の隣からすでにキリはいなくなっている。故に、彼女のもう片方の隣にいるのはただ一人。

「ええいっ!」

 ニーナは勢いよく手の内にある物を投げた。
 その物体は彼女の全力投球で投げられ、空気を裂きながら女の元へと飛んでいく。

「っ ︎」

 アズマしか気にかけていなかった女はニーナの一撃に気づくのが完全に遅れ、回避の行動に移る前に解除されその攻撃を喰らってしまった。

「ぐっぶふぇっ ︎ ︎」

 解除された槍から強風が吹き、それに押され抗うことが出来ずに壁に打ちつけられた。
 その激痛に彼女は痙攣を起こしながら壁から剥がれ落ちて行く。
 しかし途中で保ち直し、再び跳び上がる。
 だが、先ほどまでのような速さではなくゆっくり飛翔している。それに加え、爪が伸びている方の腕を押さえているし、平衡感覚がままならないのか右へ左へとフラフラしている。
 本来であればニーナに追い討ちを頼みたい所だが、残念ながらそれは叶わない。
 私たちはこれから今こちらに向かって来ている男たちを助けなくてはならない。
 あの女のせいでアズマのことを悪人だと思っている人たちは少々面倒だけどなんとかなる。もちろんそちらも対処しなければいけないけど、それよりも先に飛び降りた人の方だ。
 先ほど飛び降りたのは三名。その内一人は私が、もう一人はキリが救出している。
 そして最後の一人は───

「誰かぁー!助けてくれーっ!」

 声のする方を見上げれば、その男はコロッセオの壁の上に猫のように四つん這いになって顔面蒼白で叫んでいた。
 なぜ彼があんな所にいるかと言うと、ニーナのせいというかお陰というか、とにかく彼女が関係している。
 先ほどのニーナの能力が解除された際の風の余波に運悪く巻き込まれ、壁際まで追いやられてしまったのだ。
 しかし女に向けられた集中形ではなかったのが幸いし、飛ばれる程度で壁に打ちつけられるまでには至らなかった。
 宙にいたとはいえ、余波だけで成人男性をあそこまで飛ばしたニーナの能力の強力さに呆れる皆であった。
 あの高さでは私たちが助け出すまでには時間がかかってしまう。
 そのためアズマに頼る方が早───

「東っ!」

 キリのそんな悲鳴じみた叫びが聞こえ、そちらへ視線を向ける。

「「 ︎」」

 サナとニーナはその先にある光景に驚愕した。
 アズマが血の池の上に横たわっているのだ。
 その光景を目にした私たちは急いでアズマの元へと駆け寄った。

「東!ねえ、東!」

 キリがアズマに呼びかける。
 ニーナがアズマの胸に耳を当て、サナがアズマの口に手をかざす。
 そして互いに顔を見合わせ、頷く。
 息はしているし心臓も動いている。つまり生きている。
 だとしたら地面に落ちた際に頭を打って気を失っている可能性が挙げられる。

「うっ.....んんー.....」

 そう考えていると、アズマからうめき声が上がる。
 そして次第に彼の瞼が重く上がった。

「「「東(アズマ)ッ ︎」」」

 彼がゆっくりと身体を起こそうとするのに手を貸して支えながら上半身だけ起こす。

「悪い。気、失ってた」

 彼は申し訳なさそうな顔で謝罪を述べる。
 しかしそんな彼の顔は白く、体調が悪そうだ。確かにこれだけ血を流してしまっては、体調を崩しても仕方がないだろう。
 彼女らはそう納得した。
 そして実際に東が気を失った理由は血を大量に流し過ぎたことが原因、ではない。
 彼が本当に気を失った理由は、魔力の使い過ぎである。
 コロッセオのほとんどに水を走らせつつ凍らし、さらにはお湯も凍らせての負傷。
 ゲートリングを外して、魔力の回復力が高い状態とはいえエルフの里で魔力を空にしたばかり。
 病み上がりである身体からさらに魔力を使えば、こうなるのは自明の理であった。
 ついでに彼女らは知らないが、彼は下に広がっている血の池とほぼ変わらないくらいの量の血をエルフの里にて流していた。
 そのため顔色が悪い原因が、それである。

「とりあえず、治癒しときなさいよ」

 サナはそう言うと東から先ほど受け取った治癒核を手渡す。

「ああ。悪いな」

 彼はやはり申し訳なさそうな表情でそれを受け取った。

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