異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
骨折、そして豪気
狂気に笑うボーノ相手にも、アズマは臆することなく述べる。
「何が可笑しいか知らんが、俺の質問には答えてから笑え」
そう怒気を抑えず彼に促す。
「くふふふふ。何を偉そうに命令しているんですか?貴方が私に指図出来ると思ったのが謎ですね。貴方では私に指図出来ないのですよ。その事を理解出来ますか?」
しかしボーノは悠然アズマの腕を払い退け、笑いながら告げる。
彼が何故そこまで大きく出れるのかサナには理解出来なかった。
これだけの恐怖を与えてくる相手を前に、何を根拠にそこまで強気にいられるのか。もしや何か秘策が残っているのか?
そうサナは思案する。
しかしそれはすでに彼女は目にしており、東にも現れているのだが、サナにはそれを見極められていなかった。
「良いか小僧。貴様では私には勝てない。その驚異的な身体能力やこんな馬鹿げた事を成せる能力が有ろうと、私の能力の方が上なのだ。その事を理解し、自分の過ちを噛み締めながら殺してやる」
彼はそう豪語する。
「.......まさかあんたがそこまで強気なのって、さっきの一撃───」
そう言いながらアズマが左腕を上げる。
肘を上に上げる感じで手はダラリと垂らしている。
「一撃で骨を折ったからとかじゃないよな?」
「おや、理解出来ていましたか。その通りですよ」
ボーノはアズマの問いに悠々とした態度で答える。
どうやら先ほどからアズマが自身の左腕を押さえていたのは、先ほど自分を助けた際に骨折してしまったようだ。
しかしそうなるとあの時の一撃は相当なものだったようだ。
アズマとキリとはよく模擬試合をする。二人とも体術だけでなく武器として木剣を使う時もある。
木剣は本物を使って練習する訳にはいかないからだが当然怪我くらいする。
叩かれ方次第では骨折などもするのだが、アズマはまずしない。なんなら木剣すら真っ正面から腕や脚で受けて攻めて来る。
本物だったらと思えるかもしれないが、実際本物でも同じようにして受け止めているからもはや呆れている。
そんなアズマが一撃で骨折した。
その事実には驚愕することだった。故にもしも先ほどの攻撃を私が受けていたらと考えると、背筋が凍る思いである。
「はぁー......そんなことで俺が屈服すると思ったのか?」
そう彼が言うと、上げていた左手を開いたり閉じたりとニーナを気絶させた時のボーノのようにする。
「くふふふ、痩せ我慢せずとも宜しいのですよ?折れた状態ではそのような仕草でも苦痛でしょう。さて、長々話していてはあの方に更に不満を抱かせてしまうので、そろそろ終わらせましょう」
「じゃあ、その前に一つ訊くが、あの方ってのは上にいるあの女か?」
「.......その通りですが、馴れ馴れしい言い方ですね」
「それだけ分かれば十分だな、っん!」
「んぐっ!な、何故⁈」
アズマが最後にそう告げるとボーノの鳩尾に向けて左ストレートで突いた。
その一撃は両腕を交差(クロス)させて辛うじて受け止めたが、それよりも彼は自身が折ったと思っていた腕からその一撃が放たれたことに驚愕しているようだ。
「たった一本骨を折ったからと言って、なぜ俺が屈服すると思った?」
アズマはそう言うと左腕を引いて、それと入れ替えるように右足で左から右へ裏回し蹴りを放つ。
「っ ︎」
それもギリギリの所で身を引いて避ける。
しかし回し蹴りはアズマの脚がちょうど彼の真っ正面に来るとピタリと止まり、ぐんっと下へと落ちた。
バギンッ!
勢いよく下された足で彼が張った氷が割れ、大小様々な大きさの氷が宙を舞う。
本来ならばその行為は不正解である。
なぜならこの氷は地面より少し上に張っているのだ。そんな氷を割ってしまえば、少なくとも割るために下ろした足はその場所で足を取られてしまうだろう。
恐らく東でも膝以上は沈む。
しかしそうなることはなかった。
「んがあぁっ ︎」
重心がほとんど向いていないはずの片足で、氷が一瞬の目隠しとなっていたボーノに詰め寄り先ほど同様顔面を鷲掴みにする。
しかも今度は左手で、だ。
「あががああぁぁぁぁああぁぁぁっ ︎何故!何故、折れた腕でここまでっ!」
「サナ」
「っ!」
ボーノが苦痛の叫びを上げている中、アズマは右手で宝物庫からある物を取り出してこちらを見ずに投げてきた。
それを慌てて受け取ると治癒核だった。
「魔力が保つ限りで良いから、皆の怪我を治してくれ。もちろんサナも」
「え.....ええ....」
「寒いと思うけどもう少しだけ待っててくれ。すぐに終わらせるから」
彼はさも当然とばかりに、簡素に告げる。
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