異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
ダメ押し、そして爪
そんな彼女の元へ再び向かうアズマ。
しかしそんな様子の彼に対してサナもニーナもさほど焦りを感じていなかった。
「もしかしてさっきみたいに彼が抵抗すると考えているのかしら?」
そんな彼女らの心を見透かしたように女は述べる。
そのことに少しの驚きを感じながらも、言い当てられたことでさらに警戒を強める。
「ふふふ、なら残念だけどそれはないわ。今までもその坊やのように愛する人が居るからってアタシの誘いを断った者が居たわ。貴女達がさっきまで戦っていた男達の中にもそういう輩が居たのよ?」
彼女は再び悠然と笑う。
「でも無駄なの。アタシの能力でダメ押しすれば服従は絶対なんだから」
そう言って微笑みをさらに強める。
彼女の能力『魅了』は種族が持つ固有能力である。その能力により先ほど彼女が言ったような自身に抗っている男たちを問答無用で彼女の虜になる。
それは雄の本能に直接働きかける故幻術などよりもかけられたことに気がつき難く、また抗えない。
「彼はもうアタシの言いなり。貴女達の事なんてどうでも良くなっているの……あ、そうだわ。いい事思い付いた。せっかくだから貴女達の目の前で、彼がアタシで快楽に堕ちていく様を観せてあげる」
「「っ ︎」」
その突発的な提案に二人は驚き、そして怒りを露わにした。
「何、バカな事を!アズマがあなたなんかとそ、そういう事をするはずがないじゃない!」
「そうです!それにそんな悪趣味になんの意味があるんですかっ⁈」
二人は叫んだ。
本来であれば冷静を欠いてはいけない状況でだ。
しかしそれは仕方のないことでもあった。自分たちの好きな人が冗談であったとしてもそんな目に遭わされると言われれば怒る。
故に彼女らは失敗はしているが、間違えてはいないのだ。
「本当なら貴女達がそうなるはずだったのよ?アタシの遊びを邪魔してくれたんだし、当然の報いでしょ?」
「何よ、その理屈!そもそも私達が黙ってそんなのを観ていると思ってるの⁈」
「邪魔したいのならかかってらっしゃい。勝てると思うなら、ね」
「なら、そうさせてもらうぞ」
「「「っ ︎」」」
彼女が自信満々の表情を浮かべていたが、予期せぬ相手からの言葉にその表情が一瞬で崩れた。
「んがぁっ ︎」
その隙を突かれ、アズマによってボーノとは違い鼻から上を鷲掴みにされた。
彼女から小さくうめき声が漏れる。
「何故……アタシ、の魅了が………命令しないと動けないはずなの......に」
「黙れ」
「あがあぁっ!」
「よくも俺の仲間を変な連中に襲わせてくれたな」
アズマが低い声でさらに怒気を撒き散らしている。
「離せ!離せぇっ!!アタシの魅了は絶対なのよ!!貴方みたいな臭い男はアタシの下僕なんだか───」
「黙れと言ったんだ、淫魔(サキュバス)が!俺の仲間をこんな目に合わせた挙げ句、俺が快楽に堕ちる様を観せると言ったな?妄言も大概にしろっ」
「ぎぃがああぁぁあぁあぁあぁぁっ ︎」
アズマが言葉を続けるごとに力を増していっているようで、最後の方ではミシミシという音が微かに鳴る。
その痛みに女が絶叫を上げる。
それにしてもサキュバス?あれが?でもサキュバスって.....伝説上の存在のはずじゃあ....
そう二人は疑問に思いながらも、目の前で続く光景から目を離さないでいた。
「....ぁ........るな....」
「?」
「ふざ....けるなあーっ!」
「 ︎」
彼女が叫ぶの止めたかと思うと、次は怒気を含んだ叫びを上げて伸ばしているアズマの腕目がけて自身の左を払うようにして空を斬った。
否、空を斬ったのではなく、そうしたのだ。
「っ.....」
それは彼女の左手から垂れた、真っ赤な鮮血。
その血が伝う先はえらく長く伸びた鋭い爪だった。
短剣などよりは少々長く、およそ一尺──約三十センチ──弱ほど。
そんな爪を使って彼女はアズマの右腕を深く抉ったのだ。
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