異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します

りゅうや

後退、そして投擲

 
「っ!このおっ!」

 サナの無事を確認出来たニーナは、初老に向けて槍を投げる。
 濃度の少ない砂の圧縮を解き、その後ろから風を圧縮した槍を飛ばし解除する。
 圧縮された砂が解放され、その場に広がる。そこへ圧縮された風が解放され、広がった砂を初老の男目がけて吹く。
 しかし初老の男は最初から避ける気だったようで、その目潰し兼目隠しの攻撃は屈んで避けられた。

「ふっ!」

 だが、それを読んでいたニーナは、二十センチほどの槍を投擲していた。
 しかしそれが能力の射程に入る前に、初老の男は横へ飛ぶように回避した。
 今投げられた槍は地面の岩を即席で圧縮した物で範囲は直径四十センチ前後。
 その範囲を抜けるのは容易だ。
 故にニーナは周りの安全を確認しつつ後退する。
 彼女は後衛で仲間の援護がメインなので対処出来ないと判断したなら即、退かなくてはならない。
 ダッ、ガンッ!
 しかし後退し始め途端に何かが強い衝撃で壊れる音が響く。

「なっ ︎」

 その音が響いた時には三メートル以上離れていたはずの二人の距離が瞬く間に詰められていた。
 それも彼は獣のように姿勢を屈め、まるで四足獣の体勢のまま突っ込んで来ていた。
 姿勢が低く、動きが速いため詰められる前に攻撃へと転換することが出来なかった。

「っ、ぐふおぉっ ︎」

 そしてそのままタックルをかまされてしまった。
 その体勢のまま一メートルほど進んでから勢いよく地面に打ちつけられた。

「っん ︎」

 辛うじて受け身は取れたが、それでも身体を動かせはしない。

「では、これに───」
「妹から離れなさい!」

 馬乗りになって、渾身の一撃を放とうとしたタイミングでサナが右回し蹴りで男の頭を狙う。
 それにより放たれはしなかったものの、蹴りは空を切る結果となった。
 見えていないはずなのに、彼は避けたのだ。

「ふっ!」

 しかしサナは曲げていた左足をバネに跳び上がり、空中で身体を左へ捻り回転させる。
 そして左足が前に来る前に上げてから身体全体を前に倒すようにして回転かかと落としで追撃する。

「っん!良い蹴りですが、展開までに無駄がありますね」

 しかし彼はそれを難なく右腕だけで受け止めた。
 サナとしては完璧な動きから繰り出した渾身の一撃だった。
 そのことに対するショックと次の手を考えているその僅かな隙に、左足を右手に掴まれた。

「っ!ひゃっ ︎」
「んっ!少々、重たいです、ねっ!」

 そのまま前へグッと引っ張られ、踏ん張りの利かない右足では耐えれず重心を持っていかれ、バランスを崩してしまった。
 そのせいで変な声が小さく漏れる。
 そして男はそんなサナを腰を捻って自身の右後ろ目がけて投げた。
 いくらバランスを崩していようとサナ一人を片手で投げれるその怪力。
 それをこの歳の男が可能にしたということは、体験者であるサナですら信じられない出来ごとだった。
 そんなサナの投げられた先には、未だ戦闘中のキリの背があった。

「!っ ︎サナっ ︎」

 何かが飛来して来るのをいち早く感じ取ったキリがそちらへ視線を向ければ、飛んで来ていたものに思わず驚きの声を上げる。
 避けるか切ろうと考えていたキリは、それらを止めてサナを受け止めることにした。
 ダンッと上半身に走った衝撃に耐え足と腰で踏ん張り、サナに押される力に抗う。
 ズザザザザザザアアアァァァ.....
 そんな音を立てながら先ほどいた位置から二メートル以上離れた場所で、キリはようやく止まった。

「はぁ...はぁ....サナ、大丈夫っ⁈」

 自分の腕の中でぐったりしているサナに、彼女は慌てて問いかける。

「うっ ︎.......え、ええ....大丈、夫よ.......」

 サナに顔を歪めながらキリから離れる。

「っ ︎」

 しかしキリから離してもらい、地に足を着けた途端に膝から崩れ落ちた。

「サナッ ︎っ!」
「おらあっ!」
「くっ、邪魔っ!」
「ぐあっ ︎」
「ふぅっ!」
「あぎゃああぁぁぁああぁぁぁっ ︎」

 いきなり倒れたサナに手を伸ばそうとした所で、先ほどまでキリと対峙していた男の一人がこちらへと駆け寄っており、そのロングソードを振り下ろしてきた。
 それを間一髪で防ぎ、相手の剣を流して空いた胴へと剣を走らせた。
 その一撃で動きが止まった男の両脚を同時に突く。
 これによりこの男はしばらく動けなくなるので、後は邪魔になるこの男を蹴り飛ばして退かす。

「サナ、どうしたの?」
「足を、投げられた時に足を折られてたみたい」
「!投げられたって、誰に?」
「っ!しまった、ニーナがっ ︎」

 焦った表情でサナが視線をやった先にキリも目を向ける。

「.......」
「っ ︎ニーナ ︎」

 するとそこには口から血を垂らして横たわったままピクリとも動ことしないニーナと、そのニーナの側に立つ初老の男性が自身の左手を見ていた。
 サナはその光景に呆気に取られており、キリは心底驚いている。

「あの状況で、相討ち覚悟で攻撃して来るとは.....私も歳ですかね」

 などと男は言いながら左手を握ったり開いたりを繰り返している。
 その手は僅かに焦げている。
 そしてよく見ればニーナの腹部辺りを中心に焦げている。

「っ!よくも、妹をぉぉっ!!」

 そう我に返ったサナが叫び出して、襲いかかるために立ち上がろうとしたが途中でバランスを崩して前のめりに倒れてしまった。
 彼女は両脚に怪我を負っており、もはや立ち上がることすらままならないほどに悪化していた。
 右足だけならとも思っていたが、残念ながら片足だけに体重をかけるのは無理だった。
 それでもサナは諦めず這いずってでも妹の元へと向かう。



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