異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します
死闘、そして疲労困憊
時間は少し戻って、コロッセオでは死闘が繰り広げられていた。
「おらあぁっ!」
「くっ!」
二メートルほどある槌がそれに負けず劣らずの身長を持つ男が、上から勢いよく振り下ろされるのそれを、背後に飛び退いて避ける。
風圧で髪が揺れる。
「あーら、よっと!」
「っ!」
しかし槌が地面にぶつかる前に止められ、その槌はグッと上に持ち上がる。
なんてバカ力よ!
そうサナは嘆きながらも半歩身を引いてギリギリでその攻撃を避ける。
「このっ!」
そして右足で男性にとっての急所を狙う。腰と身、そして左足を軸に捻れば多少距離が伸びる。
「っと、へへ、イヤらしい嬢ちゃんだ」
「くっ!」
しかしその攻撃が当たる前に腰を引かれて避けられてしまった。
「突き出したままで良いのかっ⁈」
男はそんな体勢から踏ん張りを利かせて槌を振り下ろす。
その様にサナの口が少しだけ緩んだ。
「ニーナ!」
「えいっ!」
サナが叫んだと同時にニーナが自身の能力で固めた槍が投げられていた。
その槍がサナに一撃を加えようと槌を下ろしているタイミングで周りへの警戒が薄れた、その隙を突かれて男の顔面に向けて投げられた。
十五センチほどの槍では対してダメージは与えられない。
それを分かっている彼女は、顔面の横でその能力を解除した。
「ぎゃああぁぁあぁあぁぁぁっ ︎」
途端に彼の顔は炎に包まれた。
火炎核から生じた火を自身の能力で固め、投げつけたのだ。
サナはその飛び火を受けないように後退する。
濃度を圧縮させるために少々の時間を要するのと、ニーナも他の男たちの相手をしての援護だったので時間はかかったが、それでも彼女は完璧なタイミングで援護をしてのけた。
これが彼女たちが今も戦い続けられている理由の一つだった。
相手は即席な組(チーム)なのか、連携が上手く出来ていない。
逆に三人は互いに助け合いながら、疲労を極限にまで抑えている。
そのためここまで続けていられるのだ。
元を辿れば、こんな戦闘続きになったのは上で悠然とお茶を飲みながらこちらを見下ろしている女性が「遊戯」と言ってからだった。
どこからともなく男たちがわらわらと入ってきて、戦いが始まった。
当初は初老を相手しようと考えていたサナも、相手が全く戦う素振りがないのと途中で邪魔してくる男たちが無視出来ないほど増え始めたからだった。
殺す訳にはいかないので加減しながらも続行不能にはしなくてはならない。
それを数時間ほど続けているにも関わらずどんどん増えてきて、終わりが見えない。
さらに質(たち)が悪いのはそんな連中の中に熟練の冒険者が時折混じっていること。
今サナが相手していた相手もかなりの手練れで、不意打ちの一撃で痛めた左腕は恐らく折れている。
頼りの治癒核は使い過ぎて、すでに効力を失っているため使えない。
そのため彼女らは怪我を癒すことも休むこともなく数時間戦い続けている。
「(死ね...)」
そんな疲弊して切っているニーナ目がけて、音もなく矢を放つ者がいた。
「ふっ!」
「っ ︎」
しかし耳の良い二人には先ほどの教訓もあり、矢の空を切る音などには敏感になっていた。
そのため完全に当たると確信していた男の矢は、一瞬でニーナの元まで駆け寄ったサナの右足による蹴り上げで、へし折られた。
「はあっ!」
「ぐっ ︎」
そのことで油断している間に、キリによって斬り伏せられた。
「っ ︎」
「お姉ちゃん、やっぱり少し休んだ方が.....」
「平気よ」
なるべく使わないようにしていた右足を咄嗟に使ってしまったため、先ほど矢で射られた足が痛むのだ。
そしてその射られた場所は、まさしく東が夢で彼女がやられる瞬間を見た時と同じ場所、右ふくらはぎだった。
さらにその場所には彼女の服で一時的な手当てがされている。
「はあぁ.....はあぁ....」
「ふぅー.....ふぅー....あなたこそ休みなさい。あんまり体力ないんだから」
「私は大丈夫だよ。まだ、いける」
そう言うニーナもサナやキリほどではないにしろ全身に怪我を負っており、その表情には疲労の色が見えている。
それでも彼女はやる気の顔をしている。
「.....そう。無理しないでね」
「うん、お姉ちゃんも」
サナはそれだけ言って、キリに群がる三人の男を対処しに駆ける。
しかし───
「そろそろ私が相手致しましょうか」
「うっ ︎」
駆け寄ろうした途中で、今まで動かなかった初老の男性が動いた。
その不意の一撃は重く、まるで先ほどの槌で殴られたかのような威力を秘めていた。
それを右腕でギリギリでガードはしたものの、踏ん張りの利かなさとその威力に押されて、サナの身体は吹っ飛んだ。
「お姉ちゃんっ ︎」
幸いなことに吹っ飛んだ先に二、三人の男がニーナに向かって来ていたため、彼らがクッションとなり極限にまでダメージを殺すことが出来た。
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