異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

迅速、そして痛恨のミス

 
「ふっ!」

 そんな彼らを無視してキリは振り切った体勢から剣の軌道を戻しながらボーノに斬りかかる。

「!」

 その攻撃にギリギリで反応出来たボーノは辛うじてその一撃を避ける。

「ぐぅっ ︎」

 否、避けれたと思ったが、彼女の切っ先はボーノの右小指を切断していた。
 その痛みに顔を顰め、キリから距離取────

「この、小娘がっ!」
「くっ ︎」

 るかと思いきや逆に距離を詰めて張り手を放ってきた。
 その攻撃を左腕で庇いつつ身を後ろへ飛ばし、威力を流した。
 なんて重い張り手なの⁈相当威力を殺せたはずなのに、少し脱臼させられた。
 そう思いながらも、体勢を整え追撃を狙う。
 ダ、ガンッ!
 先ほども聴こえた強い衝撃で何かが砕ける音が鳴った。

「っ ︎」

 その音が鳴り響いたかと思えば、瞬く間にボーノはキリへと迫っていた。
 彼はすでに、キリの間合い内に入り込んでいる。

「!───」
「ふん!」
「がはあぁっ ︎」
「キリッ!」

 そのことを理解したキリはすぐさま攻撃を放とうとしたが、ボーノはそんな彼女よりも先に渾身の左ストレートを放っていた。
 ボギ、ゴキッ、グチャアッ!
 そんな生々しい嫌な音が、キリから発せられた。
 その音と光景にサナが叫ぶ。

「があっ ︎」
「ぐへぇっ ︎」
「ごおぉっ ︎」

 ボーノの一撃を受けたキリは吹っ飛ばされ、その先でちょうどサナに迫ろうとしていた数人のうちの先頭の三人に打つかった。
 それでも彼女は止まらず、男たちもろとも吹っ飛ぶ。
 そんな彼女らが止まったのは、対峙していた場所から六メートルも離れた場所だった。

「ふん、先ほど腕なんぞ切り落とさずに私を殺していれば勝機が有ったかもしれませんのに。仲間に情が湧いた結果、このザマですか」

 そう彼はキリの方へと向かいながら吐き捨てるように述べる。
 しかしその当の本人は気絶している男たちの上で悶絶し、口からはドバドバと血を吐いている。
 聞いているのか、彼が近づいていることに気がついているのかすら分からない。恐らく、分かっていてもあれでは満足に動けないだろう。
 そんな彼女と妹の悲惨な姿、そして彼の吐き捨てるように述べられた言葉を聞いてサナは悔しがることしか出来なかった。
 自分があんなことを言わなければ、彼女は留(とど)まっていたかもしれない。
 こちらに近づいて来る足音が聴こえる。視界がボヤけ始め、彼女らの姿から目を逸らすために項垂れる。
 自分がもっと強ければ、不意打ちを受けずに片脚だけで動けたかもしれない。
 こちらに近づいて来る足音が増える。どこからか嗚咽がはっきりと聴こえる。
 自分に固有能力があれば、あの男に勝てたかもしれない。
 足音が止まり、髪を引っ張られる。

「こいつ泣いてるぜ」
「あんだけ強がってたのに、呆気なかったな」

 そうゲラゲラ笑う男たち。
 どうやら嗚咽を漏らしていたのは自分だったようだ。
 そうサナは理解した。

「やられた分はたぁーっぷりと、身体で返してもらうから覚悟しろよ?」

 そう髪を掴んでいる男が顔を近づけて下卑た笑みを浮かべて告げる。
 臭い.....
 彼の口臭に、敏感なサナの鼻が鼻水で上手く嗅げないにも関わらず嗅ぎ分けた。あるいは、ただサナがそうだと勝手に決めつけたのか。
 例えば、今彼らから逃れてもあの男がいる限り、自分に勝ち目はない。なら抵抗するだけ無駄なのではないか?
 そう悟っていたサナは彼らに抵抗する気すら湧かなかった。


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